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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第230話 ボグ・チェルノは魔力グルメ

魔王城別館、屋上。

一般魔族は元より、魔国軍関係者ですら立ち入り禁止のその区画に、ボグ・チェルノの待機室は存在していた。



「……ひどく無機質だな」



俺が足を踏み入れたそこは、部屋とは呼べそうもない。

その空間には家具も何もない、監獄の独房のような虚無空間が広がっている。

そこでボグ・チェルノは何をするでもなく、直立の姿勢で不動を保っていた。

巨大な黒の大剣を背負ったまま、ドクロの顔は誰もいない虚空の方を向いたままだ。



「ボグ殿」



名前を呼ぶと、ギギギ、と。

その顔がコチラを向いた。

とはいえ、それ以上の反応はない。

エメラルダに言われた通りだ。



『彼に自我と呼べるものはほとんどないことがわかっているわ。感情もないみたいよ』



あらかたの説明を受けた限り、ボグ・チェルノは本当にただのアンデッドのようだ。

一般的に知られるゾンビやスケルトンなどと同様に、生者に対して襲い掛かるという本能しか持っていない、それだけの存在。

ただし、



「さあ、魔力だボグ殿……あなたの本能は生者を襲うことではなく『魔力を吸う』ことを求めるアンデッドなのだろう?」



俺が手に浮かべた純粋な魔力。

それを見たボグは、その洞窟のようなドクロの目をくぎ付けにして、こちらへと向かってくる。

そして、



「ズゴゴ……」



俺の手にドクロの口を付けたかと思うと、その魔力を吸い尽くした。

さて、基本的な性質の再確認は終えた。

次だ。



「自我や感情はないが、損得の意識はあると聞いている。確かめさせてくれたまえ」



俺は左手に大きめの魔力を、右手に少なめの魔力をまとってボグの前に差し出してみる。

すると、



「……」



ガシリ。

ボグがその両手を掴んで、ひとまとめにして口元へと持って行った。

そして、ズゴゴゴゴ。



「なるほどね。両方一気に吸ってしまうのか。まあ、そうだよね。片方ずつ吸う意味もないものな……」



実験は失敗に終わった。

まあ、それは後で別の方法を考えるとしよう。



「とりあえず何よりも先に身体構造の把握をしてしまいたい。私の魔力を吸ってくれていいから、診察用ダークヒールを受けてくれたまえよ」



俺はボグの口元へ左手をあてがい、少量の魔力を放ち続ける。

ズゴゴゴゴと。

ボグがそれを吸っている間に、右手をボグのアバラ部分に当てる。



「では、失礼して──ダークヒール」



ボワッと。

ダークヒール特有の煙がかったような紫色の光が放たれ、診察が始まった……その時のことだった。



「……」



ボグが、左手の魔力を吸うのをピタリと止めた。

そしてそのドクロのまなざしで見るのは、ダークヒールを放つ右手。



「……え?」



ガシリと。

ボグが俺の右手を掴んでいた。

そして、



「ズゴゴゴゴ……」



口元へと持っていくと、右手の魔力を吸い始める。

……おかしい。



「同じ魔力だぞ? なぜ右手のダークヒールを吸う方を優先した……?」


「ズゴゴゴゴ……」


「いや、『ズゴゴ』ではないが」



ボグへと苦言を呈しつつ、考えてみる。

もしかすれば、これは『損得の意識』の発露によるものではないかと。



「ダークヒールの魔力を吸う方が『得』と考えたのだとしたら……普通の魔力とダークヒールの魔力、いったい何がどう違うというのだ……?」



試しに、普段俺が使っている複雑ながら多種族に使用可能な『万能型ダークヒール』と、シンプルな代わりにアンデッド種のみに効果が絶大な『アンデッド専用ダークヒール』の両方を右手と左手に用意してみることにする。

ズゴゴゴゴ。

選ばれたのは『万能型ダークヒール』だった。



「アンデッドならば、アンデッド種専用ダークヒールを選ぶと思ったのだが……もしやダークヒールの効果が選択の基準ではない、ということか……?」



だとすれば、残るは魔力の複雑性。

現状、自分が使える魔術で万能型ダークヒール以上の複雑性を持つモノはない。

だが、それ以上の複雑性があるものではないと、診察用ダークヒールはまっさきに吸われてしまって診察ができない。



「フッ……業突く張りな患者だ。いや、患者ではないか。ともかく、」



思わず、ほくそ笑む。



「やたらめったら複雑な術式をブレンドした魔力を味わえればいいのだろう? そういうことであれば得意分野だ……! 私はあらゆる分野で得た知識を独学で組み合わせてこれまでやってきたのだから!」



俺はすぐに魔力を吸われないようにボグから少し離れると、さっそく右手に魔力を集中させる。

それは最初、ダークヒールの光を放った。

しかしすぐにそこに様々な彩りが追加されていき……その色を次第に、水の流れが止まり腐った池の成れの果てのような、くすんだ深緑色へと変えていく。



「フフッ、フフフフッ! なんだこの術式は? 気持ち悪い! だが、こういうのが好きなんじゃあないかね? ボグ殿っ!」


「……!」



ズシン。

これまで見たことのないような前傾姿勢をとる、ボグ・チェルノ。



「え?」



俺の口から出た疑問符が感嘆符へ……いや、驚嘆符へと変わるのは一瞬だった。




──ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ、ズシンッ!



ボグ・チェルノが、腕を大きく振って、俺に向かって駆け出した。



「えぇっ!?」



思わず、俺もまた背を向けて走り出す。

二度見するように後ろを振り返った。



──ズシンズシンズシンズシンッ!



死は、間違いなく俺の背を追いかけてやってくる。



「どうしてこうなるのだぁ!?」


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第231話 好奇心ネコを殺すと言うが好奇心もネコも悪くないと思う」です。


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次回は12/17更新予定です。

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