宇宙戦争(H.G.ウェルズ著)における火星人の死因に関する一考察
「宇宙戦争(H.G.ウェルズ著)」のネタバレを含みます。ご留意ください。
「宇宙戦争(H.G.ウェルズ著)」では、火星人が地球に襲来してきますが、地球の細菌感染により死滅するとされています。
日本大学医学部教授の早川先生は朝日新聞社・AERAのコラムで「現代の微生物学の立場からすると、火星に高等生物がいたとしても地球上の生物とは数十億年の間全く交流がないので、地球の細菌や真菌、ウイルス(ウェルズの時代にはまだ発見されていないが)が火星人の体内で効率良く増殖し、ついには殺してしまうというのは難しい。」と指摘しています。では、「宇宙戦争」での火星人全滅は本当にあり得ないことなのでしょうか。そのあたりを考察してみました。
「宇宙戦争(H.G.ウェルズ著)」の内容と考察に関する今回の定義
「宇宙戦争」は火星から火星人が地球(英国)に襲来し、火星の兵器を使って破壊と殺戮を繰り返し、人間や動物を餌として食べ、同時期に火星由来の赤い植物が繁茂する事態となったものの、地球上の細菌に抵抗する術がなく、火星人も植物も死滅する、という内容です。
今回の考察に関しては、以下の定義に沿って行っています。
・「宇宙戦争(H.G.ウェルズ著)」の内容はグーテンベルグ21出版(邦訳版・Kindle版)によります
・原著が書かれたのは1897年であることを考慮し、以下の通りとします
当時、ウイルスは発見されていませんが、ウイルス的観点も加えることとします
火星の大気組成は当時解明されていませんでした(重力が低く大気が薄いとされていた)ので、火星人は地球上で重力の影響を受けるものの生身で活動可能とします
原著では火星人および火星植物死滅までに至る日数が明確ではありませんが、主人公が15日目に異変を感知していますので、15日と定義します
火星人の死体を犬や鳥が食べていることから、火星人や火星植物の構成成分は地球上の生物に類似したものとします
火星人の死因は
原著中には「死物を腐敗させる細菌などは我々の肉体は免疫になっているが、火星上にはバクテリアが存在しなかった」とあります。15日間で感染・発病・死亡というプロセスをたどるのであれば、地球上の感染症から考えてみますと、潜伏期を含めたとしても細菌なら多くあてはまるものがありますし、ウイルスでも短期間で発病・死亡まで至るものがあります。しかしながら、広範囲に降り立った火星人や火星植物にかなりの短期間で蔓延できるもの、とすると、地球上で環境中にありふれた細菌やウイルスにより死滅したと考えるのが妥当と考えられますので、いわゆる「病原体」ではなく、地球上の生物にはほぼ無害な微生物によるものと推察されます。
そもそも火星人の構造は
では、そのような環境中の細菌やウイルスによって死滅したと考える場合、火星人側に必要な要素は何でしょうか。
主に以下のものが考え付きます。
・免疫系が未発達であった
「火星にはバクテリアが存在しなかった」ということから、免疫系が未発達であった可能性があります。
地球上の生物は自分以外の生物と区別し身を守るため免疫系が確立されていますが、実験動物においては免疫系や移植(腫瘍細胞の維持)の研究のため免疫不全動物が飼育されています。
実験でよく利用されているのは胸腺と体毛が未発達な「ヌードマウス」(胸腺がないためT細胞が成熟しない)や、突然変異でT・B細胞が未発達のままである「SCIDマウス」があります。
これらマウスは免疫系が未発達であるため感染症に対して弱いのはもちろんのこと、SCIDマウスは通常の生物ではほぼ問題にならない日和見感染症病原体も致死的に働きますので、飼育に際しては無菌環境に近いものが必要になります。
免疫系が未発達であれば、火星人にとっては環境中のいわゆる「雑菌」でも致死的に働くと考えられます。
・地球上の未だ知られていない細菌やウイルスが致死的に働いた
地球上で名前がついている細菌は、細菌全体の1割にも満たないとされています。つまり、現代でも大多数は「存在するはずだが何をしているのかわからない細菌」というのが大多数です。ウイルスに関しては、現在発見されているウイルスのほとんどは細胞に感染して何らかの影響を及ぼしたりすることで発見されますので、「存在するけれど何もしていないウイルス」というのが果たしてどのくらい地球上にいるのかは見当もつきません。
そのような、人類が未だ発見できておらず、火星人にのみ致死的に働く細菌やウイルス、というのが存在しても不思議ではないと思われます。
・単細胞生物であった場合
そもそもの構造が地球上のアメーバやゾウリムシ、大腸菌のような単細胞生物に類似したものであったらどうでしょう。タコのように見えた火星人の手足は細菌の鞭毛であったとか。
地球上の細菌のほとんどは顕微鏡でしか見えないサイズですが、2022年に長さ2cmのThiomargarita magnificaがカリブ海で発見されています。また、原生動物としては最大数十cmになるXenophyophore綱に属する各種生物が深海で見つかっています。ですので、可能性が全くないわけではなさそうです。
この場合、細菌を食べるバクテリオファージなどの標的になる可能性がありますし、単細胞ということは細胞膜・細胞壁で隔てられているだけですから、地球上の細菌が持つ酵素等で穴が開いてしまえば修復は困難かと考えられます。
とまあ、荒唐無稽な事象に対して仮説を立ててみたのですが、いかがでしたでしょうか。
今回は、火星人の死体を犬が食べていた、ということで、食べても大丈夫な物質であるということから構成成分は地球上の生物に類似、としたわけですが、そもそも「地球外生命体」って、炭素系と水で構成されているとは限らないのではないでしょうかね。
例えば、最近話題のAIですが、コンピュータチップの主成分はシリコンですよね。周期表で炭素の一周下のケイ素主体の。これが意思を持って活動し始めたら将来「シリコン生命体」として現在の生物とは異なる「生き物」となっていくかもしれません。その時、既存の「炭素生命体」はどうなっていくのでしょう。
共存かそれとも。。。
駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。