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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第217話 少し痩せたんじゃないですか?もっと食べてくださいアラヤ様

「──号外! 号外だよ!」



ボンヤリとした意識の中。

ヨシトッケの耳を打つのは、そんな騒がしい声だった。



……うるさいな。新聞売りか?



まだ眠いんだ、静かにしてくれないかな。

ヨシトッケは寝返りを打とうとして、しかし打てない。

体中にビリビリと痺れるような痛みが走った。

それに気づいて慌てて目を見開く。



「こ、ここは……」



そこは家の中ではなかった。

ヨシトッケが寝転がっていたのは、王都内のどこかにある、路地裏。

加えてその腕は、後ろで縛られており不自由だ。

意識が一気に覚醒する。



「そうだ……俺は確か王都巡回の最中で──」



出会ったのだ、恐ろしい <怪物>に。

それは一見すると虚弱そうな男だった。

痩身で、血の通っていなさそうな真っ白な素顔は、片手で押せば倒れそうなほどに弱々しく、俺はそんな男へと銃口を向けたのだ。

しかし、敵わなかった。

気付けば地面に組み伏せられ、そして男の妖しげな魔の手に頭を掴まれて、俺は──。



「……なぜ、俺は生きている……?」



地面に倒れた時に負ったすり傷以上のケガはない。

辺りに <あの怪物>の姿もまた、なかった。

それどころか、もう辺りはすっかりと明るく、人々の騒がしい声が大通りの方面から響き渡ってきていた。

すっかりと夜は明けていたのだ。

ヨシトッケは路地の壁に肩を押しつけるようにして何とか立ち上がると、通りへと出た。



「──号外だよ! 号外だ!」



そこは王立図書館前の大通りだった。

大通りは祭りの日のように大勢の人々に塞がれていて、特にその中央には過密な人だかりができている。

その中心にいるのは新聞売りの男。

彼は号外新聞をばらまきながら叫ぶ。



「今朝、国王ゼウスが王宮で降伏宣言をした! 戦争が終わるんだ!」


「…………は!?」



ヨシトッケは耳を疑った。

そして辺りを見渡して、ヨシトッケの状況に気づいた市民の一人に縛られていた腕を解放してもらうと、自分もまた号外新聞をもらいに行く。

手に入れたその大見出しに書かれていたのは、



『愚王ゼウス降伏

  退位待ったなし』



その一文だった。

以降には降伏宣言の詳細が小さな文字で起こされており、その後にまた見出しで書かれていたのは、



『史上最悪の愚王

  王都議事堂事変への関与認める

   第一王子オルフェウスは国外逃亡か』



そんな王族の罪を認めるような文。

それにも当然目は引かれるが、ヨシトッケがそれ以上に視線をくぎ付けにしたのは、その次の見出しだった。



『深夜の大革命劇!

  立役者は新国王のアポロ殿下

   そして魔国幹部の──』



ヨシトッケがそこまで読んだところで、ザワッと。

にわかに群衆から騒ぎが起こった。

それは王宮方面の通りから聞こえてきたもので、道を塞ぐようにして号外新聞を読んでいた人々が、次々に道の端へとその体を避けていく。



「なんだ……?」



さながら預言者が神の力で海を割るかのような光景に、眉をひそめていたヨシトッケだったが……次の瞬間、人波を割って現れたその人物を見て、総毛立つ。

白衣にも見えるスーツを着たあの男が、あの怪物がやってくる。



──魔国幹部……キウイ・アラヤが。



周囲が、時間が止まったかのような静寂に包まれる。

原因は当然、そのキウイ・アラヤだ。

視線だけで見た者の血液を凍らせるようなその冷たいまなざしに、ヨシトッケをはじめ多くの者たちがブルリとその身を震わせていた。


そして、それだけではない。

キウイ・アラヤが後ろに率いるその群団を見て、みな一様に声も出せぬほどに息を呑んでいた。


キウイ・アラヤの両隣を歩むのは、われらが第二王子アポロ殿下と、もう一人は妖艶な美女……悪魔だろうか? キウイ・アラヤへとピッタリと寄り添うような位置を歩いている。


それに続くのは一見まるで天使のような白い翼を持つハーピーと、人間の考えなど及ばぬであろう透き通った目をした三人の長命種(エルフ)の女たち。


そして群団の最後尾を守るようにして歩くのは、研ぎ澄まされた刀剣のように美しい女剣士と、伝説の暗殺者と言われても納得できるほどの鋭い眼光を持つ長身の男、一つ歩みを進めるごとに地響きすら聞こえてくるような存在感を放つ筋骨隆々な巨躯の戦士たちだ。



……これが……勝者か。



ヨシトッケには理解できた。

いや、その光景を見る全ての王都民たちが理解していた。

その群団の一人一人が、ヨシトッケを始めとする王国兵などとうてい及ぶべくもないほど大きな力を持つだろうことを。

そして、そんな猛者たち全員の視線を一手に集めている人物が、あのキウイ・アラヤなのだということも。



──今、彼こそがこの王都の中心だった。



自然と、ヨシトッケの足も後ずさりする。

もはや銃を構えようなどという勇気すら持てない。

近寄ることなどとうてい無理だ。

胸を押されるかのような圧力が、たった十人にも満たないその群団から発せられているようだった。

すっかりと人波の間にできた広い道を、ヨシトッケのそのすぐ眼前を、キウイたちは()く。



……ああ、本当に敗けたんだな。俺たちは。



そして彼らの行く先で決まるのだろう、これから王国が辿る運命が。



「神よ……もしいるならば、どうかわれわれをお守りください」



群団が過ぎ去り、呼吸の仕方を思い出したかのように、ポツリポツリと人々のざわめきが戻ってきた大通りの端で。

あまり信心深くはなかったヨシトッケは、しかしこの時ばかりは両手の指を組んで、強く、強く神に祈った。



……どうかあの怪物──魔国幹部キウイ・アラヤが。



……その魔の手で、この国を滅ぼそうなどとはしないでくれますように、と。






* * *






王宮から俺、キウイ・アラヤが王都民たちの視線を浴びつつ帰った先は、王都の高級ホテル。その一棟を丸々貸し切って、アポロの戴冠式が終わるまで滞在することになっていた。

そして今、俺を待ち受けていたのは、



「お腹が空いてるでしょう、アラヤ様。すぐにリンゴを剥きますのでその間にこのバナナとオレンジを食べておいてください。リンゴが剥き終わったら、それをアラヤ様が食べている間にサンドイッチとサラダを作って、それからシチューを作りますから。あ、お米も炊いておきましょうね」



──ミルフォビアによる兵糧攻め (※逆の意味で)だった。



テキパキと動き、スイートルームについているキッチンへと果物、野菜、そして肉を所狭しと並べていく。



「あの、ミルフォビアくん、さすがに私はそんなに食べられな──」


「いいえ、しっかり栄養をとってもらわなければ困ります! これまでご多忙だったのでしょうっ? また体調を崩されたりしたら困りますので!」



ミルフォビアはフン! と気合十分に鼻を鳴らすと、



「それにしてもちょっとお痩せになったんじゃありませんか? 伯爵様の元で食事のお世話になっていたようですが……どうせわたくしがいないのをいいことに偏食していたか、研究に没頭してお食事を抜いたりしていたのでしょうっ?」


「い、いや、決してそんなことはないが……」


「どうなんですか、シェスさんっ?」


「……多少、食生活は乱れていたかと」


「ほら見なさい!」



ああ、無念。

シェスはミルフォビアの圧に屈して真実を告白してしまっていた。

申し訳なさそうにコチラを見てくる。



「さあ作りますよ……ローズさん、スワンさん!」


「ああ、任せてくれ。私はサンドイッチとサラダから料理()る──!」


「では私がリンゴを剥いておきましょう。待っていてくださいね、ドクター」



そうして、ここまで第二の秘書のようにピタリと俺の横に付いてきていた直属部下のスワンと、何故か王都にまでやってきたエルフの三人組の一人・ローズによるクッキングが始まってしまう。

ローズが背負っていた大きなリュックもまたキッチン台へと載せられると、ミシリ。

台が軋んだ。



……おいおい。鉛でも詰められているのではあるまいな?



「まあ楽しみに待ちなよ、キウイ。あのリュックの中の野イチゴジャムはローズの特製だよ。喜んで食べるといいよ」


「ローズの愛情がたっぷりだよぉ~」



料理の間、料理担当からはあぶれたアネモネとキンセンカの二人が、両手いっぱいにフルーツを抱えて俺の元へとやってくる。

特製ジャムか、気持ちはありがたいが……。



「オレンジ切ったよぉ。五個。召し上がれぇ~」


「ホラ、バナナ剥いたよ。十本。食べなよ」



ズイズイと、二人から差し出される大皿に盛られたフルーツ……。

正直、それだけで十分にお腹は満たされてしまうのだよな。

というかそんなに食えない。



「あ、ありがたくいくつかいただこう。そして……アポロ殿下もいかがかな?」


「よろしいのですか? ……では、ありがたく」



ポカンとした様子で俺の隣のソファ席へと腰かけていたアポロが応じてくれたので、ホッとする。

ヨシ、この先もシェアする方針でいこう。



「……ここにいるみなさまが、アラヤ様の御配下の方々、なのですよね?」


「はい。そうですね」


「エルフのみなさんも含めですか」


「ええ。形式上は」



どちらかといえば、エルフたちやムコムゥなどは研究者仲間といった感じではあるのだがね。

まあ逐一説明する必要もあるまい。

問いに対する俺の答えを聞いて、アポロはフッと顔を綻ばせる。



「やはり、慕われておられますな。アラヤ様は」


「ありがとうございます、殿下。私には過ぎた、できた部下たちに恵まれました」


「いいえ。全てアラヤ様の人徳の為せることだと思いますよ。種族の壁をまたぎ、これだけの人々に想われるということは……すごいことです」


「キミはこの国の王子なんだろ? なら、キウイよりもよっぽど人徳はありそうなものだけどね」



そう口を挟んできたのはアネモネ。

自分で剥いたバナナを自分でモシャモシャと頬張りながら不思議そうにアポロを見やった。

それに対し、アポロは寂しそうに微笑むと、



「私にある人徳というものは、その全てが私が王族の一人であるということに起因しているものでしたから、誇れるようなものではありませんよ。そしてこれからはむしろ、ソレは人徳ではなく……この王国を破滅へと導きかけた『裁かれるべき悪の象徴』として人々の目に映ることになる」


「……ま、まあ、元気出しなよ。オレンジに砂糖を振ってあげよう」


「……ありがとうございます」



アポロは砂糖付きオレンジをアネモネから受け取ると口に運び、その甘さにむせ返った。

ああ、無理して食べなくていいのに。



「殿下、あまり悲観なさることはない」



俺はアポロ殿下へと水のグラスを差し出しつつ、



「幸い、頼る希望がわれわれだけになった国王ゼウスは全ての罪を認めて、退位も決意したのです。悪評は全て彼に背負えるだけ背負わせて、表舞台から去ってもらいましょう。アポロ殿下はこれまで通り、国民の希望の象徴となることができます……というよりも、なってもらいます」


「……」


「国の象徴たるアポロ殿下が魔国を受け入れてくれるからこそ、王国民もまた不安がらずにいられるのですから。よろしく頼みましたよ」


「……はい。とんだ弱音を吐いてしまいましたね、申し訳ございません。ですが、ご安心を」



アポロは覚悟を決めるように砂糖付きオレンジを食べ尽くす。

そして、



「予定通り、私は王になります。そして、慈悲深くもわれわれのことをお許しくださったアラヤ様、そして魔王陛下のために今後、粉骨砕身を尽くしましょう」


「……大変に心強いです、殿下。どうぞこれからもよろしくお願いいたします」



俺が差し出した手を、アポロ殿下は強く握って返してくれる。

そんな俺たちの横の机へと、ドスン! ドスン! と。

大皿に積み上げられた大量の兵糧が投下されてくる。



「ドクター! リンゴが剥けましたよ、二十個です!」


「キウイ、サンドイッチだ。いくつか種類はあるんだが、その……よかったら、このイチゴジャムサンドから食べてみてくれないか? じ、自信作なんだ……。三十切れほどあるから、どれだけ食べてもらっても構わないぞっ」



ひと口サイズにカットされたリンゴは海に立つ大波のように皿を埋め尽くしており、そしてサンドイッチは王国軍本部の棟かと見間違えられるくらい高く積み上げられていた。



「……ありがとうみんな、とても……嬉しいよ」



俺はそう感謝を述べつつ、アポロ殿下へと向き直り、その手をよりいっそう強く握った。



「ではまずは共に食事といきましょう、殿下」


「え? あ、はい……私もですか?」


「ええそうですとも、殿下。できるだけ多く食べてくださいね、殿下。少なくとも私よりはたくさんですよ、殿下」



ここに固く強い同盟は結ばれた。

魔国と王国、どのような苦難も共に乗り越えていこうじゃあないか!


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第218話 戴冠式:大いに衰退せよ、人類」です。


「面白かった!」


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ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


次回は11/17更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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