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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第250話 四百年の研鑽~お仕事から逃げるための聖術~

「に、二度寝スポット、だと……!? ふざけたことを……!」



魔女たちのうち、先頭の一人の黒曜石のナイフのように鋭いまなざしが、キンセンカへ、そしてその後ろであからさまに安堵した様子のティガーへと向けられた。


魔女は確信する。

全て、この男の計算づくだったのだと。

迷いなき逃走は、このエルフと合流するためのものだったのだ。



「……しかし、エルフと親交があるとは。やはり、われわれの狙いは外れていなかった……!」



彼女らの主である北の魔女ディーナはこう言っていた。『マスク・ザ・メロンが治める組織は魔国軍と深い関りを持って、独占的にポーションを売っているようだ』と。


現状でエルフを御せるような民間組織は魔国に存在しない。

魔国軍のみだ。


つまり……ティガーらの組織は魔国軍と懇意にしているとみて間違いなく、すなわちマスク・ザ・メロンが黒幕にいると考えるのが自然。



「全員、捕らえて話を聞かせてもらおうじゃないか」


「えぇ? 僕と戦うつもり?」



臨戦態勢に入り、ローブの内側で黒々とした魔力を立ち込めさせる魔女たちに、キンセンカは重たいため息で応える。



「面倒くさいなぁ。おとなしく引き下がってくれない?」


「フン。強者の余裕か? 自分がエルフであるということに、これまでよほどあぐらをかいて生きてきたらしい」


「……こんな朝早くから運動なんてしたくないだけなんだけど、僕」



そう言ってキンセンカが小さく押し殺したアクビ。

それにニヤリ、と。

魔女たちはほくそ笑む。



「百年を超す研鑽を積んでいるのが、エルフだけだと思うなよ……!」



そう口にするや、魔女たちの体から、これまで抑えていたのだろう膨大な魔力がほとばしった。



「おおっ?」



キンセンカが目を丸くする。

それも当然だろう。

その魔力量たるや、魔国軍の中でも上位の魔族らとなんらそん色はなかったのだから。


──北の大地エヴァーフロスト。


北の魔女ディーナが治めるその領地は、百年前の魔国統一戦争において、魔王ルマクらに敗北を喫しながらも、その牙を折られることのなかった唯一の『大国』だ。

雪辱を果たすべき日に備え、北の魔女の一団は水面下で、その力と技術を向上させ続けていた。



「寿命に追われることなき怠惰なエルフめ! 限りある命の中で磨き上げたわれわれの力を畏れるがいいッ!」



先頭の魔女が物理的な攻撃力を持つ大きな魔術球をキンセンカへと放つや否や、残る二人の魔女たちが細い路地の上空へと飛び上がる。

上空の一人はエルフの反撃を許さぬよう、無数の針を降らせるかのような絶え間のない攻撃をしかける間、もう一人が高速で前方へと抜け、キンセンカの背後へ回った。



「とったッ!!!」



勝利を確信するように、嬉々として魔女が叫ぶ。

間違いなく、それは並みのエルフが相手なら確実に屠れるだけの、高精度なコンビネーションだった。

だが、



「僕が面倒くさがりなのは認めるけど……でも、納得はできないかなぁ」



二人の魔女の度重なる攻撃を光の壁で防ぎ、余裕などないはずのキンセンカはしかし、慌てた様子もなく後ろへと回り込んできた魔女へと振り返る。



「それでも僕たちは果てしない命の中で研究をし続けているエルフだもの」



その瞳に満ちるのは、揺らぐことのない自信。

四百年の時を生きる彼女の手に持つその聖杖は、彼女と同じ髪色、薄黄色に輝いていた。

とたん、



「なっ……!?」



攻撃魔術を放とうとした魔女が、その目を大きく見開いた。

キンセンカの姿が、跡形もなく消えたのだ。



「くっ……!? これは幻術かっ!?」



魔女たちは警戒しつつ、辺りの反応を探る。

景色に幻を重ね、姿をくらませる術式自体は難しくない。

長い年月をかけてあらゆる術式をその身に習得させてきた魔女たちにもできる芸当だ。

ゆえに当然、ソレを暴くための術式だってお手の物。

そのはず……なのだが、



「違う……本当に、いない……? 音も、熱も……存在が完全に消えている……!?」



その彼女たちをも驚愕させることが起こっていた。

エルフの使った術式は幻術などではない。

本当にこの場から消え去ってしまっているのだ。

それだけではない。



「おいっ、見ろ! 八大獄門番たちの姿もないぞっ!?」



路地から消えていたのはエルフだけではなかった。

いつの間にか、エルフの背後にいたはずのティガー、そしてフリージアの姿もない。



「そんな……! さっきまでソコにいたのにっ!?」



三者三様の困惑の表情を浮かべ、魔女たちは周囲を捜索する。

しばらくの間探したが、しかし、影も形も見当たらなかった。



「どうなってるんだ……」



三人の魔女たちは集まって顔を突き合わせる。

探そうにも何の手がかりもない。



「まさかとは思うが……瞬間移動、なのでは?」


「バカな! あり得ない! そんな理外の力、たとえエルフといえど使えるはずが……」


「待て待て、今はそんなことより、この後どうやってヤツらを追うかを話し合うのが先だろう。まずは仲間と合流をすべきだ」



情報源を取り逃がしはしたものの、それでも収穫はあったのだ。

元麻薬組織ドローガの変貌の黒幕にマスク・ザ・メロンがいる可能性は非常に高いだろう。

このまま未知の術式を使うエルフを追うリスクを冒すよりも、今得た情報を仲間たちへと持ち帰り、対応策を全員で考える方がいい。



「……わかった。そうしよう。組織へ帰るぞ」



魔女三人の方針が一致した、そのときだった。



「──へぇ、組織があるんだ」



彼女らの背後から唐突に響くのは平淡な少女の声。

どこを探してもいなかったハズのキンセンカが、いつの間にか後ろに立っていた。

その手に持つ聖杖から、力強い光をほとばしらせながら。



「え」



魔女たちには、振り返るヒマも与えられはしない。

巨大な光の弾──エルフたちが光の壁と並んで一般的に使う攻撃用聖術であり、人類国家へも浸透している神の言弾(コトダマ)──が、直撃とともに彼女らを輝きの中へと呑み込んでいた。



「ガハァ──ッ!?」



その威力・速さともに、人間の聖職者たちが使うソレとは次元が違う。

魔女たちは吹き飛ばされ、受け身も取れずに路地裏を転がった。

聖力に焼かれたその身からは、灰色の煙が上がる。



「あれ、誰も死んでないなぁ……?」



不思議そうに首を傾げるキンセンカ。



「そのローブ、ひょっとして防御術式付き?」


「……ハァ、ハァ」



魔女たちはその問いには答えず、痛む体にムチを打つようにして立ち上がる。

たったの一撃食らっただけ。

だというのに、すでに全員、満身創痍だった。



「な、なぜ……!」


「ん~?」


「いったい、どんな聖術を、使った……!?」


「瞬間移動……だと思う?」


「っ!!!」



怖気づいたように後ろに退く魔女たちを見て、キンセンカは小さく微笑んだ。



「僕は数百年この聖術の研究をしているからねぇ。悪いんだけど、そう簡単に見切れるとは思わないでね」



そうは言うものの、しかし当然、キンセンカは瞬間移動などという西の賢者メリッサを越えるほどの聖術が使えるわけではない。



──キンセンカの極めし術式は <透明化>。



自らを含め三人まで、周囲の人々から認識できなくさせる聖術だ。


光を屈折させて姿を消すのは序の口である。

なにせその程度の目くらましは、ローズやアネモネといった、彼女よりもよほど優秀な友人たちに早々に見破られてしまったから。

ゆえに、生活上の掃除当番などの雑務を回避し、ローズらに押し付けんがために、四百年という長い月日をその研究に費やしたのだ。



──全ては、より確実に怠けるために。



生来の怠惰が研究の初期衝動となり、キンセンカはソレを極めた。

今や、彼女は生きていれば自然と起こる鼓動や足音、発せられる熱、そして動くことで起こる空気の微細な波すらをも、逆位相の力で打ち消すことまでできるようになっている。


ゆえに瞬間移動ではなく、ただのかくれんぼだ。

先ほども、キンセンカはただ自らの術式を発動してからティガーらの元へと走っていくと、その場でジッとしていただけ。



「クッ……! これほどまでか……エルフ……!」



だが、そうとは知らない魔女たちは瞬間移動を警戒せざるを得ない。

先頭の魔女は、眼前のその底知れないエルフと、そしてその彼女と同様に再び姿を現していたティガーらへと視線をやり……そして、口惜しそうにその口元を歪めた。



「……例の術式を私へ!」



二人の魔女たちが、先頭の魔女へと何らかの魔術をかけた。

いや、正しくは、何らかの術式によって魔力を注ぎ込んでいるのだ。

その未知の術式に、キンセンカは身構える。



「まだ戦う気? しょうがないなぁ……」


「喰らえッ!!!」



先頭の魔女がその手を振るう。

すると放たれたのは、先ほどよりも巨大な魔術弾だった。

視界を覆い尽くすほどのその攻撃に対して、キンセンカは光の壁を前方に作りつつ、周囲を警戒する。

この攻撃を目くらましに利用し、他の攻撃を仕掛けてくる可能性を考慮して。

魔術弾を、光の壁が受け止める。



「ンンッ!」



巨大なその攻撃は、やはり先ほどよりも高威力。

光の壁にヒビが入り、そして魔術弾と相殺した。

そして、



「……んん?」



キンセンカは首を傾げた。

すでにその眼前からは、魔女たちの姿が消えていたのだ。

もしや透明化の意趣返しか? と。

そう考えた彼女は、周囲一帯を調べ尽くしてみるが、彼女らが隠れている様子はない。



「んーと……逃げられちゃった? みたいだねぇ」



唇を尖らせつつそう言うと、しかしキンセンカは肩の力を抜いた。



「……ま、いっかぁ。こっちも命拾いしたと思えば、それで」



ぶっちゃけ、最初の不意打ちで仕留め切れなかった時点で、勝負の行方はまだ完全にはわからなかったのだ。

あのまま戦闘続行になったとしても、まあ八割五分くらいで勝てると踏んではいたが、しかしティガーたちを庇いながらではできることに限りもあった。


それに向こうに冷静さがあればキンセンカの聖術のタネを見破るのはたやすかったハズ。なにせ、瞬間移動が使えるならティガーたちをこの場に留めておく必要などないのだから。



「それにしても魔女、か。面倒だなぁ……」



魔都の本日の天気は禍々しい晴れ模様。

魔国は直射日光がないので、二度寝どころか三度寝までしたい気分だったのだが、そうも言ってはいられなくなった。



「とりあえず帰って、今回の件について <彼女>に伝えなきゃね。」


「だ、大丈夫っすかね。ここ数日、あの方は心ここにあらずみたいっすけど」


「うーん……でも、やることができれば、多少は気が紛れるんじゃないかなぁ」



心配そうなティガーへと答えると、キンセンカは再び透明化の術式を発動する。

そしてティガーとフリージアを伴ってアラヤ研究所への道を急いだ。



いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第251話 キウイ欠乏症の女騎士、使命に燃える」です。


次回は2/2(月)更新予定です。

それでは次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。

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