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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第253話 さる果実を失いし日

「──マスク・ザ・メロンについてを探る、魔女の秘密結社からの強襲ねぇ……」



研究所内部の会議室にて。

ティガーらが改めて共有した内容に、椅子を後ろに傾けながら相づちを打ったのは、エルフのアネモネだった。

あまり興味が向かないといったその様子に、シェスが目を三角に尖らせる。



「アネモネさん、これは明確なわれわれの組織に対する攻撃ですよ。真面目に聞いてくださいっ」


「とは言ってもなぁ。みんな無事だったんだし。それに、キンセンカが相手をして、魔女たちにはけっこうな痛手を負わせたんでしょ? なんか、あまりモチベーションが上がらないんだよねぇ」



そう言って、小さくあくびまでしてしまう。

それにムッとしたシェスが、さらに言葉を畳みかけようとした、その前に。



「アネモネのモチベーションを上げる情報なら、実は少しあるんだよね」



割り込むように口を挟み、得意げに微笑んだのはキンセンカだった。



「僕、魔女たちを逃がしちゃったじゃない? その時に彼女らが使った魔術がけっこう特殊でさぁ」


「……特殊?」



アネモネの、エルフ特有の鋭い耳がピクリと揺れた。

そして視線もまた、その薄黄色の髪の友達へと吸い寄せられてしまう。



「それって、どんな風に?」


「たぶんあれは…… <魔力の移譲>じゃないかと思うんだよね。しかも受け取り側は二人から同時に魔力を流されてた」


「複数名からの魔力の移譲、かぁ……へぇ……!」



ガコン。

後ろに傾けていた椅子を勢いよく元に戻すや、アネモネはテーブルの上に前のめりになった。

先ほどまでと一転して、その瞳をキラキラとした知的好奇心でいっぱいにしている。



「魔力や聖力の移譲って、原理的にかなり難しいはずだよね? すぐに霧散しちゃう気体をそのまま渡されても、手のひらには何も残らないようにさ」


「そうだねぇ。少なくとも、西方エルフ国家にはそれを可能にする術式はなかったはず」


「どうやってるんだろ……!? 気になるなぁ!」



アネモネは鼻息も荒くシェスへと振り返る。



「で、魔女の生け捕りっていつ行く? 今? 私も行くよ!」



そのあまりの変わり身の早さに、シェスは思わず呆れてしまう。

とはいえ、モチベーションが上がったのであればそれに越したことはない。

興奮するアネモネの後ろで両手で交互にピースを繰り返しているキンセンカに、シェスは目線で感謝を伝えつつ、



「問題は魔女たちの居場所がわからないことですね。報復と生け捕り……どちらをするにしても現状では情報が足りなさすぎます」


「そんなの、足りないなら集めながら動けばいいさ」



アネモネが軽い調子で言った。



「だいいち、敵の居場所なら絞り込めるでしょ。ねっ? ローズ?」


「っ!」



アネモネの言わんとするところを悟ってか、その隣で座っていたローズがその表情をしかめる。

その反応を見て、シェスもまた「あっ!」と思い至った。



「占星術ですねっ? 確か、ウルクロウ様の救出にも用いてくれていた……」


「そう、それだよ」



アネモネは、わが事のように誇らしげに腕を組む。



「ローズの術式なら、数回使えばだいたいの敵の位置はわかるはずだよ。そしたら威力偵察くらいできるでしょ」


「確かに……!」



シェスはローズへと、輝かせたその目を向ける。



「お願いできますか、ローズさんっ?」


「……いや、でもあれは……」



渋り、モジモジとするローズ。

そんな姿にアネモネは呆れたようなため息を吐いて、



「相性占い付きだからイヤなの? 別にいいじゃん。デメリットもないし。レアな術式なんだからそのまま使おうよ」


「あるだろデメリット! なんで知りたくもない敵との相性を知らなきゃならんのだ!」


「自分で構築した聖術じゃないか」


「……くぅ、なんで昔の私は、相性占いなんて組み込んでしまったんだ……!」



ローズは頭を抱えつつ、自らの聖杖を見やった。

その内部の空洞に筒状に丸めて収められた占星術の聖典……その内容を思い返すと後悔は止まらない。

なにせその複雑怪奇な中身は、相性占い要素を抜こうとすると、たちまちに占星術全体の正確性が薄れてしまうという、最悪な依存関係を持ってしまっているのだから。



「どうか、占星術をお使いいただけないでしょうか? ローズさん」


「うぅ……」



シェスの生来のものであろう誠実な瞳が、これまた生来のものであろう生真面目なローズの瞳を覗き込んでくる。



「わ、わかったよ……」



その赤髪のエルフは、頬までも同じ色に染めつつ、諦めたように小さく肩を落とした。

自分一人の恥じらいがために、研究所を守ろうとするこの騎士の行く手を邪魔するわけにはいかない。



「やればいいんだろう、やれば」


「! ありがとうございますっ!」



そうと決まれば、さっそく行動だ。

シェスたちはローズを連れ、星の力を借りることのできる中庭へと移動し、聖術を発動してもらう。

魔都の中心へと向けて掲げた聖杖の先に現れた幾何学模様が、黄色い光を灯した。



「……ヒットだ。やはりその秘密結社とやらが、魔都を拠点にしているのは間違いないらしいな」


「この調子で、次は魔都の中心で占星術を使用すれば位置が絞り込めそうだね」



アネモネは満足げにシェスを振り返る。



「じゃあ次は誰が威力偵察に行くかだけど、私たちエルフ三人組で行ってこようか?」


「いえ、私もついていきます」



アネモネの申し出に、食い気味にしてシェスは答える。



「キウイ様と約束しましたから。敵が来た際には、地の果てまでだろうと追いかけ、生け捕りにしてみせます、と」


「んー……過剰戦力だと思うけどなぁ……」



ともあれ、威力偵察班は決定する。

シェスとエルフ三人娘による、即日の行動が開始された。




──のちに、裏社会で長年潜んでいたはずの魔女たちが、一斉に消し去られた事件の起こったこの日を、裏の住人たちはこう呼んだ。『()る果実を失いし日』と。




こんなウワサが、裏社会へと広まった。



『例の魔女たちはあの <禁断の果実>を探り、そして報復を受けたらしい』


『あの果実の名を口にした者を、仮面美女たちが消し去りにやってくるらしい』



スネに傷を持つ裏社会の者たちはみな怯え、言葉数も少なくなった。

これまで馴染み深かったその果実の名を、ふいに口に出してしまわぬように。

もはや、あの果実の名を、声を大にして呼ぶことはできない。

ゆえに、親しい仲間へと、家族へと。

声を潜めつつ、幾度となく喚起する。



『マスク・ザ・メロンの名を呼んではならない』と。



いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第254話 別にここで漏らしてしまっても構わないけど?」です。


次回は2/9(月)更新予定です。

それでは次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。

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