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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第216話 人類根絶はもったいないと思います

──王国の降伏宣言を前提とした上で、終戦の提案をしたい。



メンシュリッシュにおいて魔国軍総指揮官としてその辣腕を振るっていたエメラルダは、その提案を聞くや、さっそく行動を始めてくれた。

そしてメリッサを乗り継ぎして、俺はすぐさま魔王城へと直行する。

講和会議へと出立して以来になるので、実に二ヶ月ぶりの帰還だった。



……うむ。帰還、と自然に表現できるようになるくらいには、どうやら俺も魔国に馴染んできていたらしい。



「──なるほどな。アポロ殿下と王国諸侯らと結託し現王政を打破した。ゆえに、これ以上の交戦は無意味……いや、むしろ王国による <方舟計画>のことを考えれば悪手になり得る、ということか」


「はい。その通りです」



広い玉座の間に、魔王ルマクと俺、二人の声だけが響く。

真夜中にもかかわらず俺の到着を出迎えてくれたルマクは、俺からの一通りの報告へと耳を傾けてくれていた。



「キウイの提案の理由はよくわかった。確かにアポロ殿下が王となるのであれば、前回反故にされた講和条約も上手くまとまるだろうな」


「はっ、その通りかと」


「だがな、キウイよ……それは果たして、われわれが矛を収めてやる理由になるか?」


「……と、おっしゃりますと?」


「俺はこうも思うのだよ、王国も、そして帝国や共和国といった第三国らの人間を、一人残らず葬り去ってしまえば済む話ではないか、と」



……なるほど、そうくるか。



力ずくでの解決とは、なんとも魔国らしいと言えば魔国らしい。

そして西方エルフ国家という巨大な敵がいない今、実際それができるだけの力が魔国にはあるだろう。

だが、



「お言葉ですが、陛下。それは魔国が今後、全人類を敵に回すことを意味しております」


「ウム。そうなるな。何か不都合か?」


「率直に申し上げますと……陛下らしくない判断かと」



俺の言葉に、ルマクは玉座の肘掛けへと体を預けつつ動きを見せない。



「何がそこまで陛下の背を押しているのですか? 確かに王国の議事堂でのおこないは浅はかであり、許しがたいものではありましょう。しかし、それに対する報復行為は、未来永劫に渡って人類を敵に回すことになる、というリスクを冒してまで果たすものでしょうか?」


「……」


「西方エルフ国家のマロウと対峙するにあたって万全の準備を整えていらっしゃった陛下らしからぬ性急さに思えます」



ひと息に言い終える。

さて、どうなるか……。

言い回しにはできる限り気を付けはしたが、不敬罪で雷を落とされたりしないか心配だ。

若干ひやひやしつつ言葉を待っていると、



「……キウイよ。人類の進化の速さをどう見る?」



ボソリ、と。

ルマクはため息でも吐くかのような小ささで問うてくる。



「『どう見る』とは……どういった視点での話でしょうか」


「人類がこの数十年……いや、十数年で果たしてきた科学的発展についてだ。俺はな、他の者たちの手前、大きな声では言えはしないが……これを明確な脅威だと考えている」



玉座から立ち上がり、そしてその正面で膝をついていた俺の横へと並んだ。



「俺の知っていた人類には、一人一人の兵士が歴戦の魔族並みの攻撃力を持つことが可能になる銃器などという武器は備えていなかった。ましてやエルデンの壁を一瞬で打ち砕く強大な兵器や、空を飛び地上を攻撃する力もな。全ては……この『たった数十年』の発展の産物なのだ」


「『たった数十年』……ですか」



俺からしてみれば途方もない年月なわけだが、しかし寿命の長い魔族から見れば、それは一生に占める割合のほんの一部なのだろう。

そういった感覚になるのもうなずける。



「一度目はエルデンを奪われた。そして二度目、俺はエメラルダやガン・ケン、そしてキウイ……おまえたちをも喪う危機に瀕した。人類はな、今現在でさえ、十分にわれわれを脅かす存在なのだ」


「……なるほど、そういうことですか。つまりこれ以上人類が進化する前に、その芽を摘み取ってしまいたい、というわけですね?」


「そうすべきではないかと俺は考えている……が、キウイよ。おまえはどう思う?」


「……明確な脅威であることは、確かかと」


「そうだろう? ならば、人類の進化が追い付けない速度で、人類を葬り去ってしまうのが根本的な解決に繋がる……そうは思わないか?」


「…………いやぁ」



俺は言葉を濁さざるを得ない。



……まあ確かに、もし人類根絶が可能なのだとすれば、魔国としてはそうするに越したことはないのだろう。



だが、それをされてしまって困るのは誰か?

王国民か?

トロイア伯爵たちか?

それともアポロか?

いいや、違う。



──何よりも困るのはこの俺、キウイ・アラヤだ。



だって、人類の進化は何も軍事面だけではない。

医療面だって発展してくれるのだもの。

人々が短い一生を尽くして、それぞれの専門分野で偉大な発明・発見を成し遂げ、そうして増えていく知識や技術を、俺はもっともっとこの目・この耳・この脳で味わい尽くしたいのだから。



「陛下、恐れながら申し上げてもよろしいでしょうか」


「構わん」


「もったいないなぁ、と」


「もったいない、だと?」


「……いえ、間違えました。陛下、もう一度、恐れながら申し上げてもよろしいでしょうか」


「恐れずとも構わんから申せ」


「はっ。われわれは、人類の『脅威』から人類の『利用価値』へと視点を変えるべきかと」


「なに?」


「未来の強敵になり得る人類をどうするのかを考えるのではなく、人類をいかにして利用することで、われら魔国がこの世界の超越者になることができるかを考えるのです」



断言できることがある。

勇者アレスの亡き今の人類に、魔国幹部一人にも勝る人間はいない。

西方エルフ国家を支配下に収めた魔国へと、聖術で対抗できる国家はない。

この二点の上で、魔国はすでに他国を超越しているのだ。

ならば、だ。



「今の魔国へと王国の科学力が加われば、その強さは盤石なものになるでしょう。この大陸において、比類ないほどに」


「つまり、キウイよ……おまえが言いたいのは『魔国も進化すればいい』ということか?」


「はい。敵を討ち弱らせるよりも敵の強みを吸収し自らを強くできる方が、利点が大きいのではないか、と考えます」


「……うむ。それは確かにそうだ。敵は王国や帝国ばかりではないのだから」


「ありがとうございます。あと、それに加え……」


「それに加え?」


「王国の研究設備を失いたくないですね……それらを整えられる専門技術者を込みで、人類にはロスするのがもったいない人材が多いのです……」


「フッ……結局そちらが本音か、おまえというヤツは」



魔王の口元が緩む。

そして、張っていた気を緩めるように深く息を吐き出した。



「種族の存亡がかかる中で、己が私欲を優先させるとは……魔族よりも魔族らしい」


「いえ、そんなつもりは……」


「よい。確かに俺もらしくなかった……そんな魔族どもを治める王らしからぬ弱気だ。魔族の王ならば、全てを手に入れるための選択を取るべきだ。キウイ、おまえはそれを俺に示したのだろう?」



ルマクは一人で納得げに頷くと、



「わかった。キウイの持ってきた提案を受け入れる前提で進めよう」


「……ありがとうございます、陛下」



一部なにやら誤解があるようだけどね?

まあ、話が上手く進んだならヨシとしよう。



「ただし、だ。帝国に関しての扱いはまた別だ。ヤツらは今回、王国の影に隠れて宣戦布告もしていない。だが、今回の戦争に介入してきた上、議事堂で魔国民を殺した。滅ぼす前提で動くぞ」


「……はっ。承知いたしました」



ひとまず、アポロたちとの約束については果たせたので、ヨシ。

帝国に関しては……まあ、残念だったなと言わざるを得ない。

さすがに俺が庇う理由もなかろう。



「改めて、キウイよ。よくぞ無事で帰ってきてくれたな」


「ご心配をおかけいたしました」


「王都陥落、そしてこの度の報告、ご苦労だった。後のことは任せてもらっても構わないが、どうしたい?」



この後は、朝になれば国王ゼウスの降伏宣言やアポロへの王座継承などが待っている。

なかなかに面倒くさいので、このまま魔国に居座ってのんびりと過ごせるならそれに越したことはないのだが……ヘラクリーズも置いてきてしまっているのだよな。



「……王都へと戻ります。陛下の決定について、アポロ殿下へは私から直接お伝えした方が安心してもらえるかと思いますので」


「そうか。わかった。苦労をかけるな」



ルマクは俺の肩にポンと手を置くと、



「ならば、せめて優秀な秘書は連れて行くがいい」


「はっ……」



ガコン、と。

気付けば俺の後ろへと重厚な扉が出現しており、それがエメラルダによって開かれていた。

そしてその先に立っていたのは、ミルフォビア。



「ア──アラヤ様ぁっ!!!」



ミルフォビアは残像さえ見えるのではないかという速度で駆け寄ってくると、俺の胴体目がけて飛び掛かってくるのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第216話 少し痩せたんじゃないですか?もっと食べてくださいアラヤ様」です。


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次回は11/14更新予定です。

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