第20話 ゾンビって金になるのでは?
「ゾンビが大量発生している……!?」
「ええ。ご覧になってみてください」
シャッと。ミルフォビアがカーテンを開ける。
窓の向こうには魔王城の庭を通る渡り廊下が見えるのだが、あちこちにヨロヨロと歩き回る人影が見えた。
「あれがゾンビなのか……?」
俺は思わず窓を開け、身を乗り出して見てしまう。
なにか、おかしい。
違和感を覚えてしばらく観察していて、気が付く。
「ゾンビというのはつまり動く死体だろう? なぜ人型の死体ばかりなんだ。ここは魔国なんだから、動くのは魔族の死体じゃないのか?」
「ああ、そうですよね。普通、魔力がありふれていない王国では基本的にゾンビは発生しないですから、なじみはありませんよね」
「ん? 発生? まあ、ゾンビになるケースが少ないのは確かだが……」
だからなんだというのだろう。
俺が首を傾げていると、
「魔国に現れる一般的なゾンビというのは魔力の濁りから自然発生するもので、死体が動くものは稀と言われているのですよ」
「えっ!?」
ゾンビが自然発生するなんて、王国の文献にも書いてはいない。
少なくとも王国においては何らかの要因……放置して魔力が溜まるなどして動き始めた死体をゾンビと呼んでいるのだが。
「というか、" 自然発生 " とはいったいどういうことなのだ……? 魔力の濁りというのも分からない概念なのだが、教えてもらえるだろうか?」
「はい、もちろん。魔力の濁りとは " 瘴気 " とも言い換えることができます。それは魔族にも害をなすもので、精神上の不衛生さを原因として発生します」
「精神上の不衛生さ……?」
「ストレスです。特に今は西方・南方で戦争が起こっていることもあり、魔族たちが負の魔力を発しやすく、そういったものが掃除の行き届いていなかったりする場所で吹き溜まりになって瘴気となり、そこからゾンビがニョキニョキと生えてくるのです」
「そんなカビみたいな感じなのか……でも、どうして人型に?」
「詳しくは分かっておりません。しかし、ゾンビは周囲の環境に合わせて形を変えるのではないか、というのが有力な説です。この魔王城周辺では、われわれ魔族の共通的な特徴である人型を取り入れているのではないかと。現に、森などでは四足歩行のゾンビが多いですよ」
「なるほど、実に興味深いな……!」
窓の外を改めて見る。
ヨロヨロと、一定の規則で動くゾンビたちの姿に、好奇心がうずく。
自然発生ということは身体構造も普通の人間とは異なるのだろう。しかし、普通のゾンビと同じように生者を襲うのであれば、少なくともその行動を指示している " 脳 " があるはず。
「勝手に増えて、脳があり、単純動作が可能なのか……」
……これ、ダークヒールで脳の一部を治して " 生者を襲う " という命令を書き換えられれば、都合の良い " 単純労働者 " を量産できる可能性があるのでは?
「これは、ビジネスチャンスなのではないか……!?」
「あの、アラヤ様?」
俺が胸にトキメキを、頭に思考を巡らせていると、ミルフォビアがおずおずと話しかけてくる。
「念のために言っておきますが、どれだけゾンビの生態に興味があろうとも、ぜったいに部屋からは出ないでくださいね?」
「え……?」
「『え……?』じゃありませんよ」
ミルフォビアは深いため息を吐く。
「相手はゾンビですよ? 力はそれほどないにせよ、恐れを知らず、痛みも感じません。ちゅうちょなく襲い掛かってきて、下手したら食べられちゃうんですからねっ?」
「わ、わかっているさ、そんなことくらい」
「ご飯などはわたくしが運んでまいりますので、何か他にご用がある場合もわたくしにお申し付けください」
「うむ。ありがとう」
「ぜっっったいに、ご自分で外に出ることのないようにお願いいたします」
「そこまで念押ししなくとも……私がそんなに信用ならないかね?」
「ああ、いえ。失礼いたしました。そういうわけではないのですが、」
ミルフォビアは軽く頭を下げつつ、
「アラヤ様であればゾンビの生態が気になって、わたくしの時のように問診をしようだなどと思うのでは……と心配になってしまいまして」
「…………いやいや、まさか」
俺はフッと笑ってみせる。
「ゾンビに問診なんてできるわけないじゃないか。そもそも話が通じないだろう?」
「……そう、ですよね」
ミルフォビアはどこかホッとした様子を見せる。
「であれば確かに余計な心配でした、申し訳ございません」
「いやいや、いいんだ」
「それでは、わたくしはいったんこれで。次は正午ごろに昼食を運んでまいりますので」
「ああ、ありがとう。君も気を付けて」
「ご心配くださりありがとうございます。それでは失礼いたします」
ミルフォビアが出て行く。
足音が遠ざかっていくのを聞いて……
「よし」
俺はドアを開けて外に出た。
「ゾンビに問診はできないだろうが、一方的な診察はできるだろう……?」
ゾンビなんて、通常王国で見ることはない。
王国には瘴気だなんて発生しないし、死体も全て供養して清められてから土に還るため、ゾンビになることはかなり稀なことだ。
さすがに王国の物好き連中にもゾンビをペットとして飼っている人はいなかったこともあり、診察の経験もない。
ゆえに、まさかゾンビにこんなビジネスチャンスがあるだなんて、これまで思ってもみなかった。
「フフフ……お金のニオイがするじゃあないか」
俺は廊下を進み、中庭へと歩を進めた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次のエピソードは「第21話 ゾンビ調査」です。
明日もよろしくお願いします!




