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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第25話 女騎士ゾンビ

女騎士のゾンビを先頭に、俺たちを抱えた二体のゾンビは歩き続けていく。

その間、魔王城にいるであろう警備にも、ゾンビにも出くわすことはなかった。

と、いうのもこれは先頭を行く女騎士のゾンビの力によるものであろうと推測ができた。



……もしやとは思ったが、聖騎士のゾンビで間違いないだろう。



女騎士ゾンビは自らの腰に差していた剣を高々に掲げて、その切っ先からオレンジ色の温かな光を広げて俺たち全体を囲っていた。

それは王国軍のパレードで何度か目にしたことがある。

隊列を組んだ王国兵の前を行進する聖騎士の " 聖術 " に似たものだった。

確か、その効果は一定の範囲から魔を退けるというもの。



……この光の下にいる限り、その周囲の魔族やゾンビといった悪の位相に位置する者たちは " なんとなく " こちらに寄ったり視線を向けたりしたくなくなるんだったっけな?



要は、聖騎士の使う対魔限定の " 目くらまし " といったところだ。

それにしたって、珍しい。

聖なる者がゾンビになるとは、いったいどんな経緯があればそんなことになるのか。

まったくもって興味が尽きない。



〔あぅ……うぁぁぁ〕



女騎士ゾンビはそして、誰も寄り付かないであろう魔王城の建物と建物の間のスペースまでたどり着く。

すると、



『よしよし……よくやった。そのまま連れてこい。傷つけぬようにな』



どこからともなく、風に乗るように低い男の声が響く。

かと思うと、目の前に地下へと続く階段が現れた。

どうやら魔術的な仕組みで巧妙に隠されていたらしい。

真っ暗闇の空間を、女騎士ゾンビの聖術に照らされながら、俺たちは下へ下へとくだっていく。



……先ほどの声はいったい誰のものだろう。



魔王城の関係者かと一瞬考えたが、その線は薄そうだ。

魔王の目が光る城下で、魔王の意向に背くマネをするわけがない……たぶん。



「ふむ。そうこう考えているうちに、ようやく一体か」



ズシン、と。

俺を抱える筋骨隆々のゾンビは最後の一歩を踏み出すと、その場で立ち止まって動かなくなった。



──ダークヒール、完了。



なかなかに手ごわい治療だった。

しかし、



「脳にあった歪な魔力のかたまり……やはりこれが君を制御する核だったようだね」



こちらから魔力を送り、別の魔力を相殺するのは難しい作業ではない。しかし今回の魔力に関しては絡まって玉になった紐を解くような苦労があった。



「ついでに食欲も止めたが恨まないでおくれよ、私はまだ食べられたくはないんだ」



行動に制御がかからなくなった結果、俺やミルフォビアへと噛みついてくる可能性は充分にあったからだ。

なお、食欲を止める方法は簡単である。

患部からの出血を防ぐ治療法と同様に、魔力で障壁を作り、物理的に電気信号が脳の三大欲求を(つかさど)る部位にいかないようにすればよかった。



……対象に意思があれば当然、脳をいじられることに違和感を覚え抵抗されるが、これについてはゾンビという意思のない存在が相手で助かったな、本当に。



「さて、次は……」



俺は筋骨隆々のゾンビの腕から降りると、未だにミルフォビアを抱えて歩き続けている方の盗賊系のミイラゾンビに触れる。

特に抵抗はされない。

先ほどの声の主による『傷つけるな』という命令のせいだろう。

筋骨隆々のゾンビの方を止めるのと方法は同じだったので、今度はほんの一分程度でその機能を停止させることに成功する。



「ゲホッ、ゲホッ……!」



ミルフォビアはミイラゾンビから逃れられ、そしてその体を緊縛する縄も解けた瞬間、地面に両手をついて大きくせき込み始める。

まあそれも仕方あるまい。

ずっと屍者(ししゃ)の手に口をふさがれていたわけだから。



「ア、アラヤ様……ありがとう、ございます……」


「いや、構わない。ゾンビの無害化が遅くなって悪かったね」



さて、残りは女騎士ゾンビだけだ。

そちらを見やれば、女騎士ゾンビは聖術によってオレンジ色に光る剣を高く掲げたまま、自分についてこなくなった俺たちを振り返ってジッとしていた。



「君の脳についても診たいところなんだが……」


「アラヤ様」


「……わかっている。今は安全確保が第一だな」



名残惜しいが、俺はミルフォビアへと手を差し伸べて立たせると、連れて来られた道を歩いて帰ろうとする。

しかし、グイッと。



〔うぁ……ヴぁ……〕



女騎士ゾンビが俺の肩を掴んできて離さない。



「なるほど……君の主による『連れて来い。傷つけないようにな』という命令がある以上、私たちが帰る妨害はしてくるというわけか」


「アラヤ様、このゾンビたちの主とは、先ほどの声の……?」


「おそらく、たぶん、きっとね。何もかもが憶測(おくそく)だらけではあるがそう考えるのが自然だろう」



とにかく、今この場から逃れるには、この女騎士ゾンビの脳もいじらなければならないというわけだ。



「まったく困りものだが、そういうことなら仕方ないな? 君の脳も診るしかあるまい」


「……なんでこんな時にまでちょっとうれしそうなんですか?」



ミルフォビアのあきれ顔を横目にしつつ、俺は女騎士ゾンビの顔へと触れる。

そこから脳へと魔力を流し込んでいく。

手順は先ほどの二体と同じはずだった。

しかし、



……ふむ、先ほどの二体より、歪な魔力のかたまりの数が多い……? 



それに計測できる脳波パターンについても、どこか変だ。まるで瞬間的に沸騰した水温が次の瞬間に(れい)度に戻されるがごとく、その波は上下に激しく揺れている。



「少し時間がかかりそうだ」


「そうですか……よろしくお願いいたします」



ミルフォビアは慎重に周囲を探っているようだった。

先ほどから一人で「ここってまさか……」とか、「まだ発見されていないダンジョンが……」とかブツブツつぶやいていた。

それから俺の方を振り返ると聞いてくる。



「アラヤ様、ゾンビの脳に影響を与えられるのであれば、このゾンビたちを操って出口まで護衛に使うということは可能なのでしょうか?」


「ああ、不可能だ」



俺は即答した。



「試してみたが、ゾンビの脳制御は普通に無理だったな」


「アラヤ様でもできないことが……」


「当然のようにたくさんあるさ。しかも脳に関しては未知の部分が非常に多い。具体的な指示を盛り込んだ電気信号を作り出すのは神の所業だと再認識したよ。私ができるのはせいぜい、脳を流れる電気信号を大雑把にせき止めることくらいだ」



ゆえに、もともと俺が考えていた単純労働者ゾンビの創出は現時点では難しいだろう。ビジネスチャンスかと思ったのだが、とても残念だ。

なんて落ち込んでいる内に、女騎士ゾンビのダークヒールも終わる。



〔……〕



女騎士ゾンビの腕がダラリと下がり、剣の切っ先から出ていた聖術も止まる。

先ほどまでのようなうめき声を発することもない。

女は、白く濁った目で俺をジッと見つめるだけだ。



……ふむ。



「君は……もしかして何かに怒っているのかい」



思わず、俺は尋ねていた。



「あの脳波の乱高下……何かに怒りを覚え、それを魔力で(しず)められていたのかい?」


〔……〕



女騎士ゾンビは答えない。

当然だ。

俺は何を質問しているのだろう?

ゾンビに意思なんてない。

返事なんて返ってくるはずもないのに。



「急ぎましょう、アラヤ様」



ミルフォビアは何かの魔術で、指先へとブラックライトのような光を灯らせた。



「……ああ、そうだな。このゾンビらの主が来るかもしれない」


「それもありますが、それ以上にこの場所自体が危険です」



ミルフォビアが早足で進みながら言う。



「ここはおそらく、 " ダンジョン " です」


「ダンジョン?」


「簡単に申し上げればモンスターの住処です。先ほどまでは女のゾンビの聖術のおかげで襲われませんでしたが、今はもうその恩恵もありません」


「それはマズいな。私は戦えないぞ」



そうこう話している内に、さっそく俺たちの目の前にフラリと、数体のゾンビが歩き出してきていた。

ふむ、逃げ切れる自信がない。

しかし、



「わたくしにお任せを」



ミルフォビアは俺の前に出たかと思うと、そのスラリと長い足を振り上げて、流れるような蹴り技でゾンビたちの頭部を潰して回った。



「わたくし、アラヤ様からの夜這いと勘違いしてむざむざ捕まっていなければ、それなりに戦える方ですので」


「おおっ、頼りになる」


「だてにアラヤ様の使い魔に選ばれてはいないのですよ」



フフン、と。

ミルフォビアは少し得意げに豊満な胸を張った。

できれば、さらわれる前にその真価を発揮してくれていたのならば、なおのことよかったとは思うのだがね。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次のエピソードは「第26話 死の国の王」です。

明日もよろしくお願いします!

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