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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第255話 ピクニックじゃないんだぞ!?

薬局の奥、調剤室へと踏み込んだ後のシェスたちの動きは非常に迅速だった。

アネモネが聖術を行使したことによって、魔女たちに奇襲を悟られてしまった可能性を考慮してのことだ。



「……!」



調剤室のさらに奥に繋がるドアの向こう側に、人の気配を感じ取った。

やはりか。

シェスは軽く舌打ちすると、しかし迷わない。

ドアを勢いよく蹴破った。



「ゲベッ!?」



シェスの脚は、ひしゃげさせたドアごと、そのすぐ後ろに立っていた魔女の腹へと突き刺さる。

先ほどの老婆を拘束した際に立ててしまった物音を聞ききつけて、様子を確認しに来ようとでもしていたのだろう。

だが、今や魔術を使う間もなく、血反吐を吐いて悶えていた。

運が悪かったと言うほかない。

作戦行動にあたり、シェスの五感は野生の動物並みに研ぎ澄まされているのだ。



「しばらく眠っていなさい」



シェスは周囲へと気を配りつつ、速やかに片手でその魔女の頸動脈を的確に押さえつけると昏倒させた。



「どうやらここは……薬局の裏側にある建物らしいですね」



おそらくは廃ホテル。

そのロビーらしかった。

他に魔女の姿はない。

だが、シェスの聴覚はホテルの上階で慌しく足音が立ち始めるのをとらえていた。



「無理のない範囲で生け捕りにして、早々に撤収しましょう。逃げられて仲間を呼ばれると面倒です」


「ああ、そうだな」


「そうしましょう。私は親玉がいそうな最上階を目指します。十分後にこのロビーへ再び集合で」


「いや、シェス、単独行動は危け──」



ローズが異を唱えようとするも、間に合わない。

シェスは風のような速さで一人、ホテル上階へと続く階段を駆け上って行ってしまった。

その場に残されたのはエルフ三人娘たち。



「まったく……キウイがいないと猪突猛進だな、シェスは」



どうやらこの場においての頭を回す役目は自分らしいと悟って、ため息交じりにローズは周囲を見回した。

そして目を付けたのは障害物で封鎖されたホテルの正面玄関。



「よし。この廃ホテル内の魔女の拘束は私とアネモネでやる。キンセンカはここに残ってあの入り口を開けておいてくれ」


「え? どうして?」


「拘束した魔女を何人も運ぶことになるからな。あの狭い薬局の入り口をその出入りに使うのはリスクになる」


「おお、なるほどぉ。でも、廃ホテルの玄関を開けたら目立つんじゃない?」


「多少はな。だが、表通りの小さな薬局前でもたつくよりかはいくらかマシだ」



何よりも大事なのは時間の短縮である。

時間をかければその分だけ目撃者は増えてしまうし、間違いなく増援の可能性も高まるだろう。

そうなるくらいなら、多少人目を引くことになっても、廃ホテルの玄関から一気に拘束済みの魔女たちを運び出してしまった方がいい。



「だからキンセンカは玄関の開放できたら、外で待機させてるティガーたちに、馬車をそこまで回すように伝えるんだ。その後は再び入り口が封鎖されないよう、集合時間まで透明化して見張りをしてくれ。わかったか?」


「りょーかい~」


「アネモネもそれでいいな?」



ローズの問いに、しかし反応はない。



「アネモネ?」



振り返った先、しかしあの特徴的な薄紫色のドーナツヘアの姿はなかった。

ホテルのロビーのどこにもいない。



「なっ……アイツ、どこ行ったっ!?」


「アネモネなら、ローズがため息を吐いてたあたりで、モジモジしながらどこかに走って行っちゃったよぉ?」


「自由行動が過ぎる! ピクニックじゃないんだぞっ!?」



ローズの悲鳴にも似た声に、しかし残念ながら集まる同情はない。

みんな自分勝手なのだ。






* * *






~【Side:秘密結社】~




「──訓練中止! 集まれ、われわれは襲撃を受けている!」



そのアジト監視の任に就く魔女の声が響き渡ったのは、廃ホテル中階層のホール。

テーブルなどは一切置かれておらず、今は魔女たちの広い訓練場として使われている場所だ。

そこではカラスを中心とした精鋭魔女五人が、明日の元反社会組織ドローガへの襲撃、そしてその際の対エルフ戦のための最終調整をしている真っ最中だった。

だというのに、



「襲撃、だと……!?」


「謎の仮面を被った女たちが、薬局からの入り口を蹴破って侵入してきている! 見ろ、エルフもいるようだっ!」



監視の魔女が両手に持った大きな鏡。

そこに映し出されているのは廃ホテル一階ロビーの様子だ。

視覚共有の魔術によって、一階に巣食う使い魔──黒鷲の視界を借りていた。



「最悪だ……」



侵入者は四人。

全員仮面をしているから素性はわからない。

だが、その内のフードを脱いでいる一人はその耳の形状からしてエルフであり、なおかつ、薄紫色のドーナツヘアだった。

明らかに、今朝カラスをたやすく撃退してみせたエルフとは別人である。

それが意味するところはつまり、ドローガに与するエルフが二人以上いるということであり、その戦力はこちらの想定をはるかに上回っているということだ。



「……このアジトは放棄する! ディーナ様へと繋がる情報は無いはずだが、念のため最上階の資料室は燃やし尽くしてから逃げるよう、上階の魔女たちに連絡を!」


「カラスたちは!?」


「それまでの時間を稼ぐ」



カラスは侵入者の内、一人でモジモジしながらそそくさと走り出していくエルフへと目を付ける。

まずは、この強者を何とかしなければならない。



「その他の同胞たちには、エルフを除いた侵入者たちへと距離を取りつつ、時間稼ぎを目的としたハラスメント攻撃を仕掛けるように指示を出しておいてくれ。このエルフを倒した後、私たち精鋭部隊が各個撃破していく」


「……わかった。幸運を祈るぞ」


「ああ、任せろ。薄黄色髪のエルフじゃないだけ、まだ勝算はある」



瞬間移動にも似たあの術式はきっと、そのエルフ固有のもののはずだ。

そうでなければ、とっくに国と国のパワーバランスなんて崩れているから。

魔国はとっくの昔に西方エルフ国家に呑まれていなければおかしいだろう。



「! 侵入者のエルフが、二階のトイレを覗いているようだぞっ?」


「トイレ? まさか、誰か魔女を追っているのか?」


「いや、あのトイレには誰もいないはずだ……汚いから誰も使ってないし」


「なら、いったい何の狙いがあって……? まあいい。ともかく、自ら行き止まりに入ってくれるなら好都合だ」



カラスたちはローブをひるがえし、大股でホール外へと向かう。



「五人で奇襲をかけるぞ。われわれ氷眠の姉妹たち(フリージアズ)の底力を上位種(エルフ)に見せつけてやる!」




いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第256話 百泄不撓(ひゃくせつふとう)のエルフ<花摘み>」です。


次回は2/13更新予定です。

それでは次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。

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