表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冬の一日

作者: 和花

(…ない。)


何気なく探ったダウンのポケット。

指先の、そこにあるはずのものが触れない。

「やば…」

はっはっ。息が短く、漏れる。


くそっ。

右のポケット、ない。

左も、ない。

リュックに入れたかも?

チー。

ジッパー全開。やっぱり、ない。ないと分かっているのにジタバタしている自分を冷たく眺めている、もう一人の俺。

当然だろ、馬鹿だな。

さっきポケットにつっこんだだろ。


うなだれながら、ここまで辿った道を遡ることにした。


彼女が誕生日に贈ってくれた黒い革のケースに納めた、俺のスマホ。仕事のメモを書き込んだ黄色い付箋もたくさん挟んでいた。ほかにカードもいれていた気がする。


ヤバい。

明日から仕事始めなのに。

ーどこで落とした?どこにあるんだ?

悪いことに使われそうでぞっとした。


脳内に今日起きてからの出来事がぐるぐるめぐっていく。


内海の、波の静かな湾内の松林が広がる公園。

正月が明けたばかりで、ほかに訪れる人もない。

ちらほら漏れ差す光の間に間に、クリーム色の水仙がまばらに花開いている。

足元は枯れた松葉がうず高く積もってやわらかい。

松ぼっくりが至るところに散らばっている。

松脂の香りがロージンバッグの感触を思い出させた。


ーふとさっき別れたばかりの彼女の横顔を思い出した。

「ごめん、もう無理だわ」

静かに涙ぐんでいた。

そして踵を返すと、俺の右側から去っていった。

待って!

振り向きざまにこぼれそうになった呟きをなぜか飲み込んだ。

俺の非を悪しざまに責めもせず、別れを告げて去った彼女に、何が言えただろう。


はあー。

ついてない。

なんで今日、こんな目にあうんだろ。

彼女がいてくれたら。一緒に探してもくれただろう。

彼女がいたら。

彼女の着信音で、直ぐ見つかるかも知れないのに。

彼女がいたら…。



小1時間探し続けたが、歩いた道を何往復してもスマホは見つからなかった。

ー持ち去られたか。

俺はしいんと静まり返る松林の道をとぼとぼ歩いて駐車場に向かった。


「あの、ちょっとすみませ~ん」

公園の門を出ようとすると、ふいに声をかけられた。

受付のお姉さんだ。

「これ、もしかしてあなたのものではありませんか?」

お姉さんの開いた両手には、黒い革のスマホがのっていた。


!!!!!


「別のご家族連れのかたが届けてくださったのですが」


…あった。

見つかった。

…あった。

俺の。


「あっありがとうございます!探してたんです!本当にありがとうございます」


思わずスマホを胸にきつく抱きしめた。


彼女がいたら。笑顔が浮かんできた。

彼女がいれば。俺は、俺は。

そうだ、話をしなくては。

今ならまだ間に合うはずだ。

思わず駆け足になった。

もどかしく動く指先の向こうから彼女の声が聞こえた。


「もしもし、俺…」















スマホ失くすって本当にショッキングですよね。

お読み下さり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ