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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第261話 留守番への労いダークヒール・マッサージ

久々にグッスリと眠っていた気がする。

めずらしくミルフォビアが起こしに来る前に起床を果たした俺は、カーテンを開けるとコーヒーを淹れ、一服。



……美味い。魔都に帰って来たのだと実感する。



窓からまだ朝霧に沈む魔都を見下ろしつつ、ちょっぴりため息。

もう少し、黒の森に滞在したかったのだがな。

ろくな別れもしない内に帰って来てしまった。



「キウイ様」



コーヒーを啜っていると、俺の影の中から、ヌルッと。

膝をついた状態で現れたのは、相も変わらず静謐(せいひつ)という言葉がピッタリの黒フードのすらりとした男。



「ジラドか」


「はっ。朝のお時間を邪魔立てしてしまい申し訳ございません、わが君」


「構わんよ。ところで、私をここまで運んでくれたのは君だろう? 感謝する」


「もったいないお言葉でございます。私の当然の務めなれば」



ジラドはそう言ってくれるが、まあ仮病を使ったあげくに失神して運ばれてきた自身の大迷惑っぷりを顧みれば、「そうか。それならいいけど」とは口が裂けても言えない。

オトガイやボグも含め、なにか後ほど礼をしよう。



「キウイ様、ただいまお時間をよろしいでしょうか? ご報告しておくべきことがございまして」


「うむ。黒の森の件かね? よろしく頼む」


「ハッ。キウイ様が黒の森を後にするにあたって、モナルダ様からお預かりしたお土産と言伝がございます」


「ほう?」



俺はさっそくその両方を受け取った。

お土産に関しては何ともモナルダらしいもので、言伝に関しては『魔都に行ってもいいがそのための場所を用意してくれないか』というものだった。



「なるほどな……」



暮らす場所、か。

これまでもボンヤリとは考えていたが、そろそろ実行に移すべき時が来たのかもしれない。



「家でも建てるか」


「家、でございますか?」


「うむ。私はすでに医院を持ってはいるが、なんといまだ自宅を持っていない」


「ここが自室なのでは?」


「ここは客室だ。魔王陛下の好意によってずっと借りているにすぎないのだよ」


「そう……だったのですか」



ジラドがグルリと周囲を、資料やら何やらがアチコチに積み重なった部屋の有様を見渡した。

『こんなに好き勝手に使っておいて?』とでも問いたげである。


これでもまだマシな方だ。

ミルフォビアが週に数回掃除をしに来てくれなければ、きっと室内は海となっていただろう。

私の趣味であふれ返る海だ。



「今は研究所に部屋を設けているアネモネたちにも住む場所を用意すると言っておきつつ、ずっと保留にしたままだったからな。これを気に、全員分の生活の場を設けるのもいいかもしれん」


「……お待ちください。キウイ様のおっしゃる家とは、キウイ様が暮らす場所を指すのではないのですか?」


「む? その通りだ。私も暮らす」


「そして、エルフたちも?」


「そうだ。アネモネも、ローズも、キンセンカも、モナルダも」



他にも、ムコムゥや八大獄門番たちの部屋も用意しておくべきか……。

いや、研究所に近い寮の方がいいだろう。

となると医院スタッフの寮も用意しなければ不公平というもの。



「やはり、仕事と研究がより効率的になる暮らしの場を整えなければな……」


「さすがです。やはり最優先にお考えなのは研究のことでしたか」


「むろん、生活の豊かさを上げたいという狙いもあるぞ。福利厚生の提供は雇用者の務めであるからしてな」



現状、部下たちには毎月の給料と適切な休暇くらいしか与えられていない。

戦争も一段落しているのだし、そろそろ暮らしの豊かさを追求するべきだろう。



「ゆえに当然、ジラドやミルフォビアくん、そしてシェスの部屋も用意するつもりだ」


「ありがたき幸せにございます」



ガタンッ。

俺たちが話している途中で、部屋の外で何やら物音がする。

というか、ドアに何かがぶつかった音がする。



「なんだ? 朝早くから来客だろうか?」


「……キウイ様、もし早朝からお邪魔にならないようでしたら、迎え入れてやっていただきたく」


「フム?」



客室のドアを開ける。

すると目の前で膝を着いて待機していたのは、シェスだった。



「おっ、おはようございますキウイ様!」


「……おはよう、シェス。ところで、いつからそこで待機していたのかね……?」


「いえ、キウイ様、私はたった今来たところです!」


「いえ、キウイ様、シェスは昨晩ミルフォビア様が部屋を後にしてからというもののずっとそこに待機しておりました」



たぶん、ジラドの報告が真実だろう。

シェスは昨晩から寝ずの番をしていたに違いない。

だって、やりかねないから。

先ほど不意に自分の名前が呼ばれたから、とっさに反応してしまってドアに体をぶつけた……というところか。



「夜通しの番ご苦労だったな、シェス」


「い、いえっ!」


「とりあえず部屋に入りなさい」


「よろしいのですかっ! 失礼いたしますっ!」



シェスは勢いよく立ち上がるや、ヒュンッ! と。

一息に俺との間合いを詰めてくる。

ジラドが「ホウ」と感心する。



「見事な足運び……縮地歩法か。われわれが黒の森に行っている間に腕を上げたようだ」


「いえ、今編み出しました」



シェスはキラキラとした、いや、どこか充血したまなざしで俺を見上げてくる。

ものすごい間近で。

鼻息も荒い。



「キウイ様、よくぞご無事でお戻りになられました! 危険なことはございませんでしたかっ!? 私は、それはもう心配で心配で!」


「大丈夫だったよ。みんな、よく私を守ってくれていた」


「そうでしたか……それならよかったです」


「だがまあ、オトガイくんはまだ少し危なっかしかったかな。シェスの優秀さを改めて実感した。今後ともよろしく頼むよ」


「……! はいっ! たとえ地獄の果てからトイレの中までであろうとも、どこへでもお供しますとも!」


「トイレはいい。一人で入る」


「いえ、一人では何かとご不便ではっ!?」


「二人いた方が不便だ……」



シェスがいつにない勢いで前のめりになってきているので、俺は背筋を反らすしかなく、倒れそうになるその背をジラドが支えてくれていた。

組体操みたいだ。



……シェスは一長一短が忠義に集約され過ぎだな。



私が黒の森に出かけていたのなどほんの一週間ほどだというのに。

それだけの期間を離れていただけでここまで暴走してしまうとは。



……いや、もしかしてそれだけが理由ではないのか?



「シェスよ。君、いったいいつから寝てないのだね?」


「ほんの三日です!!! キウイ様がもうすぐ帰ってきてくれるかと思うと、夜も寝つけず鍛錬を重ねておりました!!!」


「……なるほど」



これ、寝不足末期の症状だ。

いわゆるランナーズハイの状態に陥っているに違いない。



「シェスよ、ヘルムを脱いで頭を出しなさい」


「……? ハッ!」



俺の言った通り、シェスは金属製のソレを外すと、会釈するように頭を向けてくる。

俺はそこへと手を載せた。



「──キウイ様ッ!? これはッ……!?」


「いや、ほんの感謝の気持ちだとも」



俺は手に紫色の魔力を宿らせる。

ダークヒールだ。



「改めて留守番ありがとう。よく務めを果たしてくれたな」


「キ、キウイ、しゃまぁ~~~……!」



俺が頭の上の手を動かすと、そのたびにシェスが気持ちが良さそうに声を上げる。

そうだろうそうだろう?

気持ちが良いだろう?

なにせ俺は、寝不足代表魔国幹部であるエメラルダの疲労回復ダークヒールをする過程で、よりリラックスできるツボを習得してきたのだから。



「こりぇが、ナデナデ……主君より賜りぇし、最大(しゃいだい)のご恩……!」



シェスはひとりで何やら呟くと、そのままフッと脱力するように俺の胸へともたれかかっていた。

どうやら最大級のリラックス効果で寝落ちしたらしい。



「それにしてもまったく。シェスはどうしてこう、寝不足になるまで仕事をしてしまうんだか。適度に睡眠をとった方が捗るだろうに。そういうところは世話が焼けてしまうな」


「…………そうですね」



ジラドがちょっと間を置いてからそう返してくる。

む?

何やら物申したそうな目をしている……。

ちょっと呆れたような、あるいは不服そうな目だ。

あ、そうか。



「ジラドも受けたいのかね? ダークヒール」


「……ッ! 私も、よろしいのですかッ……!?」


「無論だ。君もよく頑張ってくれた。とはいえ、先にシェスを私のベッドへと運んでくれまいか? そろそろ、シェスの体を支える私の腕が限界だ……」


「ハッ!」



ジラドは俺の胸の内で寝息を立てていたシェスを抱えると、速やかにその鎧を外し、そしてベッドへと寝かせ布団をかけてやってくれる。



「……では、キウイ様!」


「うむ」



ジラドの頭にも手をやって、ダークヒールをかけてあげる。



「……ッ! ……ッ!!! ……ォォッ!!!」



声には出さないものの、ジラドの体は正直だった。

普段はほとんど感情を表に出さないジラドが、頬を紅潮させ、身をよじる。



「ほうほう、そんなにいいかね? よろしい、もう少し強めにしてくれよう……!」


「キ、キウイ様っ! あッ! それ以上は、なにとぞ──」



ギィ。

客室のドアが開く。



「ア、アラヤ様、ジラドさん……!? い、いったい二人は何をしてるんです……!?」



ミルフォビアが、愕然とした表情で入り口から私たちの様子をうかがっていた。

それに気づくやいなや、おや、ジラドは慌てた様子で影の中へと潜ってしまう。

どうしたことだろう。

まだ施術の途中だったのに。



「ジラドさんの慌てっぷり……まさか、本気で……」


「おはよう、ミルフォビアくん」


「おはようじゃないですよッ!」



ピシャリと言われてしまう。

……おはようじゃないのか?



「ごきげんよう?」


「違うッ!」



ミルフォビアは俺の言葉を突っぱねると、ツカツカと歩み寄ってきて、俺の肩をガシリと掴む。



「い、いつからですかっ? いつから二人は、そんな関係に発展して……! 黒の森でですかっ!?」


「関係?」


「だって今、完全にヤッて──」


「ミルフォビアくんもやるかね?」


「へぁ!? わたくしもっ!? なっ、ななな、何をっ?!」


「何って、ダークヒールだが」


「…………はぁ?」



ミルフォビアは湯気が立ちそうなほどに顔を赤くしたまま、心底わけがわからないといった表情で、その首を傾げるのだった。



いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第262話 エメラルダと想定越えのキウイの成果報告」です。


次回は2/27更新予定です。

それでは次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。


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