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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第211話 聖剣に選ばれた者

ゾンビ・ソルジャーへと振り下ろされた聖剣は、しかし、その肉を断つことはない。

ガシリ、と。

ソルジャーの大きな手がアレスの聖剣の握り手を掴み、止めていた。



「なっ……!?」


「ヴァオ……」


「放せッ、この死にぞこないッ!」



アレスが空いた片手に聖力を集中させ、ゾンビ・ソルジャーをしたたかに殴りつける。

魔の位相であるただのゾンビならその一撃で跡形もなく吹きとばせる、それだけの威力のある殴打。

だか、しかし。



「む、無傷ッ!?」



ゾンビ・ソルジャー、健在。

それどころか、その体を覆い始めているのはアレスの体を覆うのと同様の青い聖力だった。

アレスはハッとして、聖剣へと目をやった。



「なッ…!?」



そこから放出されていた莫大な青い聖力が、吸い込まれるようにしてゾンビ・ソルジャーへと流れ込んでいっていた。

それはまるで、乾き切った砂漠の大地へと氾濫した川の水が流れ込むように、ゴクリ、ゴクリと。

体全体を脈動させるかのようにして、ゾンビ・ソルジャーは聖力を飲み込んでいく。



──ゾッ、と。



神の加護にも近しい力を得ていたアレスの首すじが(あわ)立った。



「は、放せッ! 放せェェェッ!」



聖剣を持つ片手を掴まれたまま、アレスは空いている方の手でゾンビ・ソルジャーを殴り、そして足でも蹴り続ける。

だが、ビクともしない。

ゾンビ・ソルジャーのヘルムにヒビが入り、砕け、アレスの手がその内の頬肉を殴りつけるようになっても微動だにしなかった。

そして、



「──あわ、れ」



ゾンビ・ソルジャーの口元が動き、唸るように低く掠れた声が響いた。

そのドクロのごときその洞穴の目の奥に、青い光が灯る。



「……哀れ、勇者よ。われは汝に……引導を渡す者……」


「ッ! 喋った!? これは、あの女騎士の時と、同じ……!」


「おまえは、この聖剣を持つに……ふさわしくない」


「なんだ──とッ!?」



ゾンビ・ソルジャーはゆっくりと立ち上がると、ブオンッと。

アレスごと聖剣を持ち上げ、そして天へと掲げた。



「聖剣よ、この、戦士ヘラクリーズへと……力を」



ゾンビ・ソルジャーが呟くと、その時だった。

天高く掲げられた聖剣の切っ先から、一瞬にして全てを燃え上がらせる炎のような、巨大な青い聖力が噴き出してその体を包み込んだ。

ジュッ! と。

聖剣を握っていたアレスの手が焼かれる音が響く。



「──ァッツッ!?」



アレスはとうとう聖剣を手放し、ゾンビ・ソルジャーから距離を取った。

その右手、手甲が黒く煤けている。



「なんだこれはッ!? 聖なる炎は人間を焼かないハズッ! ましてや、俺の聖剣の聖力だぞ……!?」


「聖剣は、おまえのモノではない」



応えるその声は、先ほどのように掠れてはいなかった。

勢いよくアレスが視線を上げた先、青く燃える聖剣を携えて立っていたのは、もはやゾンビの戦士ではなかった。

雄々しく逆立つ金色の髪を風に揺らし、青い輝きに満ちるその瞳をアレスへと向け、ドシリと大樹のようにそびえているその男は……生身の人間。



聖剣(コイツ)は、この王国の剣だ。俺と同様、あらゆる時代で、あらゆる王国勇者たちがこの聖剣へと、自らの聖力という魂の一片を注ぎ込み、共に戦場を渡り歩いてきたことだろう……決して、おまえ一人のモノなどではない」


「……なんだよ、テメェはッ!?」


「わが名はヘラクリーズ。初代勇者であり、この身朽ち果てるまで、祖国への忠誠を誓いし者」



ヘラクリーズはそう口にすると、聖剣を真横へと一振りする。

剣を覆っていた青い炎は鎮まるように小さくなっていき、しかし、なおもその刀身だけを青く灯していた。



「今代の勇者よ。おまえの役目はもう、終わっている」


「何を、言ってやがる……」


「今のおまえはただの復讐者だ」



ヘラクリーズが一歩、アレスへと向け足を踏み出した。



「もはやおまえに、勇者として倒すべき者も、守るべき者もいないだろう」


「いる! 俺は、俺が殺すべきは……キウイ・アラヤ! ヤツを殺すために、俺はここまで生き抜いてきたッ!」


「倒錯した復讐心だな……哀れ。だが案ずるな。俺が引導をわたしてやろう」


「それはこっちのセリフだッ!」



アレスは剣も持たず、特攻。

しかしその白銀の鎧はきらめいて、胴当てや手甲などから各種聖術が起動する。

回復力最大強化、防御力強化、そして片方の手甲の敵の体温を下げ凍りつかせる聖術と、もう片方の手甲の敵の体温を上げ焦げ付かせる聖術を。



「その聖剣は、俺のモノだァァァッ!」



飛び掛かってくるアレス。

ヘラクリーズは一つ深く息を吸うと、聖剣を片手で、斜め上へと斬り上げた。

頑強な胴当てでそれを受けるアレスだったが、しかし。



──刀身から、鋭く青い炎がきらめいた。



それは硬いアレスの鎧を容易く切り裂いた。

炎をまとった刀身が、肩へと抜ける。



「ハッ……?」



最後に肺から抜けるようなその声を発した後、二つに分かれたアレスのその体は、ドサリと地面へと落ちた。



「潔く逝くがよい。俺のようになりたくなければな」



アレスはゆっくりと目を閉じて、そしてもう動くことはなかった。

ヘラクリーズはそれを確認するとクルリ、踵を返す。

そして、あぜんとして腰を抜かしているアポロの前へ膝をつく。



「殿下、ご無事でしょうか」


「あ、は、はい……」


「それならば、よかった」



アポロはゴクリと息を呑むと、両手をつっかえに立ち上がって、



「あの、あなたはアラヤ様に仕えている戦士の、ゾンビ・ソルジャー殿と、同一人物と考えていいのでしょうか……?」


「ハッ。その通りでございます。ヘラクリーズとお呼びいただければ」


「生き返った、ということで合っていますか?」


「……おそらくは」



ヘラクリーズは難しそうに顔をしかめて言う。



「具体的に何が起こったのかは、私にもどうにもハッキリとはわかりません。ただ……この聖剣に蓄えられていた力が私の体へと注ぎ込まれる感覚がありました」



ヘラクリーズは片手に携えていた聖剣を横にして両手の上に載せると、アポロへと見せる。

聖剣は何を語るでもなく、ただその刀身に薄明るい青い光を灯らせるだけだった。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第212話 もしもし全軍?こちらアラヤですけど…」です。


次回は11/3更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
浅見朝志さま定期更新ありがとうございます。 ヘラクリーズかっこいいなあ
社畜の呪いかぁ。
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