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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第177話 【Side:議事堂】エメラルダの本領と内なる神獣

──時間を少しさかのぼり、王国軍らをガン・ケンが蹴散らしに向かった一方でのこと。



エメラルダは背中の左右に三枚ずつに生える黒い翼を強く羽ばたかせて、上空へ向かっていた。

地上ではガン・ケンが時間稼ぎを、そしてミルフォビアや他の面々がガレキの下の魔国兵らを救出してくれている。

その間に、何としてでも退路を見つけなくてはならない。


エメラルダは上空数百メートルの位置から王都を俯瞰(ふかん)する。

建物は模型のように小さく、王都を駆けめぐる人々がダニのように見えて気持ち悪い。

……事がここまで及んだ以上、いっそここから魔力攻撃を仕掛けて兵も民も一掃してしまおうか。

今なら憎たらしい王宮の破壊だってできるだろう。

そうすれば王国軍の注目も議事堂から逸れて、逃げやすくなるかもしれない。



「はぁ……そうできればどれだけよかったか」



ストレスに痛む頭を押さえつつ、エメラルダは短絡的思考からは顔をそむけた。

王都の破壊、それは私情であり、今すべきことではない。

これが敵の策の上であり、敵戦力がどれほどなのか把握できていない現状では、撤退こそが最良の選択なことに違いないのだから。


エメラルダは地上へと目を凝らした。



「……やはり、囲まれているわね。二重……いえ、三重か」



現在ガン・ケンと戦闘している王国兵たちが第一包囲網、その後ろで王都内の建物を利用して築かれている第二包囲網。そして最後、そこはおそらく最終防衛ライン。王都民の生活圏の境界線上で待機している第三包囲網が見て取れた。



「抜けるだけなら、魔国方面でもある北。でも……」



王国軍らの用意周到さを見るに、王都の外にも必ずや備えがあるはずだ。

エメラルダが空中で考えていると、さらにその上から影が覆いかぶさってくる。



「……羽虫が」



エメラルダは上を見て、舌打ち。

議事堂を崩壊させた爆撃をおこなってきた機体がエメラルダの上を旋回していた。



「許さない……!」



エメラルダは羽ばたき、爆撃機をめがけてさらに上昇する。

下にはミルフォビアを始めとする魔国の仲間たちがいるので、爆撃を許すわけにはいかない。

それに、だ。



「よくも……よくも私の講和条約を!」



血走った目で、青い魔力を体にたぎらせるエメラルダ。

数ヶ月に渡って築き上げた知性の結晶だった。

それをこんなにも粗暴な方法で粉々に砕かれるなんて、許せない。


それに、だ。

もしかすれば、議事堂のガレキの下にはキウイ・アラヤもいるかもしれない。



「だとしたら、なおさら許さない」



高度二千メートル。

冷たい空気を裂いて爆撃機の正面へと躍り出た。



「許さないっ、許さないっ、許さないっ!!!」



──ガゴンッ!!!



鈍い音を響かせて、衝突する爆撃機とエメラルダ。

ギロリ。

ガラス越しに、機体の操縦者と目が合った。



「わかるか。おまえをだぞ。私はおまえを、許さない」



言って、エメラルダは機体の前面で回る大きなプロペラを力ずくで止めると、さらに操縦席をのぞき込む。



「キウイの手は、唯一この私の頭をなでるモノなのよ? わかる? わからないでしょうね? 粗暴で醜い人類ふぜいどもには! おまえたちはいつだって同種族である人間から力任せに奪い取り、踏みにじる生き物だもの……!」


「ヒッ……! なっ、なんだおまえは……!」


「殺すわ」



腕を振り上げるエメラルダ。

刃のように研ぎ澄まされた青い魔力が機体を真っ二つにする。

すると、その光景を見ていたのであろう、さらに迫りくるもう一つの爆撃機。

先ほどの機体の仇討ちだろうか?

ため息交じりにそちらへと視線を向けるエメラルダへと、



「っ!?」



チカッと火花が光る。

それは爆撃機のプロペラ上部から。

直後、エメラルダの頭を、そして胴体を、いくつもの弾が貫通していた。

その正体は機関銃。



「……爆弾を落とすだけの羽虫じゃないのね」



まあ効かないのだけれど、とエメラルダは機関銃の弾を受けながら爆撃機へと突っ込んだ。

機体正面のプロペラを破壊し、操縦席の窓ガラスを割って中へ入る。



「どうもこんにちは、操縦者さん」


「はっ……!?」



エメラルダは爆撃機内部にいた三人の男のうち、操縦者と思しき男の胸倉をつかみ上げる。



「なっ、何をするっ!」


「出会えて光栄よ。もうお別れだけど。王国の人間は皆殺しにすると決めているの」


「やっ、やめっ──」



ポイッと。

エメラルダはその男を窓の外へと投げ捨てる。

野太い悲鳴が響いたかと思えば、それは段々と小さくなり、すぐに聞こえなくなった。



「次はあなた」



エメラルダは続いて、二人目の男の胸倉をつかむ。

ハンドガンの弾を体に撃ち込まれ抵抗されるが、関係なしにエメラルダは言う。



「こんにちは、さようなら、王国兵のお方」


「バ、バケモノ! なぜ銃が効かな──」



ポイッと。

やはりエメラルダはその男も投げ捨てる。

そして最後の男。

その男は爆撃機の爆弾投下の役割らしく、機体の奥まった場所にいる。

当然、エメラルダは引きずり出して、あいさつをする。



「あなたもお空を飛びましょうか」


「待っ、待てっ! 俺は王国兵じゃ……!」


「では、どこの兵士だって言うの?」


「い、言ったら、命を助けてくれるのかっ?」


「ええ、もちろん。言えたらね」


「おっ、俺は、帝こ──」


「もういいわぁ」



ポイッと。

やはりエメラルダはその男も投げ捨てる。

男は目を大きく見開いて、一生に一度の自由落下を堪能しに旅立っていった。



「最後まで言えなくて残念だったわね。あとちょっとだったのに」



エメラルダは無人になった爆撃機を後にすると、その機体の外面へと手を添える。

すると、その機体をまるっと覆う青い魔力。



「いけ」



爆撃機はあれよという間に進路を変えたかと思うと、王宮へと目掛けて一直線に飛んでいく。

エメラルダのその身に宿る神獣レヴィアタンの海の力に押し流されて。


神獣レヴィアタン──それは、神により生み出されし海の獣。


その姿はときに七つの頭を持つ蛇であり、ときに朝日の両目を持つクジラでもあり、ときに全身から火を噴き出すドラゴンでもあり、そしてその体は決して傷つかない。


その力を体に宿すエメラルダはその特性を引き継いでいた。

しかし、いくら体は傷つかずとも、心は別だ。



「──ざまぁ見なさい、ド低能の王族ども!!! 阿呆の人類国家ども!!!」



王宮へと墜落し大きな炎を上げた爆撃機を見て哄笑(こうしょう)するエメラルダ。

しかしその目は少しも笑ってはいない。

むしろ、今にも泣き出しそうなほどにその目尻に涙を溜めている。



「ようやく、ようやく戦争が終わると思ったのに! おまえらのせいでっ! このゴミ虫っ! 害虫っ! このっ……バーカッ! バーカッ! バーカッ!!!」



エメラルダの悲痛な叫びが、広い空へと虚しく吸い込まれていった。




いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第178話 【Side:議事堂】王都脱出と妄執のアレス」です。


次回もよろしくお願いいたします!


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