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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第220話 シュワイゼン、因縁の果てに

「──帝国や共和国からの外交的アプローチはナシ、ですか」



戴冠式から数日経った王都、そのホテルの一室にやってきたアポロとヘラクリーズは俺の言葉に頷くと小さく肩をすくめてみせる。



「今次戦争において帝国たちが王国の支援をしていた、という事実をあくまで認めない姿勢なのでしょう」


「何とも面の皮が厚い……と言っても、私が彼らの立場であっても同じことをしますが」



帝国らが関与していたという事実を魔国は掴んでいる。

しかし、現状の国際社会においての帝国も共和国も、魔国の敵という位置にはいない。

どれだけ彼らが裏で技術提供や義勇軍を派遣していようが、魔国への宣戦布告もしていなければ王国の味方であるという表明もしていないのだ。

帝国も共和国も、完全なる第三者としての位置を確立している。



「魔国が彼らへと報復行為を行おうとすれば、国際社会においてそれは『不当で一方的な攻撃』であり『魔族による人類侵略の一環』とみなされるでしょうな。それは魔国にとって、他の人類国家全てを敵に回すことになる泥沼戦争の始まり……それを彼らはよくわかっているのです」


「ええ、承知しております。問題は、彼らがこの一件をうやむやにして無かったことにするつもりか、それとも魔国との本格開戦までの時間稼ぎにするつもりかということで……」


「まあ、どちらにせよ、魔国は少なくとも帝国のことを完全に滅ぼすつもりでいることに変わりはありません。ですが、できる限り『綺麗な状況』を整えたい」


「綺麗な状況?」


「泥沼で戯れるほどの童心はもうない、ということです」


「……なるほど」



アポロは苦笑いで返す。



「『魔国と人類の戦争』ではなく『魔国と帝国の戦争』としての舞台を整えようというわけですね? となれば、帝国との間に火種を見つける必要があります」


「ええ。元第一王子のオルフェウス殿が見つかれば『要人救助』の名目で多少は強気に出ることもできますが、いったい彼はどうしたのでしょうな? シュワイゼンの情報によれば、例の方舟作戦で帝国へと向かったそうですが」


「真っ当に考えるなら幽閉か何かをされているでしょうね。見つけるのは至難の業でしょう」



まあ、そうだろうなと俺も思う。

であれば、だ。



「新たな駒を探します。チェックメイトに至るために」



帝国側に表立っての動く意思がないのであれば、こちらも『準備』に徹するフェーズだろう。

どのみち魔国にしても、王国を挟んで隣の帝国と開戦するとなれば、王国内に強固な陣地を築き、兵站線なども新たに確保する必要がある。



「では王国は当面、内政の安定化と戦争被害からの復興を目指します」



アポロは決意をその手にグッと握りしめるようにしながら言う。



「アラヤ様たちの協力と、多大な犠牲の上にやっと手に入れた平和ですから。今は一刻も無駄にはしていられない」


「応援していますよ、アポロ陛下。……では、私も明日にでも王国を発とうと思います。こちらの地でやるべきことも済みましたので」


「……そう、ですか」


「そう不安な顔をなさらないでください……ヘラクリーズ」


「ハッ、キウイ様」


「君は王国に残りなさい。アポロ陛下をお守りするのだ」


「っ……!? よ、よろしいのですかっ?」


「まあ、よろしくはない。私のことを背負う者がいなくなるのは困る」


「で、では……」


「だが、魔国を出立する時にジャームから聞いていたからね。君はその身が滅びるその時まで王国に尽くそうと、ゾンビ化を受け入れたのだろう?」


「それは……はい」


「ならば今度はやり遂げてみせたまえ」


「……!」



しばらくの間ヘラクリーズは逡巡する様子だったが、しかし。



「……承知いたしました、キウイ様」



決意の光を宿した力強い瞳で俺を見返してくると、その場に膝をつき頭を下げてくる。



「誠にありがとうございます。必ずや陛下をお守りし、そしてキウイ様のお役に立てるようこの身を尽くします……!」


「ああ。頼んだよ」



俺の強固な護衛たちからヘラクリーズが抜けてしまうのは正直なところ、痛手ではある。

だが現状帝国との戦闘が新たに発生する気配もない以上、過剰な戦力を俺の周囲に縛り付けておくというのも悪手だろう。

ならば、



「そういうわけですから、アポロ陛下。何かあればヘラクリーズに申しつけを」


「ア、アラヤ様……あなたという人は、どこまで……」


「いいのですよ、アポロ陛下。われわれは『盟友』なのでしょう?」


「……誠に、誠に感謝申し上げます……アラヤ様っ!」



感極まったように、アポロは俺の手を取るや固く握ってくる。

どうやら、これでまた一つアポロの中で俺の株は上がったようだ。



……適材適所。せっかくの優秀な人材はこのようにして有効活用すべきだよね。



俺は次の公務へと向かうアポロとその護衛のヘラクリーズを見送ると、ほくそ笑む。

アポロへは多くの貸しを作っている。

もはや王国内での俺の権利は安泰だろう。



「アラヤ様」



応接間のソファの背に体を預けていた俺の元へとやってきたのはミルフォビア。



「次のお客様がもうお越しになられております。ホテルのロビーでお待ちいただいていますが、部屋にお通ししても?」


「ああ、よろしく頼むよ」



さて、これがこの王都滞在中で最後の訪問客になるだろう。

そのまま応接間で待っていると現れたのは男女の二人。



「──キウイ・アラヤ様っ!」



女の方──エリィ・マルグノワルがその表情をパアッと輝かせて俺の前まで素早くやってくると、深々と頭を下げてくる。



「この度はヤコフの命を助けてくださいまして、本当に、本当にありがとうございましたっ!」


「いやいや。私はやりたいようにやった──ではなくて、ダークヒーラーとしてするべきことをしたまでさ」


「そんなことおっしゃらないでください! 私にとっては神様以上の救いの手だったのですから……あ、こちらその、お口に合いましたらぜひ」


「いいんですか? これはどうもありがとうございます」



エリィから手渡されたのはズシリと重たい紙袋。

包みの中から香ばしく漂ってくるのは煎ったコーヒー豆の匂いだった。

コーヒー党の俺としては何とも嬉しい。

王国産のものは、魔国のものよりもだいぶデキがいいのだ。



「ヤコフ! ホラ、あなたも入り口でぼーっと突っ立っていないで、お礼を言わないと!」


「あ、ああ……」



部屋に入るなり、俺のことを凝視していたヤコフ・シュワイゼンが、エリィの手招きに頷いて応じると、恐る恐るといった様子でエリィの隣へと立った。

どうやら傷はほとんど癒えたらしく、自力で歩けるほどには体力も回復したようだ。



「こ、この前は俺のことを助けてくれて本当に、ありがとう……」


「『ございました』は? ヤコフ」


「ありがとう、ございました……」



シュワイゼンはエリィに促されるがままぎこちないお辞儀を披露してくれる。



「構わないよ、シュワイゼン」



本当に大いに構わない。

手術は楽しかったし、王国が帝国と共和国から支援を受けていたという件や、方舟作戦についての詳細も病院の一室で聴取済み。

命の見返りは十分にもらっているからね。



──俺たちはエリィを含めてしばらく会話に興じた。



エリィは心底嬉しそうに「ヤコフがとうとう退役を決意したんです」「ようやく普通の暮らしができます」「アラヤ様、アポロ陛下たちのおかげです」などと明るく話してくれるので、俺とシュワイゼンは相槌ばかり打っていた。



「──すみません、ご多忙の中、長居をしてしまって」



エリィはかしこまったように言うと、ソファから立ち上がる。



「さあ、ヤコフも」


「……いや、エリィ。私は少しアラヤ殿と話があるから」


「えっ?」


「すまない、マルグノワルさん。ほんの少しばかり用事があってね」


「はあ……アラヤ様がおっしゃるのなら」



首を傾げつつ一人で部屋を後にするエリィ。

ミルフォビアに連れられたその姿が見えなくなると、俺とシュワイゼンは改めて向かい合った。

そして、



「……キウイ・アラヤ。聞かせてくれ。どうして俺はまだ、こんなにも自由にされている?」



シュワイゼンの第一声はそのことについてだった。



「まだ、謝罪も贖罪もできていない。俺は……おまえたちのことを手酷く扱った」



そうして、対面の席から俺の座るソファの元まで回り込んでくると、その場で膝をつき深く頭を垂れる。



「今さら遅いとは思う。だが、これまで本当に申し訳なかっ──」


「いや、そんなつまらない話はどうでもいい」



俺は遮る。

まったく、何を言い出すかと思えば謝罪の言葉とはな。

いやいやいや、勘弁してくれたまえよ、本当に。



「それを聴くことによって、1マニーでも私の得になるのかね? シュワイゼン」


「……はっ?」


「ならないだろう? まあ、君のこれまでの悪事を鑑みれば、何とかして赦されたい気持ちが起こるのもわからんではないが……なぜ私がわざわざ赦してやらねばならんのだ」



あぜんとしたように、あるいはすがるような眼差しを向けてくるシュワイゼンへと、俺は当然の言葉を告げる。



「君が赦されることはないのだよ、シュワイゼン。君の行いによって奪われたかつての私の尊厳も、魔国・王国民たちの命も、謝罪程度で戻ってきたりはしないのだから、無意味だ。生産的ではない。頭を上げたまえ」


「でっ、では、俺はいったい、どうすれば……」


「罰を与えられ、それを贖えたら満足だったか? 私は不満だがね。牢屋に入れて不自由に体育座りさせているくらいなら、帝国との国境線で銃を構えさせていた方がまだ利益になる」


「俺をこれから最前線に送る、ということか……!? それが、おまえなりの俺への復讐だと……!?」


「違う。まったくもって違うよ、シュワイゼン」



ああ、どうしてこうも話が通じないのだろう?

俺が言葉足らずなのだろうか?



「君の悪事、君に対する私怨、利益……それらは全て独立した事柄だ。繫げて考えるのはよせ」



ため息交じりになりつつも、俺は子どもを諭すようにゆっくりと、丁寧に言葉を紡ぐ。



「私はね、『得がしたい』のだと言ってるのだよ。常にそうだ。私が君を生かしたのは他ならぬ私の知的好奇心からだし、私が君をこうして自由にさせているのも今後の利益のために過ぎん。だからね、シュワイゼン、私が今日君にここに来るよう言ったのはこれからの <君の仕事>の話をするためなのだよ」


「し、仕事……?」



こちらの瞳を覗き込むようにして聞いてくるシュワイゼンへと、俺はあらかじめ準備していたものの一つ──名刺入れをシュワイゼンへと手渡した。

その肩書きは <貿易社代表>。



「こ……これはっ?」


「シュワイゼン、君にはこれから貿易事業を始めてもらう。まず手始めに王国の最新研究設備を魔国へと向けて送ってほしいものだ。アポロ陛下に頼んで、会社の建物も倉庫もすでに確保してある」


「俺に……貿易商になれとっ?」


「ああ。だが、ただの貿易商ではないぞ? 運んでもらうのは物品だけではない」


「……! まさかっ」



そこへきて自分が何をさせられるのか悟ったらしい、シュワイゼンの顔つきが変わる。



「察しの通りだ。君が適任なのだよ……情報部将校として培った知識、それにコネクションも多いだろうからね」


「……つまり私に、魔国のためとなる情報を集めろ、と?」


「主に帝国や共和国のな。慈悲深き魔王陛下は、王国の影に隠れて暗躍してくれた彼らに対しても、決して <返礼>を欠かしてはいけないと仰せだ」


「……ま、また戦争……! その火種を、私に探してこいというのか……!?」


「そうだとも。君の得意分野だろう? シュワイゼン」


「ま、また人が、大勢の人々が死ぬんだぞ、キウイ・アラヤ……!」


「場合によってはそうかもしれないな。だが仕方ない……彼ら自身が選んだ道だ」



自らの行いは自らで報いを受ける他ない。

魔国が王国へと差し出した講和会議という優しい手を、帝国と共和国も一丸となって、手ひどく弾いてくれたのだから。

最悪の場合は……全国民ごと蹂躙し尽くされるのだろう。



「ウッ……ウェッ……胃が……!」


「胃炎かね? 体は大事にしたまえよ。君にはこれからもまだまだ働いてもらわなければならないのだから」


「そんな……これ以上、誰かの命を奪うことになるくらいなら、いっそ……いっそ俺は……!」


「『いっそ』? いっそ、なんだというのだね? これは、決して君にとっても悪い話ではないはずだが?」



俺は微笑する。

するとシュワイゼンは青ざめる。

いったいどうしてそんな反応をするのだろう?



「君が働けば、君もエリィも末永くこの王国で幸せに暮らせるだろう。だが、そうでなければ……エリィはいったい『どうなる』だろうな」


「ッ!!!」



きっと悲しむに違いない。

命懸けでシュワイゼンのことを救いに来たのだから、結婚も考えていることだろう。

だというのに、当のシュワイゼンが退役してそのままフラついて、無職の伴侶になるだなんて願い下げに決まっている。



「エリィのことを『本当に幸せにしたい』のならば、自分の選ぶ道はよく考えることだ」


「……! な、なんて、こと……」



俺の激励の言葉へと、しかしシュワイゼンはなぜか愕然としように、その場でうなだれてしまう。



「ま、まさかエリィに対して、今まで良くしてくれていたのは……全て、この時のため……」


「ん? なんのことだね?」


「は……ハハ……ダメだ……敵うワケが、ない……」



俺の反応に、渇いた声で笑ったシュワイゼンは、全てを手放すかのように長く息を吐き出し、それから全てを受け容れるかのように深く息を吸うと、



「…………その仕事、承った。やらせてもらおう、俺が地獄に落ちるその日まで」



そう言って、快く了承してくれる。

よかったよかった。

これで火種を手に入れる手段が一つ増えた。



「じゃあ、よろしく頼むよシュワイゼン。これまでの罪に贖いたいと言うならば、今この王国で生きている王国民たちの未来のため、身を粉にする気持ちで魔国に尽くすことだ」



シュワイゼンが、恐らくは胃痛に顔をしかめながら、俺の差し出した手を取る。

ここに契約は成立した。

今後の働きにはぜひとも期待させてもらおう。


……さて、王国にもしっかりと根は張れた。

これにてようやく、この長い出張も終わりだ。



「──帰ろうか、魔国へ」



シュワイゼンも去り、すっかりと静けさを取り戻した部屋を見渡して言うと、ミルフォビアやシェスたちが頷き返してくれる。

講和大使から革命家という慌しい日々にも幕が閉じ、いよいよ本業に戻ることができる。



「さて、どれだけの患者が待ってくれているかな」



また明日から、ダークヒールをしまくってやろうではないか。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第221話 【ビリビリ確定】人間だけどポーション飲んでみた!」です。


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次回は11/24更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
初志貫徹見習いたいものだね シュワイゼンのこれからは大切な人が隣にいる人生だ これまでの人生よりは苦しいこともあるが楽しいはずさ 更新ありがとうございます!
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