第221話 【ビリビリ確定】人間だけどポーション飲んでみた!
──魔都デルモンド。
人型魔族たちが集いしその都は、いつにない賑わいを見せていた。
それもそのはず。
約一年にも渡った戦争がついにその幕を下ろしたのだ。
西方エルフ国家の戦線や王国の戦線から帰還した魔族たちを家族が迎え入れ、物流が正常に働き始めたことによって閉じられていた店の数々も開き始める。
そこへと笑顔の戻った婦人たちが続々と押しかけて、戦地から無事に戻ってダラけている旦那への愚痴を笑顔で交わし合う……なんとも健全な光景が広がっていた。
「……賑やかだね」
アラヤ総合医院での午前診療を終えた俺は、診察室の窓からそんな様子を眺めつつも、そこに混じったりはしない。
俺には、やるべきことがあるのだ。
「さて、と……」
ずっと気になっていたコレをようやく手にすることができた。
俺の目の前の机、瓶に入ったその緑色の液体は妖しく輝いている。
「ポーション……! まさか私の不在時に完成に至るとはね……!」
万能型ダークヒールの効能があるそのポーションは、何でもアギトが服用したところ、大きなケガでもほとんど時間をかけずに完治したという。
とすると、それは俺の直属の軍医たち……スワンらにも匹敵する回復力を持つことになる。
……フフフ。
俺は瓶の蓋を開けると、グラスへと少量移す。
残りのポーションが悪くならないようにしっかりと蓋をして、と。
グラスを傾け、グイッとひと口。
「──ギャアアアッ!!!」
体中に走る激痛。
ビリビリビリと、体の内側にまるで高圧電流を流し込まれているかのような感覚が容赦なく俺のことを攻め立てていた。
「どうなさいましたか、キウイ様!」
「ドクター・アラヤ!?」
俺の悲鳴を聞きつけて診察室へと入ってきたのは、護衛のシェスとアラヤ総合医院の受付嬢であるウサ耳魔族のウサリー。
「ウグググ……」
「キウイ様っ! いったい何が……敵襲ですかっ!?」
床に倒れ伏して痙攣する俺を見て、シェスが抜刀するやいなや周囲を見渡して警戒を始める。
一方のウサリーは、俺の状態をチェックするように首筋に手を当てて、
「みゃ、脈がおかしい……? いったい何が……!?」
「ポ、ポー、ション……」
「ポーション……?」
途切れ途切れに発した俺の言葉を聞いたウサリーが周囲を見渡して、机の上にある、少し量の減ったポーション瓶に目を留めた。
「えっ……ま、まさかとは思いますけど『ポーションをご自身で飲んだ』なんてことはないですよね? 聖の位相であるドクターが飲んだら、当然、悪魔の雷が発動するわけですが……」
「……」
「ドッ、ドクター・アラヤ!?」
目をまん丸に見開いて素っ頓狂な声を出すウサリー。
「なんで飲んじゃったんですかっ!? 誤飲!?」
「フ、フフフ……これから他者へと飲ませるモノだからね……じ、自分でも、どういった効果があるかは、確認しておかねばならんだろう……?」
「え、えぇ……」
俺の答えに、ウサリーもシェスも若干渋い表情になりながら、
「ド、ドクター、もはやそれ自傷行為では……?」
「キウイ様、好奇心に駆られるのもほどほどにしてください」
「……心配をかけて申し訳ない」
そう注意を受けてしまう。
さすがに少量とはいえ、グイッと飲むのはやり過ぎだったみたいだ。
風味を感じる余裕もないほどの激痛だったし……。
反省だ。
「どういたしますか、キウイ様。回復聖術の使えるアネモネさんたちを呼びますか?」
「いや、それには及ばないよ。もうだいぶ痺れもとれてきた」
「そうですか。それならばよかったですが」
「それよりも、医院に何か甘い飲み物とかは置いてなかったかな? ポーションのせいか、喉がイガイガしてね」
「お客様に差し入れでいただいたリンゴジュースならいくつかありますよ」
俺の問いに、ウサリーがそう答えてくれる。
「お持ちしましょうか?」
「いや、それには及ばないさ。自分で取ってくる」
俺は医院の受付の奥、瓶に詰められたリンゴジュースを発見。
診察室に持ち帰ると蓋を開ける。
トクトクトクとグラス半分ほどまで白桃色をしたその液体を注ぐと、キュポンッ!
またポーションを開けてリンゴジュースと混ぜる。
ゴクリ。
「──ギャア!」
「ドクターッ!?」
「キウイ様ッ!?」
全身を駆け巡る悪魔の雷にのたうち回る俺、再び診察室へと駆けつけて青ざめた顔のウサリーと、同じく驚愕に目を見開くシェス。
「ウ、グググ……」
「何をやってるんですか、ドクターッ!!!」
「リ、リンゴ……」
「リンゴ!? まさか、リンゴジュースで割って飲んだんですかっ!?」
「……」
「どうしてっ? まさか、効果が半減するとでも思ったんですか!?」
うん、思った。
ポーションの量もだいぶ減らしたし。
でもそれでもやはり人間にとっては量が多かったらしい。
「だ、だが……口当たりは、ま、まろやか、に……あ、青臭い風味を、わずかに感じられ……」
「いつか死にますよ、ドクター」
ウンザリとした目を向けられてしまう。
一方のシェスには何だか悲しげな目を向けられて、
「キウイ様……私は誓いました、あなたをお守りすると。ですが、こうもご自身でご自身を攻め立てられては、私にもどうしようもございません……」
「……すまない」
「もう少し、ご自身の体を大切になさってください」
「う、うむ……」
俺が頷き返すと、ウサリーが俺の机の上のポーションをヒョイッと掴み上げる。
「では、これは没収しておきますね、ドクター」
「なっ! 貴重なものなのだよっ?」
「今回の一件について、ミルフォビア様に報告してもいいんですけれど」
「……それは勘弁してくれたまえよ」
叱られてしまうもの。
またゾンビ大量発生の時のように付きっきりになられたら敵わない。
ウサリーは小さくため息交じりに診察室を出て行く。
シェスも力なく首を横に振って、
「私も『今回は』ミルフォビア様に報告はしませんが……」
「……」
「……よろしくお願いしますよ、キウイ様」
そう言い残して行った。
何たることだろう。
ポーションを失い、ミルフォビアにも怒られる窮地に立たされるとは。
……だが、しかし。
この探求心は誰にも止められやしない。
「さて、と」
ガラガラガラと。
デスクの下の一番下、深い引き出しにしまっていた予備のポーションを取り出すと、俺はそこからスポイトで一滴、緑の液体を吸い取る。
それをグラスに入れて、百倍以上のリンゴジュースで希釈した。
「いける……今度こそ!」
恐る恐るひと口、俺はグラスへと口をつけた。
ゴクリ。
ピリピリピリ。
「おぉっ、お、おぉぉぉ……!」
全身に広がる、静電気が弾けるようなパチパチとした刺激。
目が覚めるような味とはまさにこのことだ。
「フッ、美味いじゃないか……!」
人間でも、少量ならポーション摂取が可能ということがわかった。
リンゴジュースのせいでポーションの青臭い風味も消えている。
これは素晴らしい研究結果だ。
いずれ、この原液を薄めて人間向けに販売できたならきっと唯一無二の商品になるだろう!
商売繫盛間違いなしだ!
「……まあ、どうせならポーションを回復聖術にも応用することができればなおいいんだが……」
それは応用研究の範疇だな。
ムコムゥには引き続きこのポーションの原価率と製造工程を洗練してもらうための研究に精を出してもらいたい。
だから、聖術方面への応用はその道に長けたエルフたちにやってもらうのがいいだろう。
誰に任せるのがいいか……考えておかねばな。
俺がそうしてコクコクとリンゴジュースを飲み下し、悪魔の雷のパチパチ感を堪能しながら物思いにふけっていたところ、
──コンコンコン。
「ドクター、お客様です」
ノックの音と共にウサリーの声が聞こえる。
俺は慌ててポーション瓶を引き出しの内へと隠し、
「お客? 誰かね、今日は休診時間中の予約は入っていなかったはずだが」
「──私よ、キウイ」
ドア越しに聞こえてきたのは、俺のよく知る声。
魔国幹部エメラルダのものだった。
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次のエピソードは「第222話 魔王代理エメラルダの胃痛」です。
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