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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第249話 マスク・ザ・メロンを探る者たち

その青臭く平和な場所で、彼は誇らしげに胸を張り立っていた。



「いつも通りキャベツにブロッコリー、今日はそれに加えてニンジンも出すからよ。なるべく高値がつくように、よろしく頼むぜ?」



魔都デルモンド郊外の青果市場で、慣れた様子で競り人の肩を叩いた男の名はティガー。虎人種の、虎顔の魔族である。


彼が魔都裏社会では名高い武闘派集団・八大獄門番の末席に所属していた事実はすでに過去のモノ。

今の彼はマスク・ザ・メロンが治める組織の目付け役に抜擢されており、そして実質的な運営者だ。

今日も今日とて組織の主な収入源となっている野菜を売りにきた後も、運営者として果たすべき仕事は山積みである。



「さて、と」



競り人に後のことを任せると、ティガーは強面の顔にメガネをかけて、後ろポケットにしまってあったスケジュール帳をめくって次の予定を確認する。

この後が農協の講座会で、次は種苗屋を回らねばならない。

肥料の仕入れ先との交渉も控えているがそちらは同僚に任せよう、と決める。



……かつての麻薬(ヤサイ)売買組織ドローガの護衛者が、今では本当に野菜を育ててるんだから、人生ってのはオモシロイもんだ。



少し自嘲気味に鼻を鳴らしつつ、しかし悪い気はしていない。

最初こそはこれまでの裏稼業とのギャップに悩まされもしたが、今では心地よく汗をかき、日々を満喫できている。

どうやら性分に合っていたらしい。



「へっ…… <あの御方>には、感謝してもし切れねぇな」



つぶやきつつ、元八大獄門番の一員であるフリージアとの合流地点へと向かう。

彼女は今、生来の顔の良さと人当たりの良さを武器に、野菜を競りにきた参加客を当たって、青果市場を通さない直通売買ルートの構築のための営業を仕掛けているはずだった。



「……? おかしいな、まだ営業してんのか?」



合流地点である青果市場の近くの路地の角に、フリージアの姿がない。

いつもなら彼女の方が先についているはずだった。



「いや、『いた』な……?」



鼻を鳴らし、確信するティガー。

他の亜人種よりも利く虎の嗅覚が、フリージアが確かに合流地点に来ていたことを報せていた。

ではなぜ今、ここにいないのか?



──ピリッ、と。



鼻横のネコ科特有のヒゲをピンと張り、耳をそばだてる。

かつて裏に生きていた血が、彼に『何か尋常ならざる事態が起こっている』ことを告げていた。



「……」



ティガーは呼びかけることをせず、静かに路地の角、その裏へと足を進める。

細い道に人影はない。

当然だ。


そこは『表向き』の店があるような通りではなく、住所不定の魔族がたむろしていたり、怪しげな露店が置かれていたりする……いわば裏社会に片足を踏み入れたような日陰者のための場所。



……こんなところに、今のフリージアが自ら来るはずないのだが。



そうは思いつつ、ティガーが足を進めていると、



「──だから、知らないってばっ」



細い路地の中で、さらに分かれた通りの方から、フリージアの声がした。

その感じ、どうやら穏やかな様子じゃない。

誰かと言い争いにでも発展したのか、彼女の方が声を張り上げたようだ。


ティガーは足を速めて、通りの角へと身を潜めた。

そしてコソリとその向こうの様子を見やる。

そこではフリージアが、三人組の黒いフードを目深に被った集団に囲まれているようだった。



「──何を根拠にしているのかわからないけど、私は無関係よ」



フリージアは鼻を鳴らし、その三人へと言い立てていた。

それに対して、



「隠し立てはしない方が身のためだぞ……八大獄門番・ <極寒のフリージア>」


「っ!?」



何もかもを知った風なそのローブの女の声に、フリージアが目を丸くした。



「調べはついているんだ。おまえたちが所属しているのが、元は麻薬組織のドローガであることはな」


「……なるほど、アンタたち……裏の人間ね?」



その額に冷や汗を浮かべつつ、フリージアが苦笑する。

それに対し、ローブの女たちは答えず、


「今一度問おう……マスク・ザ・メロンについて、知っていることを全て話してもらおうか」



なるほど、そういうことか、と。

ティガーは納得する。

ヤツらは恐らく──賞金稼ぎ。

マスク・ザ・メロンに懸かった一億ゴールドの賞金を求めているのだろう。

そうする内に、俺たちへと辿りついたわけか。



「あいにく答えは変わらないわ……私は知らない。知ってたところで教える気もないわね」



フリージアの気配が変わる。

もはや口での争いに辟易したのだろう、戦うつもりだ。

八大獄門番の元ナンバー4の実力は伊達ではない。

そんじょそこらの賞金稼ぎ程度、簡単に倒せるだろう。

雪人種の彼女の周囲に霜柱が立ち始める──が、しかし。



「──そうか。もう猫かぶりは終わりなんだな?」



ミシリッ! と。

フリージアが攻撃する直前、



「ガハッ!?」



しかしその彼女の体はいつの間にか、背後の建物の壁へと叩きつけられてしまっていた。



「遅いな。あくびが出そうなほどに」


「な、なに、を……!?」


「おまえたちは自分のことを強者だと思っているようだが……的外れだ。軍人崩れやチンピラ上がりの八大獄門番程度、私たちの相手にはならない」



何事かと見張ったティガーの視線の先。

先頭のローブの女の袖の内側で、その手のひらが妖しく輝いているのが見て取れた。

それは何かしらの魔術が発動しているとき特有の輝きだ。



「あ、アンタら……! 魔女ってわけ……!?」


「そういうことだ」



三人がフードを脱ぐ。

優秀な魔女ほど黒くなるといわれるその髪と瞳は、深淵に満ちる闇のようだった。



「……き、聞いた事がある」



フリージアが、苦しげに魔女たちをにらむ。



「魔都の裏社会には、何を目的にしているのか全く不明な、魔女だけの秘密結社がある、と。まさかそれが、アンタたち……!?」


「質問しているのはコチラだ。そして、コレは最後のチャンスでもある」



魔女は声の調子を変えることなく、義務的なように淡々と聞く。



「マスク・ザ・メロンについて、知っていることを全て教えなさい」



魔女たちはそれぞれ、魔力の込められた手をフリージアへと掲げている。

路地の角の陰で、ティガーを息を呑んだ。

おそらく望む答えが得られなければ、彼女は──。



「──ウッ、ウォォォォォォオーッ!!!」



そう考えるやいなや、半ば反射的だった。

ティガーが、その両手の爪を鋭く光らせて、通りの角から飛び出したのは。



「オレの仲間を放してもらおうかぁッ!!!」



虚を突かれた魔女たちめがけて、ティガーは情け容赦なく爪を振るった。

しかし、ガキン、と。

ティガーの爪が折れる。

どうやら魔女たちのローブは何かしらの防御魔術がかかっていたらしく、鋼鉄さえも切り裂く彼の攻撃をも通さなかった。

しかし、それでも衝撃は伝わったようだ。



「クッ!?」



ティガーの攻撃に、弾き飛ばされる魔女たち。

その隙を縫って、彼ははりつけから解放されたフリージアを俵のように肩に抱えると、自慢の虎そのものの脚力によって全速力でその場を離脱する。



「オイッ、無事かっ!?」


「え、ええ……! でもっ!」



後ろ向きに抱えられているフリージアには見えていた。

魔女たちがすでに体勢を整えて、こちらへと目がけて宙を滑るように飛んできていることを。

ティガーも、それは承知している。

そして、勝手知ったる元裏の住人として、路地裏を庭のように自在に駆けていく。



「ティガー! どこへ向かっているのっ!? 人目のある表通りに出ないと……!」


「出たところで、ヤツらが見逃してくれるとは限らねぇ!」



とはいえ、このまま鬼ごっこを続けていても、いずれは捕まるだろう。

全てわかっていた。

その上で、しかし。



「……任せろよ! オレを誰だと思ってるっ? オレは 〈あの御方〉に、組織のお目付け役を任された男だぜっ!」


「ハァッ? こんなときに、いったい何を──」


「いいから黙っときな! 舌噛むぜ!」



ティガーには確信があった。

それは組織を任せられており、その組織の構成員の行動パターンを把握している彼だからこその勝算だった。

朝早いこの時間、この先の場所になら。

きっと <彼女>がいる!



「起きてくれぇぇぇッ! (ねぇ)さぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」



ティガーが叫ぶ。

それは路地裏に響き渡り、そして最初に反応したのは追手である魔女たち。



「フン、強者を前にして気でも触れたかっ?」



後ろから追い縋る声とともに、魔女たちから放たれたのは何らかの魔術。

いっさいの手加減のない魔力のカタマリがティガーの背に迫る。

しかし。

それが彼に着弾することは、ない。



「──まったく、騒々しいなぁ」



魔術は、突如として現れた白く輝く光の壁に阻まれた。



「なッ……聖術!?」



たやすく魔術を弾いたそれを前に、魔女たちは驚愕の表情で前進を止める。

ティガーたちもまた立ち止まる。

その表情を、深い安堵にホッと緩めて。



「はっ、ハハッ……助かったっす……!」



ティガーの視線が向くのは上だ。

そこにあったのは路地に切り取られた狭い空と、そして。



「僕、けっこう気持ちよく寝てたんだけどなぁ」



彼に応じるその声とともに、タンッ、タンッ、と。

光で形作られたガラスのような階段を、数段飛ばしで降りてくるのは白いフードを被った少女。



「よっ、と」



少女は勢いをつけるようにしてジャンプ。

ティガーたちの前、路地裏へと降り立った。

その拍子に、ハラリ。

空気をはらんだ白いフードは風に押し流されるようにして、はだける。

あらわになったその素顔は雪のように白く、クセのある長い金髪は弾むように揺れた。



「なっ──!?」



魔女たちは一様に息を呑む。

その顔の側面──尖った耳を見て、その者の正体を理解する。



「なぜっ──なぜエルフがここにッ!?」


「君たちが、僕のお気に入りの二度寝スポットに足を踏み入れたから、っていうのじゃダメ?」



アラヤ研究所の護り手がエルフの一人・キンセンカ。

彼女は手に持った聖杖を優雅にクルリと一回転させると、その先端を魔女たちへと向けて構えた。



いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第250話 四百年の研鑽~お仕事から逃げるための聖術~」です。


次回は1/30(金)更新予定です。

それでは次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。

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