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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第223話 思いがけぬバカンスの提案

「──どうして私、キウイの前だとこうなのかしら……」



毛布の下でモゾモゾと再びドレスを着つつ、エメラルダはため息交じりに呟く。

やはり神経性のものだった胃痛をダークヒールで治療してなお、自虐的な笑みはそのままだった。



「やっぱり私に魔王代理なんて無理よ……さっそく威厳が保てていないんですもの……」


「そんなことはないかと思いますが」


「どこがよぅ……私、あなたの前で幼児返りしたり、指をしゃぶったり、裸まで見られてるんですけど……?」


「それとこれとは別ですよ、エメラルダ殿」



だが、エメラルダは納得しようとはしない。

俺の机の上に肘を置いて、窓の外を眺めつつ、



「はぁ……遠くへ行きたい……」



重症だった。



「……エメラルダ殿はよくやっていらっしゃいます。エメラルダ殿は魔国軍の総司令官として、王国の防衛ラインをことごとく打ち破ってみせたではありませんか」


「私は後ろで旗を振ってただけ……そんなこと誰だってできるもの……。少数で王都を堕としたキウイやウルクロウたちに比べたら、全然……」


「王国では新しい条約や法整備を手際よく推し進めてくれていたではありませんか。王国の傀儡国家化への一番の功労者はエメラルダ殿ですよ」


「そんなの、交渉事くらい私じゃなくてもできるわ。陛下ならもっと上手く……そんな陛下の代理とか、やっぱり私には……うぅ……」



ダメだ。

何を言っても今のエメラルダには届かない。

魔王代理というプレッシャーも相まってのことなのか、完全にネガティブモードに入ってしまっているようだ。



「エメラルダ殿、少し横になってみては?」


「横に? どうして」


「昨晩寝ていないと仰ったでしょう? 睡眠をとらないと脳神経が高ぶったままになってしまい、色んな物事へと想いを馳せてしまうものなのです」



特に、悪い方向へと。

脳が眠らない状態によって引き起こされるストレスを異常と感知して、警戒モードに入ってしまうからだ。

まあ研究をする上では、そんな警戒モードも色んな粗や不安要素を探すのに役立ったりもするが。



「でも……眠る時間があるなら、魔王代理としての予習復習を……」


「今は睡眠が第一優先です」


「うぅ、やることがまだいっぱい……」


「寝ましょうね」



ぐずぐずとむずがるエメラルダの手を引っ張って、診察室のベッドへと寝かせる。

そして俺は紫に光る手を載せた。

ダークヒール。



「……む? 効かない……というか、ダークヒールが脳に弾かれている……? 受け容れてくれていないのか?」



エメラルダを見やると「まだ眠らないの……やることあるのぉ……!」とシクシク泣きながら体を揺すっている。

やれやれだ。

仕方ない。



「落ち着いてください、エメラルダ殿」



ダークヒールを宿らせた手で、俺はエメラルダの頭を撫でた。

確か……この人はこうされるのが好きだったはずだ。



「う、うぅ……あったか……」


「エメラルダ殿、脳神経を落ち着かせるダークヒールをかけているので、警戒を解いてくださいね」


「……ぽかぽか……」


「ええ。そのままポカポカしててください」


「……ふひゅぅ」



寝た。

ようやく……眠ってくれた。

穏やかになったその寝顔を見ていると、思わず俺もあくびが出てしまう。



「しかしまあ、これが仕事中毒(ワーカホリック)というやつか、困ったものだな」



自らの睡眠時間を削ってまで仕事をしたがるとは、正直理解しがたいね。

しばらくこのまま脳を休めてもらうとしよう。



……さて、と。休診時間はまだ残っているな?



「昨日遅くまでやってた『ポーションの聖術的応用について』の理論構築を進めるとしよう」



エリィにいただいたコーヒー豆をシェスに挽いてもらおう。

カフェインで眠気を吹きとばして、ワクワク研究タイムだ!






* * *






──パチン、と。



エメラルダが目を開いたのはそれから五時間後。

午後の診察もすっかり終えた後のことだった。



「おはようございます、エメラルダ殿。とはいえ、もう夜ですがね」


「あれ、私……ご、ごめんなさいっ! ここのベッド、ずっと使ってたのっ!?」


「構いませんよ。幸い、今日は他で使わずに済みましたから」


「そ、そう……? それにしても不覚だったわ。まさか、夜まで眠ってしまっただなんて……」



ベッドから起き上がると、エメラルダは小さくため息。

だが、その表情は心なしか眠る前よりかは明るく見えた。



「どうですか、多少心に余裕が生まれたのでは?」


「……そうね。私、一人でいろいろ抱え込み過ぎていたのかも」



困ったように微笑むエメラルダ。



「私には頼りになる部下たちもいるし、いざとなれば陛下の奥方──ブロブーズ様にも相談すればいいものね」


「そうですとも。魔国幹部の末席ながら、私も力となりましょう」


「……感謝するわ、キウイ。今回も世話になったわね」



エメラルダは靴を履くと、ベッドへと腰掛けたまま居住まいを正す。



「そうだわ、もう一つキウイには話しておきたいことがあったのよ」


「話ですか?」


「ええ。キウイ、休暇は欲しくないかしら?」


「休暇……?」



思いがけぬ問いに、ついポカンとしてしまう。

エメラルダはそんな俺の反応にクスリと笑い、



「そんなにおかしなことじゃないでしょう? これまでは戦時下ということもあってそんなヒマはなかったけれど、今はいちおう平時よ。特にキウイは敵国へと二ヶ月近く滞在することになって、魔国幹部の中でも極めて苛酷な労働環境にあった……優先的に休むべきよ」


「はあ……」



苛酷……というほどのものだったかなぁ?

確かに王国にいた頃には『帰ったら休暇をとってやる』と思っていた気がしないでもない。


とはいえ、振り返ってみれば楽しかった思い出が勝る。

だって、久々に王国で最新設備に触れることができて、ヘラクリーズの復活に立ちあえて、ミニチュアキメラも診れて、読書ができて、人間の生体(シュワイゼン)を弄り回すこともできたうえ、しまいには土産の品(コーヒー豆)などを持たされて帰ってきたのだから。

まあ強いて言えば、前半の講和会議は退屈で辛かったといえば辛かったけど。



……だが、せっかくの申し出だ。休暇が取れるなら取らせてもらおう。



「考えておきます。ありがとうございます」


「ええ。そうしなさい。ちなみにヒヒ爺はもう取得済みよ」


「ギエンギビル殿が? 意外ですな」


「久しぶりの戦場ではしゃぎすぎて持病の腰痛を悪化させたの。温泉地で療養中よ」


「なんと……」



言ってくれればダークヒールしたのに。

いや……でもあの人、俺のことあまり好いていなさそうだからな。

仕方ないのかも。



「キウイも気兼ねする必要はないのよ。ほとんどの兵士たちも休暇を満喫しているわ……でも、あなたに似たのかしらね、スワンをはじめとした遊撃医療部隊の子たちは、休暇中だというのに軍の内外からダークヒーラーたちを募って <勉強会>をしているみたい」


「……なんとっ!」



それは初耳だ。

ダークヒーラーたちの勉強会だと……?

その実態はもしや、俺が発足を望んでいた『ダークヒーラーたちが分け隔てなく、それぞれの専門知識を共有し合い、ノウハウを貯めていく組織』──ダークヒーラー協会に他ならないのでは?



……まさか、俺が動くまでもなく、スワンくんたちが自主的に作ってくれるとは!



「フ、フフフフフ……! なんたることだ、素晴らしい……!」


「いたく満足げね? キウイが顔を出せば、みんな喜ぶんじゃないかしら?」


「そうしたいところですが……いえ、今はやめておきましょう」


「どうして?」


「部下たちが自主的に作った場へと上司の私が顔を見せるのはあまりよろしくないでしょう。ましてや休暇中なのですから」



そんなの、せっかくの部下たちによる自主性に水を差しかねない。

これで呆れられてしまい「やっぱりやめた」となってしまうのは辛いし、となるとここはしばらくの間、温かくその成長を見守るのが上司としての正しい在り方ではなかろうか?



「まあ、バレないように、今度こっそり覗きに行くくらいはするかもしれませんが」


「何というか、雛の巣立ちを見守る親鳥のようね?」


「まさしく」



俺は俺で自分の研究に邁進するとしよう。

今はその姿を見せることこそが、親鳥の使命と信じて。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第224話 【Side:スワン】それを人類は宗教と呼んだ」です。


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次回は12/1更新予定です。

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