第207話 こうやってキウイは投げられました
~キウイが飛んでくる少し前~
それは、王国軍本部まであと少し、というところまで迫った時のことだった。
「──なんだ? これはいったいどういうことだ?」
シェスを先頭に王都を駆けていた俺たち、キウイ・アラヤを始めとする王国軍本部の通信指令室奪取班への王国兵の攻撃が、突然止んだのだ。
いや、正確には少し違う。
一斉に止んだわけではない。
だが、多くの王国兵たちは目の前の敵である俺たちへ銃を構えつつも、しかし、後ろから叫ぶ他の仲間たちの声を聞いて発砲を迷っていた。
「こ、交戦中止だ! 武装解除しろって……指令室から各駐屯地あてに命令が出されてる! もちろん、この王国軍本部前もだ!」
王国軍本部から直接伝令として走らされたのだろう王国兵は、ゼエゼエと息を荒げながらまた別の場所へと走り去っていく。
これには、ジラドに横抱きに抱えられている俺とゾンビ・ソルジャーにおぶさるアポロも顔を見合わせた。
なにせ、これから俺たちがやりに行こうとしていたことを、先にやってくれた誰かがいたのだから。
「じゃあもう……私たちは帰ってもいいのでしょうかね? お役御免では?」
「ダッ、ダメですよアラヤ様! もう本部は目と鼻の先ではありませんか! 今がいったいどういう事態なのか、突き止めねば……!」
「そうですか……」
ごもっともなアポロの言葉に従って、俺たちは王国軍本部まで一気に駆け抜けた。
本来なら堅い守備のされている本部の門を守る王国兵たちも、どうやらその任を解かれたのかそこにはいない──というのとは少し、ワケが違うようだ。
ガキンッ! と。
剣と剣をぶつけ合うような戦闘音が聞こえる。
俺たちが侵入を果たしてすぐ近くにあった中庭を濃い土煙が覆っていた。どうやらその音はそこから聞こえていて、土煙はまるで雷を轟かせる積乱雲のように、その中で青色の火花が絶え間なく散らしていた。
王国兵たちはそれを囲んで警戒しつつ、しかしそのあまりの激しさに、誰も手出しできないでいるようだった。
「アラヤ様、王国兵らの邪魔がない今のうちです! 通信指令室は本部一階から行けるあちらの別棟に──」
「──よぉ、キウイィィィッ! やっぱりオメェは生きてると思ってたぜぇ!」
土煙を割る白銀の影。
それは俺の前に風よりも速く滑り込んできて、俺の頭を鷲づかみにするようにゲシゲシと撫でた。
その正体は、われらが魔国の誇る美しき毛並みのオオカミ魔獣──ウルクロウ。
「ウルクロウ殿っ……これはこれは、いったいどうしてこちらに?」
「そりゃあ決まってんだろ。オメェを迎えにだよ、キウイ」
ニッと微笑むウルクロウ。
「再会を祝して一発ヤッときたいところではあるが……そうも言ってられなくてなァ」
ブオンッ、と。
青い光を伴った衝撃波が、中庭に立ち込めていた土煙を、そしてその周囲を囲んでいた王国兵たちをひと息で吹き飛ばす。
その中心に立っていたのは薄汚れた白の鎧に身を包んだ戦士、勇者アレス・イフリート。
「また君か……」
「やはりなッ、やはりいたなッ! キウイ・アラヤァァァ──ッ!!!」
アレスは俺を見留めるやいなや、地面を砕く勢いで蹴り出して、その青い刀身の聖剣を担いで迫ってくる。
「キウイ様、ここはお任せを」
それに応じて前へと出るのは、シェス。
「その間、ウルクロウ殿のケガの治療をお願いいたします!」
「ほう?」
ウルクロウの体を見る。
確かにところどころ、白銀の毛並みには血が滲んでいた。
勇者の振るうあの聖剣で斬られたのだろう。
「そこをどけっ、売女ァァァッ!!!」
「ここで決着にしましょう、勇者アレス!」
アレスの攻撃を柳のようにいなすシェス。そこからの反撃を予見したようにかわすアレス。
エルデンとウェストウッドに引き続いての二人の三度目の戦闘は、互いの実力と戦法を把握しているからこそだろう、開幕から壮絶な技の応酬が繰り広げられていた。
……さて、俺はそれに見入っている場合ではない。
「ではウルクロウ殿、失礼して」
「ああ、頼むぜ……あの野郎、本当にしぶてぇんだ」
──とっておきのダークヒール。
紫色の大きな輝きが、ウルクロウのその体を包む。
ウルクロウの身体構造に特化したそのダークヒールは、いっさいの時間をかけずにその体を完全回復させた。
「助かったぜ、キウイ」
「役立てたのであればよかったです」
「でな、もう一人重傷のヤツがいるんだ。できればソイツも助けに行ってやってくれ」
「ほう……?」
さて、誰だろう?
まあ誰であれ魔族の急患がいるというのならば、それはダークヒーラーである俺の出番であることに変わりはない。
「状況があまりよく理解できていないのですが、追々聞かせてもらいましょう。患者はどこに?」
「あそこだ。見えるか? 七階の壁の大穴が。あそこの部屋の中だ」
ウルクロウの黒い爪が指した先、王国軍本部の壁。そこには確かに巨大な穴が空いているようだった。
「患者の状態は?」
「さぁな、よく知らねェ。オレがあの勇者を蹴飛ばしてやったときにはもう、血まみれで倒れてたぜ。まだ生きてはいたが」
ということは恐らく、剣で斬られたか刺されたかのどちらかだろう。
毒や持病で倒れたわけでないのなら、ダークヒールで十分に治せるはずだ。
……うん。司令室奪取とかよりも、治療の方がやっぱり俺の性に合う。ヨシ。
「アポロ殿下……誠に遺憾ながら、私はダークヒーラーとしての職責を果たさなければならぬようです。というわけで、あとのことはお任せしても?」
「は、はい! とにかくまずは……あの勇者を全員で押さえるべきかと思いますので、その後、通信指令室へと現状の確認をしておきます!」
「よろしくお願いします──では、さっそく行こうかジラド」
「御意に、わが君」
ジラドはそう言うと、俺を抱えて駆けるのかと思いきや、
「えっ?」
俺を横抱きにしたまま身軽に跳ねると、アポロを背負うゾンビ・ソルジャーの肩へと乗った。
「やれ、ソルジャー」
「ンヴァア」
ゾンビ・ソルジャーがジラドの声に呼応して、その大きな両手でジラドを砲丸のように持つ。
そしてグルングルンと二回転して、
「ンヴァァァァァァア──ッ!」
俺たちのことを投げ放った。
俺と、俺を抱えたジラドは一直線に壁の大穴へと飛行する。
懐かしいね。
そういえばウェストウッドでもやったよ、こんなこと。
いつもお読みいただきありがとうございます!
次のエピソードは「第208話 再会する因縁の二人」です。
次回は10/24更新予定です。
よろしくお願いいたします!




