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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第209話 ワクワク!はじめての開腹手術!

──いやぁ、なんたる幸運だろう。



まさかこんなところで、今では完全に廃れたと言っていい外科手術を経験できるとはね。

人体の構造なんてそうそう生で拝めるものではない。



「ところでエリィさん、シュワイゼンの血液型はわかるかね?」


「え、えっと、Aです!」


「君は?」


「同じですっ!」


「ふむ。それなら私の血は使わない方がいいだろう。輸血を頼めるかね?」



医療用具箱から輸血セットを取り出して、チューブの先端の針で二人の腕を繋ぐ。

俺はO型なので、割と万能に輸血に使うことはできるのだが……。

もちろん、一致している血液型の方が好ましいことに違いはない。


ジャキジャキジャキ。

シュワイゼンの軍服の手前、患部周りをざっくりとハサミで切り露出させる。

その後、俺がアルコールを取り出して器具を全て洗浄し終え、手の消毒をしていると、



「ド、ドクター……開腹手術って、まさか本当に彼のお腹を……!?」



ハラハラとした様子で、スワン。

ああ、まあそれは当然の困惑だろう。



「こんな埃の舞い散る、お世辞にも衛生的とは言えない場所で開腹手術など正気の沙汰ではないと言いたいんだね。ふむ、それは医療従事者として当然の指摘だ」


「いえ、そうではなく──」


「確かにスワンくんが危惧している通り、こういった外科手術において、出血の次に気をつけなければならないのが不衛生環境下での施術で起こる細菌感染だ」


「いえ、ですからそもそもこのレベルの傷に外科処置は──」


「例えば臓器・血管の縫合にしてみても、その際に使う針や糸に少しでも汚れがついていれば、縫合創部から感染が広がる可能性がある」


「……ああ、ドクター、興奮してて私の声が聞こえてない……」


「だから今回、私は傷口の縫合をおこなわない。切れた太い血管はクリップ、あるいは糸で縛り、臓器に外傷がある場合は背中の傷口同様にガーゼパッキングして止血する。これで手術完了後の細菌感染のリスクを多少は減らせるだろう」



だが、当然ながらそれでは根治に至らない。

だが俺は先ほど、しっかりこう口にしている。

『延命を目的とした止血手術を始める』と。



「私がおこなうのは、回復聖術(ヒール)の使い手がここへと到着するまで彼の命をもたせる施術。傷口の回復それ自体は聖職者に任せるわけだ……理解できたかね?」


「お……恐らくは。ですが、ドクターが可能とおっしゃるならきっと可能なのだと、私も信じたいと思いますっ」


「ありがとう。ではスワンくん。君に任務を与える」


「はっ、はいっ!」


「地上にいるアポロ殿下に伝えてくれ。『通信指令室の通信兵を捕まえて、いち早く高位の聖職者と連絡を取らせ、参謀本部室へと向かわせてくれ。高級将校が重傷だ』、と」


「了解ですっ!」


「よし、では行ってくれ。私もさっそくお楽しみ──もとい、処置を始めなければ」



スワンが立ち去ったのを確認して、俺は改めてシュワイゼンへと向き合った。



「では改めて、補佐を頼むよジラド」


「御意に」


「では、やろうか──メス」






* * *






──そこから先、過集中が起こったのだろう。周囲の音はまったく聞こえなくなった。



とにかく、素晴らしい体験だったことは確かだ。

これまで図鑑でしか見たことのなかった光景を目の前に、俺はまばたきすらも忘れて見入りながら手を動かしていた。


やはり当初の予感通り、肝臓に刃が達していたのでガーゼを詰める。太い血管の損傷には極細の糸をピンセットでつまんで結び縛り付ける。


一に止血、二に止血、三に止血。

異物があれば細心の注意を払って取り除き、また止血。


とにかく、俺は傷口を次々に塞いでいって──



「──キウイ様、誰か来ます」



気付けば、どれくらいの時間が経っていたことだろうか。

ジラドに声をかけられて顔を上げると、俺の肩の、ペキパキと凝り固まった筋肉が音を鳴らした。

そんな俺の前へと、コツコツと、ゆっくりとした足音とともに現れたのは──シェス。



「キウイ様、終わりましたよ。全て」



その後ろにはスワンや、ウルクロウたちもいる。

さらには聖職者と思しき人間もだ。



「こちらはヒールが使える者のようです。さっそく、そちらの男性の治療へ移ってもらいますか?」


「ん、ああ……頼むよ」



なんというか……。

こういうのを『キツネにつままれた感覚』とでもいうのだろうか。


先ほどまで地上で戦っていたはずのみんなが、ここへと瞬間移動してきたかのように思えてしまった。

俺は、その聖職者がいまだ意識を失ったままのシュワイゼンへとヒールをかける様子を見つつ、



「……ジラドよ、私が手術を開始してから何分経った?」


「およそ三十分と少しかと」


「そんなに経っていたのか……」



集中って、恐ろしい。

体感だと一分くらいだったのに。



「それでシェス、すまないんだが『全て終わった』とはどういうことだ?」


「はい。この王国軍本部の制圧が、です。アポロ殿下が無事、通信指令室を指揮下に置きました」


「……そうか。それはよかった。ということは、勇者アレスとの決着もかね?」


「はい」


「さすがだな。よくやってくれた、シェス」


「いえ、その、討ち取ったのは私ではなく……」


「む、ではウルクロウ殿か。さすが──」


「いえ、ウルクロウ殿でもなく……」


「む???」



……他に誰か、あのウルクロウをもって『しぶとい』と言わしめた勇者アレスを倒せる者などいただろうか?



首を傾げる俺へと、



「キウイ様、どうか落ち着いて聞いてくださいね?」



シェスが妙な念を押す。

私がこれまで落ち着いていないことなどあっただろうか、いや、ない。



「なんだね?」


「どうか彼を見ても、興奮を抑えていただきたく、」


「大丈夫だ。問題ない。で、彼とは?」


「……わかりました」



シェスが、参謀本部長執務室の奥へと目配せをし、その口を開く。



「来なさい。キウイ様に改めてごあいさつを」



ズシン。

重たい足音を響かせて、俺の前へと現れたのは──。



いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第210話 彼は引導を渡す者」です。


次回は10/28更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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