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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第224話 【Side:スワン】それを人類は宗教と呼んだ

「──えぇっ!? ダークヒーラーではない一般魔族の方の入団希望者が殺到しているですって!?」



今、魔王城の別館で遊撃医療部隊のメンバーたちが集まって行われているのは定例会。『ドクター・アラヤの教えとその知識を広める団体』──略称・ <アラヤ教団>の幹部会だ。

そこへと同僚のゴリアテが持ってきた情報に、瞳を爛々と輝かせていたのは白い羽が特徴の少女スワン・ヴァイステールだった。



「ウホホホ、われわれの活動が実を結んだようだな。みな、黒癒の書について理解を深めたいのだそうだ」



笑みを浮かべながら深く頷いた魔ゴリ種の男ゴリアテは、黒々と生い茂る頬の毛を満足げに指で梳きつつ、



「ドクター・アラヤたちが王都での講和会議で魔都を留守にしている最中、俺たちが教導隊として派遣された各地で黒癒の書の教えを広めた甲斐があったというものだ」


「ええ。軍内外のダークヒーラーたちのみならず、ドクター自身の西方エルフ戦線でのご活躍も相まって、英雄譚として市井にもまたたく間に広まりましたからね……! 増刷も未だに止まる気配が無いのだとか」


「ウホ……民間人いわく、『持っているだけで疲労回復、病魔退散、便秘解消』という根も葉もないウワサまで流れている始末らしい」


「実態と異なるウワサは困りものですが……しかし、そんなものでもこの素晴らしき黒癒の書のことを知る第一歩となってくれるのであれば、私としては大歓迎です!」



指を組み、神に感謝でも捧げるかのように言うスワン。

だが、



「そりゃ結構なことなんだがよぅ、問題はあるぜ」



オーク種の男の同僚であるピグネッツが困ったように顔をしかめて腕を組んだ。



「ダークヒーラーじゃないヤツらを勉強会に参加させるわけにはいかねーだろ? それについてはどうする?」


「うーん……」


「ウホ、勉強会を二つに分けて開催すればいいのではないか?」



ゴリアテが言った。



「万能型ダークヒーラーの勉強会と、黒癒の書の物語を学ぶ勉強会をだ。前者は学会形式で行えばいいし、後者は読み合わせと解説の会とすればいい」


「いいですね、ゴリアテさん! それ採用したいです! 黒癒の書解説の会はみんなで持ち回りで交代するなど工夫できれば、公平に学会の方にも参加できると思いますし……みなさんも、それでどうですか?」



ピグネッツを含め、特に異議は出ない。



「ウホ、そうだ、もう一つ一般魔族の者たちから意見をもらってきていてな」


「なんですか?」


「みんな、アラヤ教団に所属している者たちの『共通の呼び名』が欲しいのだそうだ」


「共通の呼び名、とは……?」


「ウホ、われわれにはキウイ・アラヤ直属軍医や遊撃医療部隊隊員などの肩書きがある。だが、一般魔族にそんなものはないだろう? 単に団員と呼ぶのも味気ない」


「なるほど……確かに、これからも多くの人々を受け入れることになるだろうアラヤ教団の、内側の結束を深めるためにも共通の呼び名は重要かもしれませんね」



スワンはアゴに手をやってしばらく考え込むと、



「 <信者>というのはいかがでしょうか?」


「ウホ……信者?」


「『教えを信じる者たち』という言葉を略称してみました。みんな、黒癒の書でのドクター・アラヤの活躍や教えに共感して集まってくださっているわけですから……どうでしょうか?」


「なるほど、信者……ウホ、単純でわかりやすく、いいんじゃないか?」



これに関しても異論はナシ。

満場一致で、アラヤ教団に所属する者たちのことを <信者>と呼ぶことに決まった。

そして、ちょうどその後すぐのことだった。

コンコンコンと。

会議室のドアが叩かれる。



「ああ、黒癒の書の話をしている時に、ちょうどよくいらっしゃったようです──どうぞ、お入りください!」


「失礼しますぞ」



そう言って入室したのは、今や魔国で飛ぶ鳥を落とす勢いの大人気作家。

黒癒の書の執筆者である天狗種の男・イナサだった。



「いやはや、お招きに預かり光栄です。例の原稿、遅まきながら完成いたしましたよ。しかしながら肝心な時に間に合わず、本当に申し訳ございません……」


「いいえ、そんなことは仰らないでください! こちらからの突然の願いだったにもかかわらず、快く黒癒の書の新章の執筆依頼を受けていただいたことには感謝の念が尽きないのですから」



通常、黒癒の書の新章の執筆依頼はキウイからなされるものだった。

しかし、今回の依頼については全く別。

キウイ当人が王国議事堂の爆破後に行方不明となってしまうという危機的状況に際し、教団のメンバーたち──信者たちが一丸となってキウイの無事を信じていられるよう、スワンたちが費用を折半してイナサへと依頼したものだった。

もちろん、ミルフォビアへの許可もとっている。



……だが、結果的に原稿が完成する前にドクター・アラヤは帰ってきた。しかも、新しい戦功までをも引っさげて。



「まったくもって、キウイ様の才気剛毅には感服いたしますよ。小説の内容に事欠かない。私がこの人生をかけて培った知恵を振り絞ったとしても、あの方のような英傑を創り書き上げることはできなかったでしょう」


「仕方ありません。ドクター・アラヤは常に十歩も百歩もわれわれの先を知り、考え、そしてわれわれを教え導いてくださる方ですから」


「……フフ、そうかもしれませんなぁ」



イナサはそう微笑みながら頷くと、持参したカバンから原稿用紙の束を取り出した。



「それで、こちらがお約束のモノです」


「拝見いたします」



その紙には、元の紙色がわからないほど黒くビッシリと、スワンたちがイナサへと依頼した通りの内容が書き記されていた。

西方エルフ国家との戦いと、西の賢者メリッサを下したキウイの逸話である。

そして、もう一つ。

原稿にはさらに続きがあった。



「えっ……イ、イナサさんっ!?」



集中して文字を追っていたスワンの目が、大きく丸く見開かれる。



「こ、この外伝に書かれている、『各地へとドクター・アラヤの教義を広めている <黒癒の使徒>』って、もしかして……」


「ええ、はい。僭越ながら、キウイ様直属の部下でいらっしゃる、スワンさんたちのことについても書かせてもらいました」



はにかんで、頬をかきつつイナサは言う。



「もちろん、これを書き足したのはキウイ様がご無事だとわかってからですよ? 新章が間に合わなかった分、どうにか穴埋めができないかと考えまして……余計なことでしたでしょうか?」


「いいえ……いいえっ! 私、とっても嬉しいですっ!」



パァッと表情を輝かせてスワンは言う。



「まさか、黒癒の書に私たちの活動が載ることになるだなんてっ!」


「キウイ様の教えの素晴らしさをお伝えする、重要な役目を担っている方々のことですから。どこかでこうして文字に起こしたいと、常々そう思っていたのです」


「イナサさん……」


「喜んでくださったようなら、作家冥利に尽きるばかりです」


「はいっ! 本当にありがとうございますっ!」



原稿用紙を大事そうに胸へと抱え、スワンは満面の笑みを浮かべる。



「さっそくミルフォビア様に製本の許可を取りに行ってきます! ああ、出版が待ち遠しいなぁ。信者のみなさんにも、早くお見せしなくっちゃ」



スワンは小躍りでもするようにご機嫌に肩を揺らしながら、魔王城別館の廊下を小走りするのだった。


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