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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第234話 ボグ寄せ魔術のせいでなんか色々集まってきた

俺たちがメリッサの神術によって運んでもらったのは、深い森の中。

日の光も満足に届かない暗いトンネルのような小道だった。



「見通しが悪いですね。わが君よ、くれぐれも私から離れませぬよう」


「うへぇ……ジメってるねぇ。なんかインウツ? って感じ」



ジラドやオトガイはそれぞれ周囲を見渡しつつそう言った。

しかし、人間並みの視力しかない俺はそもそもいきなりの暗闇に目が利かないので「そうだね」とも「いいや違う」ともコメントのしようがない。



「このまままっすぐ向こうに歩いて行け。五百メートルも行けば、そこが黒の森の入り口だ」



そんな俺にお構いなしに、メリッサは迷いなく一方向を指さして言う。



「まあ、せいぜいモンスターに気をつけることだ」


「モンスター?」


「この西方エルフ国家の西側は東側と違って秩序がない。ゆえに、東のエルフたちから追いやられたモンスターたちが集まっているのさ」


「マジ? ってことは、戦いたい放題っ!?」



そう嬉々とした反応を返したのはもちろん俺ではない。

声を聞くだけでわかるくらい、目をキラキラとさせているだろうオトガイだ。



「大声で叫んでたら寄ってくるかな? オーイッ!」


「コラ。やめなさい」



いったい何をやっているのやら。

俺は即座にオトガイの肩に手を置いて止めた。



「護衛が危機を呼び込んでどうする」


「え~! でも、敵がいなきゃ守る仕事もできないしー」


「……仕事を見つけようとする姿勢自体は評価に値しよう。だが問題を起こそうとする姿勢と合算でマイナス評価とするが、それでもいいかね?」


「ちぇー」



俺の注意に、オトガイは不満げに唇を尖らせ、つまらなそうに周囲を見渡した。



「てか、本当に何もないね、ここ。てっきり集落くらいはあるのかと思ってたんだけど」


「フム、確かにな」



暗闇に目が慣れてきたので、俺もまた辺りを見渡してみる。

東の賢者マロウが支配下においていた世界樹の集落などの痕跡はまったくない。

ただの原生林だ。



……そういえば先ほど、メリッサは西側には『秩序がない』と言っていたか?



「これは純粋な疑問なのだが、メリッサよ、おまえは西の賢者なのだろう? この西側におまえが支配下に置く集落などはなかったのか?」


「ない。だいいち、いつオレが西方エルフ国家で暮らしていたなどと言った?」



鼻を鳴らしつつ、メリッサは言う。



「こんな森の中にいるよりも、人の都を転々としていた方が楽だ。色んな服も着放題だし」


「……なるほどな。広い人脈はそれゆえ、というわけだ」


「まあな。おかげで、歴史の節目節目での暗躍に困ったことはなかったよ……おまえが現れるまではな。キウイ・アラヤ」



そう言って忌々しげな視線を向けて、メリッサはため息を吐く。



「まったく。たった一度の失敗で、数千年を費やし築いた立場も尊厳も根こそぎ奪われることになろうとはな……」


「だがそれでも知的探求心は満たせるのだ。十分ではないかね?」


「……フン。よく言うよ。散々オレに情報と移動手段だけ貢がせておいて、美味しいところは全部おまえが持って行くんだろうが」



そのメリッサの口調はところどころ皮肉っぽかったが、しかしどこか軽さも感じられた。

渋々とはいえ、今の自分が置かれている立場を受け容れているのだろう。



「せいぜい、オレを落胆させる結果にならないことを祈っているよ」


「ああ。送迎どうもありがとう。また五日後に迎えに来てくれたまえ」


「まったく……人使いの荒い」



メリッサは呆れ笑いを残すと、たちまちにその場から消えてしまう。

ポーションの聖力的応用研究へと戻ったのだろう。



「……さて。それではさっそく向かうとしようか。黒の森へ」


「待ってました! 強敵、出てこないかなぁ~?」



オトガイがまたそんな縁起でもないようなことを言う。

俺としては、何事もなく黒の森に着くのがベストなのだがね。

そう思いつつ、改めて辺りを見渡して……気が付いた。



「あれ? ボグ殿は?」



俺の前後左右に、あの特徴的なスケルトンの戦士の姿はない。

おかしい。

共にメリッサの神術でここまで運ばれてきていたはずなのに。



「ホントだ、いないねぇ。超ビックリ……何の気配もしなかったよ」



オトガイも目を丸くしていた。

どうやら心当たりはないらしい。



「ジラド。どうだ?」


「ハッ……申し訳ございません」



ジラドはその場でササッと膝をついて頭を垂れた。



「私も見逃しておりました。なにぶん、彼は全く生気をまとっていないので……気配の探知が難しく」


「……そうか」



困ったことになった。

黒の森へと出発を宣言して一秒も経たない内にボグ殿が迷子になってしまうとは。



「キウイ様。いちおう、足跡なら追うことができるかと」



そう言ってジラドが指さしたのは、俺より二回り以上も大きな平たい軍靴の足跡だ。

間違いなく、ボグ・チェルノのモノだろう。



「いかがいたしましょう? 追跡しますか?」


「……いや」



俺は首を横に振った。



「ボグ殿の方から来てもらうことにしよう。その方がよほど確実だろうからね」


「……! もしや、例の魔術ですか?」


「いかにも」



俺は右手に魔力を集中させる。

発動するのはもちろん── <ボグ寄せ魔術>。

すると俺の右手に宿ったのは、泥をすすって生長した水苔のごとき暗緑色の魔力。



「うへぇ! キウイっち、何やってんの!? めちゃくちゃキモい気配を放ってんよっ!?」


「フフフフ。そうだろう? なにせ発動している私ですら軽く気分が悪くなる魔術だからねっ」



俺は高々と、そのどことなくヌメヌメとしたキモ魔術を天に掲げる。

さあ来たれ、ボグ・チェルノ! 君の大好きな魔力はここにあるぞ! と。

すると、



──ガサリ。



俺たちの正面の茂みが揺れる。

さっそくこのボグ寄せ魔術の効果が表れたようだ……ん?



「グルルルルルッ」



茂みの奥から頭を出してきたのは、凶暴性をあらわにした三頭の野犬。

いや、違う。

三つの頭を持つ犬──ケルベロスだ。


そして、それだけではない。


ガサガサガサ。

ガサガサガサ。

ガサガサガサ。


俺たちの四方八方を囲うようにして、裂けた口から三枚の舌をぶら下げる複眼のクマ、泥の体を持つゴーレムなど、様々なモンスターたちがその姿を現してくるではないか。



「……はて? いったいなぜ?」


「グルルルルルッ、クッセェ、マリョク、タレナガシヤガッテ……ブッコロス……!」


「え?」



今、クマ型モンスターから何か言葉が聞こえたような?

クッセェ魔力? がどうのと言っていた気がする。

もしかして……このボグ寄せ魔術って、他のモンスターたちも呼び寄せる効果があるのだあろうか?



「これはやらかしたな」



……しかしまあ、実地で試すと思わぬ成果が得られるものだなぁ。



そう俺が感慨にふけっていると、



「ねぇねぇ、キウイっち」



フヒヒ、と。

押し殺したようなオトガイの笑い声が静かに響く。



「これ、()っていいヤツだよねぇ……?」



その目を赤く爛々と光らせて、どこからともなく自らの背の丈ほどの巨大なトゲ付きの棍棒を取り出したオトガイは、ウズウズと体を揺らして待っていた。

俺が手綱を離す、その瞬間を。



……まあ、この状況を招いたのは俺だし、仕方ないか。



「手間をかけて悪いが、よろしく頼んだよ」


「そうこなくっちゃ!」



俺の許可が下りるやいなや、オトガイは軽やかに飛び跳ねその姿を消す。

今、残酷なまでに無邪気に笑う赤鬼が、この闇の中へと解き放たれた。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第235話 父親譲りの実力×暴走気質」です。


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次回は12/26更新予定です。

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