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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第215話 ズゴゴじゃないが。ボグ殿

メリッサの神術で飛んだ先、メンシュリッシュ。

王都近郊の巨大な商業都市であるその町は、数百年前より分厚い堅牢な外壁に覆われている。

俺たちが到着したのはそんな壁の上であり、そして目の前にいたのは無言の黒いスケルトン。



──魔国幹部の一人、ボグ・チェルノだった。



「うおっ!? ンだよ、ボグか。驚かせやがって」


「……」



皆が息を飲む中で、開口一番で悪態を吐いたのはウルクロウ。

しかしやはりボグ・チェルノは言葉を返さない。

スケルトンなので声帯が無いから当然ではある。



「戦闘は……どうやら終わっているようですな」



メンシュリッリュの内外で、もはや戦闘音はしなかった。

代わりに遠くで聞こえるのは兵士たちが忙しく動き回る音だ。

立ち尽くして身動き一つ取らないゾンビたちの間を走り、怪我人を運んでいるらしい。


しかし、俺たちのいるこの一帯ではそんな音も一切聞こえはしなかった。

なにせ壁の下の兵士たちはみな、整列するように綺麗に倒れて絶命しているからである。



「これらは全て……ボグ・チェルノ殿がなさったので?」



俺の問いに、やはりボグ・チェルノは答えなかったが、しかしギギギと。

軋むような音とともに、そのむき出しのドクロの顔が俺の方へと向く。



「……」



その暗闇の目が俺を覗く。

ちなみに、筋肉がないのにスケルトンが体を動かせるのにはワケがある。

スケルトンはゾンビとは違って、長い年月を経て肉を削ぎ落されてから復活するアンデッド種。

魔力が骨身に染みわたっており、それによって体を動かしているそうなのだ。



……とはいえ、それも本で読んだ知識でしかないわけで……いつかチャンスがあればぜひ診察させてもらいたいものだ。



「……」



ボグ・チェルノは俺のことをジッと見つめたまま(眼球がないのにどうやって見ているのかはわからない)、黒い大剣を片手に携えたまま身動き一つとりはしない。



「お久しぶりです。西方エルフ国家での戦いの後に、玉座の間でお会いして以来ですかな?」


「……」


「エメラルダ殿やアギト殿はいらっしゃいますか?」


「……」



ボグ・チェルノは語らない。

俺の言葉はその顔の真ん中に空いた鼻孔から入って耳から抜けているんじゃないか、というくらいに当たった感触がない。

というか、意思があるのかさえも怪しい気がする。



「気味の悪いヤツだな」



そう言ってフンと鼻を鳴らしたのはメリッサ。



「こんな厄災を飼いならそうとするとは、魔王ルマクの気が知れぬな」


「厄災?」


「この前コイツが暴れた西方エルフ国家の南の戦場は酷いものだったぞ……青紫色の顔をしたエルフの死体がアチコチにバタバタと倒れていてな。その死体回収に走らせたエルフたちの中にも、『残り香』に当てられて倒れる者が続出した」


「……それは、いったい何がどうしてそうなったんだ?」


「人類史では伝染病だとささやかれているが、どうだかな」


「ほう……病気か」


「だがエルフたちの死体から病痕は見つかっていない。ただ顔色を青紫へと変え、眠るように死んでいる。原因不明だよ。仮に今ここでその力が暴発でもすれば対応は不可能だ。まったくもって呆れる。ソイツが何かしようとする兆候が見えたら、オレは独りでまっさきに逃げるからな!」



メリッサにビシリと指をさされるも、やはりボグ・チェルノはピクリともしなかった。

それにしても原因不明の病、か。

なかなかに興味深い。



「……おや?」



ボグ・チェルノが俺の方を向いたまま動かないので、俺もまた彼のことをジロジロ眺め回していたのだが、ふと気づいた。

その手の骨にヒビが入っている。

ずいぶんと古そうな傷だ。



「それ、治しましょうか?」


「……」



ボグ・チェルノは答えない。

じゃあ、了承ということでよろしいな?

ヨシ、治してしまおう。

俺が右手に魔力を込めた、その時のことだった。



──ゴゴゴゴゴ。



地面につけていた大剣を引きずるようにして、ボグ・チェルノが動き出す。

そして俺への距離を一歩縮めると、俺が手前に出していた魔力を込めた右手へとその顔を近づけて、



──ズゴゴゴゴゴ。



その口で吸いはじめた。

俺の魔力を。



「……」ズゴゴゴゴ


「……ボグ殿?」


「……ズゴゴ」


「いや、ズゴゴじゃないが。ボグ殿」



俺の魔力を吸い取ってるよな、今?

どういうことなのだ?

ボグ・チェルノは何事もなかったかのように顔を上げると、再び直立姿勢に戻った。



「な、なんだ? エサやりか何かだったのか……?」



それまで俺の真後ろにいたはずのメリッサが、上空から緩やかに降りてくる。

どうやら有言実行。ボグ・チェルノの動きを見るや、俺たちを置いて独りで逃げていたらしい。


そして、



「──ボグはね、魔力を溜め込む本能を持っているのよ。黒く染まったその骨の体は、魔力が深く染み込んでいる証拠よ」



音もなく静かに、メリッサの背後をとり、その声を発したのは六枚の翼を大きく広げた青髪の美女。

魔国幹部のエメラルダだった。



「よく戻ったわね、キウイ……心配したわよ」



メリッサのその首根っこを掴んで、俺の元へと降り立つ。



「あなたの無事と、この再会を共に喜び合いたいところだけど……キウイ、今のこの局面は、われわれにとってはあなたの独断で戦争が止まってしまっている異常事態なの」


「承知しております。その説明と、終戦に関する提案を持って参りました」


「終戦…………そう。わかったわ」



エメラルダは気に入らなさそうに顔をしかめつつ、しかしすぐにその表情を元の冷静なものへと戻すと、



「では、速やかに陛下へ謁見の場を賜りに行きましょう」



メリッサをチラリと見やり、そう口にする。



「……ああ、わかったよ。オレだな? オレがおまえらを運べばいいんだろう。わかってるよ」



大きなため息と共に、メリッサは俺とエメラルダへと触れて再びその神術を発動しようとする。



「……」



ボグ・チェルノは俺がその場から消える直前までジッと、俺の方を見つめていた。




* * *




~メンシュリッシュの戦場にて~



「キウイ・アラヤめ……」



王国軍兵士たちの死体であふれる戦場の中、ボソリとそう口にしたのは老いた男の生首・ジャーム。フワフワと宙を漂いながら、周囲を見渡してため息を吐く。



「戦闘停止だと? ことごとく間の悪い男だ」



ジャームは辺りを漂いながら、探し物を求めて視線をアチコチへとやった。

見落としがないように入念に。



「──うぅ」



すると、また一人。

ゾンビに襲われたことで重傷を負ったのだろう兵士の姿を見つけた。

死体に埋もれぬように這って、メンシュリッシュの方へと向かおうとしている。



「おお、よく生きていたじゃないか、この蹂躙の中で」



ジャームは自らの頭をスッと、その兵士の目の前へと下ろした。



「ヒッ……」


「ああ、驚いたのか? 生首が飛んできたら仕方ないな……申し訳ないことをした。驚かせるつもりなど、微塵もなかったのだ」


「た、助けて……」


「助けてほしいのか? そうかそうか、まだ生きる希望を持っているのだな。とても良いことだ……その方が質の良い魔力を搾り取れる」



ジャームは満面の笑みを浮かべると「カラッ」と舌を鳴らした。



──ズズズッ、と。



舌の音を合図とするように、地面から幾本もの腐った腕が伸び、兵士の体を取り押さえ一切の身動きを封じると、その体を無理やりに立たせた。



「アッ、イヤだッ! やめ……やめてくれッ!」


「そうそう。それだ。色濃く発露せよ、根源的な感情を……恐怖をッ!」



ジャームは再びフワフワと浮き上がると、その額を兵士の額へと合わせた。

すると、ズズズと。

兵士の額から浮き出た青色の光が、ジャームの額へと吸い込まれていく。



「……グ、ガ……」


「ああ、美味い。昂った者の生命力ほど美味いものはない」



兵士の体はたちまちに萎れ、最後には枯れ木のようになると、ジャームが地面から出現させた腐った腕によって、その場に放り捨てられた。



「……チッ。まだコレを外すにはとうてい足りぬか。もっと生命力を……だが、そろそろ戻る頃合いだな」



ジャームは自身の首輪を気にするように下を見ようとする。

だが、その度に視界に移るのは首より下の虚空。

魔王ルマクとの契約によって、取り戻すことの叶わないでいる喪った体を再確認させられるだけだ。



「覚えていろよ……この借りはいつか、必ず……!」



ジャームは恨みがましくそう呟くと、メンシュリッシュ攻略戦に際して魔国軍が置いている陣地へと向けて飛んでいった。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第216話 人類根絶はもったいないと思います」です。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


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次回は11/12更新予定です。

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