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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第127話 われ、オーソドックスを見つけたり

診察用ダークヒール。

俺の両の手のひらからアルビノエルフへと流れ込む黒き癒しの魔力が、バチバチバチッ! と。紫電のごとき <悪魔の雷>となって夜闇の中に仄暗い光を瞬かせる。



「グガッ……ガァァァ──ッ!!!」



叫ぶアルビノエルフは、しかしそれ以上の抵抗を見せない。

マロウによる干渉がなにかある可能性を危惧していたが、



「いや、できないのだろうなっ!」



以前、エルデンにおいて聖女がしてみせた聖力の大放出……それをされてしまえば、俺の流し込んだ魔力は強制排出されてしまい、悪魔の雷の効果もなくなってしまう。

その考えに及ばない賢者ではないはずだ。



「クハハッ、なるほど! <取り憑き>の聖術の正体が少し見えた……!」



おそらく、やっていることはリモートコントロールに近いのではないだろうか?

俺は推測する。

一見してスピリチュアルでオカルティズムのあるその現象は、実は電気的、あるいはもっと高次元な結びつきを利用した遠隔の意識操作、あるいは五感の同化ではないかと。

どちらにせよ高度な技術ではあるが、しかしこうして結びつきを阻害されてしまえばマロウによる干渉ができないという弱点はあるようだ。



「オイッ、聖域が消えたぜっ!?」



下から、俺を背負って跳躍してくれていたウルクロウの声がかかる。



「そのマロウの依り代エルフをぶっ殺したのかっ?」


「まさかまさか」



そんなもったいないことするはずがない。

バチバチバチ、と。

自由落下中の今もなお、悪魔の雷を流し続けている真っ最中だ。



「無力化には成功しています。抵抗がないところを見るに、憑依したマロウ自体はもう消えたかと」


「ソイツ自身の危険度はっ?」


「低いでしょう。ローズから聞いた話ですが、マロウの依り代たちは自分固有の聖術を持たないようです」


「……ケッ。あくまでマロウに乗っ取られるためだけの人形ってかよ。反吐が出るね」



俺たちは万有引力に手を引かれるがまま、無力化した状態のアルビノエルフと共に地上へと落ちていく。

ウルクロウが俺とアルビノエルフを支えてくれつつ、無事に着地を果たす。その横へと、同時に降り立ったのはシェス、それにそのシェスを運んでくれていたスワン。



「上手くいったようですね、さすがはキウイ様です」


「ドクター! ご無事でっ!?」



バチバチバチ。



「ああ、無事だよ」



ウルクロウの背から降りつつ、俺は二人のことも確認する。

どうやらケガもなく無事のようだ。



「二人とも素晴らしい援護だった。ありがとう」


「はっ。私にはもったいないお言葉です。この結果はスワン殿の勇気ある飛行のおかげです。ヤツの光線を綺麗にかわしてくれましたから」



シェスがそう言ってスワンへと視線をやると、びっくりしたようにスワンは目を見開いて、



「いっ、いえいえっ。そんなっ! シェスさんの苛烈な攻撃があってこそです!」


「いや、そんなことはないですよ。スワン殿がいなければ、私は空中を移動することもできなかったのですよ?」


「それはそもそもの作戦の前提でしたから……」



なんとも不可解なことに、シェスとスワンは互いに功績のなすりつけ合いに発展してしまう。

どちらも素晴らしかった、じゃダメなのだろうか?

バチバチバチ。



「キウイ、すごいじゃないか。作戦は大成功だね」



スッと。

木々の陰から出てきたのはアネモネたちを始めとした待機組だった。



「で、キウイ。いつまで悪魔の雷を流してるつもりだい? そのアルビノエルフ、ショック死しちゃうんじゃないかな?」


「あっ」



バチバチバチ。

アルビノエルフの両肩をつかんで離していない俺の両手からはずっとダークヒールが流れ出していた。

うっかり忘れてた。

アルビノエルフは絶えずに小さくけいれん状態だ。



「いや、これは失礼した」



パッと手を離すと、アルビノエルフはグッタリと体を反らし、白目を剥いてピクリとも動かない。頸動脈(けいどうみゃく)に指を当ててみる。脈はあった。どうやらただ気絶しているだけのようだ。



「じゃあ、拘束しておくか」


「ソイツも捕虜にすんのか?」


「ええ。殺す必要がないのであればそうしたいところです」



なにせ、希少なアルビノのエルフかもしれないのだ。

これまで俺が読んできた書籍には載っていない、アネモネたちとは異なる身体的特徴なんかを持っている可能性は十分にある。



「ウルクロウ殿としては納得いただけませんか?」


「……いや、今回の作戦の立案者はキウイだ。そこで得た成果をどうするかについてはおまえに任せる」


「感謝します」



ならば、拘束&移送で決定だな。

人道に配慮した待遇で <保護>しなければ。

拘束についてはシェスに任せる。戦場だし、念のため少しキツめに縛っておいてもらおう。



「それとキウイ、話はもう一つあってさ」


「長くなるか? まずは今後どう動くかを早急に話し合いたいところなのだが」



アネモネには悪いが、なにせ今しがたここでは大規模な戦闘がおこなわれたばかりなのだ。他のエルフたちやマロウの新たなる依り代が寄越されてもおかしくはない。



「じゃあ端的に一点だけ。罠に使われていた世界樹の集落の子の処遇についてなんだけど、」


「捕虜だ」


「了解。じゃあ、連れて帰るよ」



アネモネは片手の指で丸を作ると、木々の残る方へと小走りする。そちらにはローズと、そのローズに手を引かれているエルフの女の子がいた。



……まあ、いったんはエルフ三人組に任せておけば問題はなかろう。



「キウイよぉ、これからどうすんだ?」



ウルクロウが問いかけてくる。



「捕虜は重荷だぜ。抱えながら行軍は難しい」


「フム、それはそうでしょうね」



ウルクロウがエルフの捕虜化に難色を示すのは、部隊の機動力が落ちるからという理由もあるのだろう。

確かに戦闘中に任務でもないのに次から次へと捕虜を増やす行為はいただけない。

だが、しかしだ。



「だったらこういうのはどうでしょう、部隊を分けるというのは」


「オイオイ、戦力の分散は悪手だぜ? それにそんなことしたらよぉ、進軍部隊と捕虜を連れ帰る部隊に致命的な距離が開く。この戦闘中に合流することは二度とできないだろうよ」


「いえ、部隊は三つに分けます」


「は?」


「一つ目は前線維持部隊。現在位置から後ろへのエルフの侵入を防ぎます。二つ目は帰還部隊。最少人数で構成し、捕虜を連れて前線基地へと帰還し、ついでに増援要請をしてもらいましょう」


「……まあ、そうすりゃ少なくともこの前線は維持できるわなぁ。だがよぉ、」



ウルクロウは難しい顔をする。



「それは <受けの一手>だ。今は敵主力を討った直後の攻めのチャンスだぜ? なぜ防御に回る必要がある? オレの性には合わねぇ……ここは進軍一択の場面だ」


「ウルクロウ殿でしたら、そうお考えになって当然でしょうね。この二つの部隊だけでは、帰還部隊が増援を手配するまでの間、前線維持部隊はエルフの集中攻撃を受けることになるでしょう。もしかしたら、マロウの新たな依り代も来るかもしれませんし」


「それをオレとキウイのタッグでまた(しの)ぎたいってか?」


「いえ、そこで登場するのが三つ目の部隊です……が、その前に私は問いたい」



俺はウルクロウを見上げる。



「ウルクロウ殿、あなたは進軍すべきとおっしゃいましたが、それは本音ですか?」


「あ? 本音に決まってんだろうが」


「いや、違いますな。あなたは攻めたいんだ。その圧倒的なまでのパワーで、敵戦力を蹂躙(じゅうりん)したい……そう考えているのでは?」


「そうだ。だから進軍を──」


「あなた一人が無軌道に暴れ回った方がよっぽど威力を持つというのに、あなたもそれを自覚しているだろうに、それでもなお部隊を連れて進軍したいのですか?」


「……!?」



目を見開いたウルクロウへと、俺は思わず口角を上げてしまう。

やはりな、と。

そうして三本の指を立てて言葉を続ける。



「三つ目の部隊、それは敵戦地の奥深くへと高速で突っ込んで、目についた敵戦力をめちゃくちゃに蹂躙し尽くし、そして最後には返ってくる部隊……つまりウルクロウ殿、あなたと私の二人だ」


「オレとキウイ、二人だけの部隊だぁ……!?」


「この三つ目の部隊を仮に、蹂躙部隊と名付けましょう。蹂躙部隊は当然、敵戦力の注意を引くことになるでしょう。すると、私たちが私が先ほど申し上げた前線維持部隊へとエルフたちの攻撃が集中するのを避けられます」


「そりゃそうだ。敵は、オレとキウイを捕まえようと、なんとか囲んでやろうと躍起になるだろうからな……」


「だが、捕まらない。部隊という鎖から解き放たれたあなたなら」



俺はそう断言できる。

なぜならウルクロウは以前、たった一人きりで敵戦地に取り残されても生き延びていた。

魔狼種の第六感、そして身体能力の全てを自分一人のために使えていたからだ。

それをこの戦地で再現する。

新たにダークヒーラーである俺というファクターを加えて、だ。



「ウルクロウ殿、私があなたの最大火力を引き出して差し上げよう」


「オレの……」


「その脚で思うがままに戦場を駆け抜けて、思うがままに暴れ回ればいい。ケガなど恐れるに足らない、魔力が尽きぬ限りそのすべてを私が治すから」


「オイ……オイオイオイ、キウイよぉ……!」



フルフルと震え出したウルクロウは、クククと小刻みに笑うと、



──ガシリッ!



「そりゃなんて最高のプロポーズだよっ!!!」



俺の肩に手を回して、強引に引き寄せてくる。



「いいぜ、愛してるぜ、キウイ! オレと結婚しなっ!!!」


「いや、結婚はしませんが」


「遠慮すんなっ! オレとおまえの仲じゃねぇか、蹂躙部隊のよぅっ!!!」


「と、いうことは……私の作戦で?」


「もちろん、いいともよぉ!」



よしよし。

これで捕虜の確保と部隊の攻めの両立は成功させることができそうだ。


そして、今回の作戦を通じて、俺自身も一つ遊撃医療とはなにかという疑問への答えを発見できた。

予想外の戦力回復をもってして敵の牙城を突き崩す攻めの医療、それが <遊撃医療>なのだと。


つまり敵がきっと予想しないであろう、ウルクロウ殿による損傷無視の予想外の蹂躙行動、それこそが今回の定石。


ああ、よかったと心底ホッとする。

戦争初心者の俺にもようやく正統派の部隊運用(オーソドックス)というものを見つけることができたのだから。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第128話 【Side:エルフ】愚か者のてっぺん」です。


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― 新着の感想 ―
オーソドックス……、オーソドックス? 高回避高耐久高火力のユニットを敵陣に突っ込ませて反撃で削っていって、チャンスステップで全てをなぎ倒していくのはジージェネの一般戦術ですね!(錯乱)
戦術家泣かせが二組(骨と狼)とかwww
オーソドックスかな… オーソドックスかも…
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