第225話 キウイの休暇の過ごし方(自堕落編)
さて、方々への調整も済んで、とうとう俺も休暇を取得できる段取りとなった。
その期間、なんと二週間!
けっこうなバカンスである。
「フフッ……なんと素晴らしい泰平の世だろうね」
俺は魔王城の自室にて、寝巻のまま机に向かいサラサラッと紙の上でペンを動かしつつ、香りの良い王都のコーヒーを嗜む。
ミルフォビアが部屋へと入ってきて『朝の支度をしますよ!』と俺を着替えさせてくることもない。彼女をはじめ、シェスやジラドにもまた休暇を出しているからだ。
シェスたちには散々渋られたが、それでも今回ばかりは押し切った。
たまには一人きりの時間もほしいというものだ。
これでようやく……羽目を外せるというもの。
「買いだめのチョコレートは充分! コーヒー豆も昨晩の内にたっぷりと挽いてある!」
となれば後顧の憂いはナシ。
さあさあ、作り上げてしまおうじゃあないか!
「ポーションの聖術的応用についての理論構築! 仕上がるまで部屋に缶詰だ!」
サラサラサラ。
サラサラサラ。
「ちょっとトイレに……」
サラサラサラ。
サラサラサラ──。
~休暇 二日目~
「ちょっとトイレに……」
サラサラサラ。
サラサラサラ。
「ちょっとトイレに……」
サラサラサラ。
サラサラサラ──。
~休暇 三日目~
「ちょっとトイレに……」
サラサラサラ。
サラサラサラ。
「ちょっとトイレに……」
サラサラサラ。
サラサラサラ。
「……ふう。ひとまず理論はこんなものだろう。そろそろ一度寝ておくか──」
バタンッ。
グゥ。
* * *
~休暇 四日目~
「──アラヤ様? 休暇中に失礼いたします」
キウイ・アラヤの自室。
そのドアを叩くのはキウイ直属の部下であり秘書のミルフォビアだった。
野菜や肉などを詰め込んだ手提げを肩にかけている。
「われながら心配のし過ぎとは思うのですが、少し様子を見に来ましたよ。ちゃんとご飯は食べていらっしゃいますか?」
ドアの向こうから返事はない。
……というより、生きた人間がいる気配もない。
「ア、アラヤ様っ?」
返事を待たず、ミルフォビアがドアを開け放つ。
そして、
「ウッ……!?」
部屋の惨状に息を呑んだ。
むせかえるように香ばしく、甘いニオイ。
あちこちに散らばる資料、机の上からこぼれ落ちる難解な文章の書かれた紙の数々。
その横のゴミ箱はコーヒーカスの入ったフィルターとチョコレートの包み紙で溢れていた。
そんな部屋の隅、ベッドで掛け布団をかけることすらなく、死んだように静かにうつ伏せで倒れるキウイ・アラヤはいた。
「ちょっ……アラヤ様っ!?」
駆け寄ったミルフォビアはその肩を揺する。
「起きてください、アラヤ様! 生きてますよねっ!?」
「う、うぅん……いったい何なのだ……?」
「あっ、生きてた……よかったぁ」
「……何なのだね?」
眠そうに、そして不満そうにキウイは言う。
「というかミルフォビアくん、君は今休暇中のはずでは……?」
「アラヤ様の生活状況が気になって気になって……居ても立っても居られなかったんです。そして来てみればやはりこの有様……」
ホッとしたような、あるいは呆れたような表情でミルフォビアは言う。
「偏食してるのではと心配していましたが、まさかチョコレートしか食べてないんですか?」
「ま、まあ……」
「まったく。食材を買って参りましたので、何か作ってきますね」
「いやいや、そういうわけにはいかない」
「? どうしてです?」
「だってミルフォビアくん、君は休暇中だろう? 働かせたりなんてできないよ」
「……そんなこと言われましても」
はあ、と。
深いため息交じりにミルフォビア。
「放っておけないんですもの。お世話しないと死んでしまいそうで」
「そこまで脆弱ではないが」
「ともかく、好きでやっていることですからお気になさらず……ん?」
ミルフォビアが、ピクリと鼻を動かした。
「……これは」
「え?」
「ちょっとアラヤ様、失礼しますね」
そう言うやいなや、ミルフォビアはガシリと俺の頭を鷲掴みにしてクンクンとそのニオイを嗅いでくる。
「ぬ、濡れた小犬のニオイがする……!?」
「ワインの香りの品評か何かか?」
「アラヤ様! お風呂! 最後に入ったのはいつですかっ!?」
「え? えーっと……」
俺は指折り数え始めようとして、アレ?
「ミルフォビアくん、今日って休暇何日目だったかな?」
「四日目です! 私がいなくなってから四日も入ってないんですかっ!? んもぉぉぉおおおーっ!!!」
ミルフォビアは牛にでもなったように雄叫んで、俺の背面をガッシリと掴むとズルズルと引きずり始める。
相変わらずフィジカルが強い。
「不潔! お風呂に行きますよ! どうして私がいないと何もしなくなるんですかっ! ほんっとうに世話が焼ける!」
「なんだというのだ、このくらい。外にも出てないし、ましてや戦地ではもっと入っていなかったというのに」
「ここは戦地じゃありません!」
「むぅ、面倒だな」
「私にゴシゴシ洗われたいですか!? それとも自分で洗いますか!?」
「……自分で洗うよ」
ミルフォビアくんの腕力で肌を擦られたら、皮がすりむけるかアザにでもなりそうだ。
「私がご飯の準備をする間に、しっかり体を洗って、外着へと着替えてくださいねっ」
「はい……」
俺が渋々風呂の準備をし始めると、
──コンコンコン。
「キウイ様、シェスです。ご休暇中に参上いたします無礼をお許しください。急ぎお報せすべきことがございまして」
次に顔を出したのはシェス。
鎧姿ではなく、かつてミルフォビアに選んでもらった私服のうちの一着を身にまとい、しかし聖剣はいつもと変わらず腰に携えている。
「シェスまで来たのか。休暇は満喫しているかね?」
「はい、ありがたく。魔王城内を警邏しておりました」
「なんだ、せっかくの休暇だというのに……まあでも、見回りというのも悪くはないか」
特にシェスは聖力持ちという特性ゆえに、戦時中の魔王城内での活動に制限を設けられていたのだ。
戦争終結に伴って自由行動の許可が出されれば、建物内を見て回りたくなる気持ちもわかる。
特に魔王城は広く、魔術的な仕掛けもあるので、見応えは抜群だろう。
かくいう俺さえもまだ、その全貌はわかっていないのだが。
「ちょっとは楽しめたかね?」
「はい。おおむね構造は把握しました。もはや死角を突かれることはないでしょう。いかなる状況でもキウイ様をお守りすることができるかと」
「それ仕事じゃないか? 私を守るために働いてないか?」
「いえ、趣味のようなものです」
「そうか……なら仕事ではないのか。趣味もいいが休みもしっかりとるのだぞ」
「はっ。承知しております」
「夜はグッスリ眠れているかね?」
「はい。キウイ様のこの部屋の前で休んでおります」
「やっぱりそれ仕事じゃないか???」
完全に護衛任務に就いている時の行動パターンじゃないか。
まったく。
ミルフォビアといいシェスといい、困ったものだ。
どうして休暇中にまで仕事をしようとしてしまうのか。
「少しは私の休日の過ごし方を見習ってほしいものだ……」
「一番ダメな例じゃないですか、アラヤ様のは」
いつの間にか後ろに立っていたミルフォビアに呆れた声をかけられてしまう。
「ところでシェスさん? アラヤ様に報告というのは?」
「ああ、そうでした。私としたことが」
シェスは取り直したように俺を見つめると、
「西の賢者メリッサがアラヤ総合医院でキウイ様を待つ、と。なんでも、『今度こそ良い話を持ってきたから!』とのことです」
いつもお読みいただきありがとうございます!
次のエピソードは「第226話 学習能力に定評のあるメリッサさん」です。
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