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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第208話 再会する因縁の二人

「──ド、ドクター・アラヤッ!!!」



白い翼を羽ばたかせて、スワンが思い切り飛びついてくる。



「ご無事で……ご無事で何よりですぅっ!」


「あ、ああ。うむ」



スワンのその目の端には涙が浮かんでいた。

ちょっと驚いた。

スワンは表情豊かなハーピー種ではあるが、しかし仕事や任務中にここまで激しい感情を見せるとは。



……よほど、心配させてしまっていたらしい。



「悪かったね。連絡を出せればよかったのだが……潜む必要もあったもので」


「いえっ、ご無事ならもう何でもいいんですぅっ!」



ヒシッとしがみついてくる。

こんなに誰かに必要とされることはこれまでそう多くないことだったから、素直に嬉しい……のだが。



「その、そろそろ放してはくれまいか」



俺をただでさえジラドに横抱きされている状態なのだ。

いわゆるお姫様抱っこである。

そろそろ降りたい。



「は、はいっ、申し訳ございませんっ!」


「いいさ……」



ようやく俺は、床に足をつけることができた。



「ところで、スワンくん。下でウルクロウ殿に急患がいると聞いてきたのだが?」


「あっ、はいっ!」



スワンは袖口で乱暴に目元を拭うと、



「そちらの男性がそうです。ですが、その……もうわれわれではできることが……」



そう言って指し示したのは床に横になり、血の池に沈む軍人の男。



「んんっ?」



思わず目を見張る。

なにせそれは、俺のことを拷問補佐官に任命してくれたヤコフ・シュワイゼン中佐、その人だったから。



……というか、患者って魔族だと思ったのに、人間じゃないか。



どうやらシュワイゼンの意識レベルはゼロ。

その隣で応急処置をしているのは、確か、喫茶店で会ったな。

シュワイゼンの恋人のエリィ・マルグノワルだったか。


なぜ彼女がここに?

いったいどういう状況なんだ?


まあいろいろ疑問に思うところはあれど、それを問うべきは今じゃなさそうだ。

エリィがシュワイゼンの腹部にあると思われる傷を必死で圧迫止血している状況を見て、そう判断する。

とはいえ、



……止血は大事だが、あれじゃダメだ。



「退きなさい」



涙でグチャグチャになっているエリィの肩を引いて、その場から退かせると患部を見る。

血の広がり方から見て、もしやとは思っていたのだが……ああ、やはりそうだ。

腹部に刺さった剣は背中側に貫通しているらしい。

そこの大動脈が傷ついているんだろう、ならこちらも塞がなければ止血の意味は薄い。



「ジラド、用具を出して」


「御意に」



ヌプリ。

ジラドが影の中から取り出したのは、医療用具箱。

例の王都議事堂の爆破事件後、アポロの治療のため(と俺の趣味)で買い揃えた医療用具一式が詰められている。



「背中側の傷口にまず処置をする。ジラド、支えて」


「はっ」



ジラドがシュワイゼンの体を傾けている間に、俺はシュワイゼンの衣服を裁ちバサミで切ると、患部を露出。下へと清潔なタオルを敷いたあと、傷口へとガーゼを詰める。



「これで応急的な止血にはなる──むっ、呼吸が止まったか? 心臓もか」


「うそっ、ヤコフッ! ヤコフッ! ダメよ、死なないでっ!」


「落ち着きなさい。いっとき死ぬのはよくあることだ」



止まってすぐならまだ問題ない。

シュワイゼンの体を仰向けに戻し、ええと……。

心臓は、この辺りだね。

えいっ。

直接ダークヒール。



「──ゴフゥッ!!!!!」



聖の位相の人間の心臓へ、回復魔術(ダークヒール)を流し込むことで生まれるのは悪魔の雷。

シュワイゼンが息を吹き返した。



「思い付きでやってみたが、案外いけるものだね?」



いわゆる電気ショック、いわゆる心肺蘇生だ。

魔の位相の者へと回復聖術(ヒール)を流し込むことで起こる現象は神の炎。

聖の位相の者へと回復魔術を流し込むことで起こるのが悪魔の雷。


俺はつくづく魔力を持って生まれてよかったな、と思う。

雷の方が医療行為に際しては何かと使い勝手がいい。

……いや、炎は炎で使い道はあるな? うぅむ。どちらも捨てがたい。



「──キ、キウイ・アラヤ……!?」



シュワイゼンは、その意識も覚醒させていた。

ああ、大変よろしいね。

まあどうせまたすぐ意識は喪失することになるだろうが、起きたならばいちおう聞いておくことがある。



「昨今インフォームドコンセントというものが大事でね。まあ、救急救命の場合は事後確認が常だが、念のためだ」


「な、なにを……?」


「ヤコフ・シュワイゼン、君は助かりたいかね?」


「お、俺を、助け、ようと……? なぜ、おまえ、が……」


「君の恋人が君を助けようとしていたからね」


「エ、エリィッ!?」



クイッ、と。

エリィへと向くシュワイゼンの顔を、無理やり俺へと戻す。

二人の感動の再会は、この選択の後にしてほしい。



「もう一度聞く。このままでは君は死ぬが、助かりたいかね?」


「……お、俺は……」


「君の恋人は、君に死んでほしくないようだが」


「……!」



エリィは、シュワイゼンの手を握っていた。

シュワイゼンは何か少しためらったようにしていたが、しかし、やがて頷いた。



「た、助けて、ほしい……」


「ああ、構わんよ。ただし、」



ここからがもう一つ、重要な確認点だ。



「私は君も知っての通り、ダークヒーラーなのでね。人間の傷を癒すことはできないんだ」


「は……?」


「だが安心したまえ……手段を選ばなければ大丈夫」



ニゴッ!

不安感を少しでも和らげるため、俺は温かに微笑んで見せる。

たちまち、怯えたように顔をこわばらせるシュワイゼン。



「ああ、心配ない心配ない。手段を選ばないと言っても、ちょっと『お腹を開く』だけだから。位置的にたぶん肝臓が傷ついてしまっているからしょうがないんだ。いいね? その施術でいいよね?」


「ヒッ……」



ああ、やっぱり怖いよね、お腹を開くだなんて。

でも大丈夫。

俺は頼もしさを演出するためにも、よりいっそう口角を上げて、絶えず笑みを浮かべた。



「麻酔に関しては気にするな。起きるたび即電気ショックで強制的に眠らせてあげよう。安心して。君はただ、私のことを信じていればいいのさ」


「ゃはり……ぁくま……か……っ?」



カクン、と。

なにか途切れ途切れの言葉を残し、シュワイゼンの意識がダークヒールをかけるまでもなく喪失する。

よかった。

無理して維持していた笑顔の効果か、すっかり心も落ち着いて、俺に身を委ねる気になってくれたのだろう。



「では、手早くやろうか……ジラド。補佐を」


「御意に」


「これより、延命を目的とした止血手術を始める」


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第209話 ワクワク!はじめての開腹手術!」です。


次回は10/27更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
あ…やっぱ爆発迄はいいです(´・ω・`)
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