幸せの形を蝋燭と例えるならば
とある世界での話ですが、その世界では幸せの形を蝋燭で例えられる事が出来ました。
幸せを感じるとその人の前に蝋燭が現れるのです。
ゆらゆらと火が揺れて燃えています。
そんな蝋燭は姿形も違えば、火の強弱も明暗も温度も人それぞれに違います。
ゆっくりと火が消える蝋燭もあれば突然と火が消えたりする蝋燭もあります。
また蝋燭は自分の手で作り直す事も消す事も出来ます。
そんな中。
小さな蝋燭の小さな火が消えない様に私は両手で包む様にして必死に守っていました。
昔々の話ですがもう名前も覚えていない人達に、吹き消されたり踏み潰されたり水をかけられたりして私の蝋燭を壊された事がありました。
また一生懸命頑張って作り直しても何度も何度もその名前も覚えていない人等が飽きるまで壊され続けました。
私は蝋燭の火が消えるのに対してとても敏感になりました。
それから10年位かけて小さな蝋燭に小さな灯火が宿った時は嬉しかったです。
ですが、直ぐにまた消えたらどうしようと思うと凄く怖くなってしまいました。
だから私は両手の掌が火傷してでも消えない様に必死に守っていました。
するとそこに彼はやってきて私に尋ねました。
「何をやってるんだい?」
「蝋燭の火が消えない様に守っています。」
「そんなに両手で包む様にしていたら火傷しないかい?」
「火傷はしています。」
「痛くはないかい?」
「痛いですが、火が消えるよりかはずっといいのです。」
「ふーん。随分と必死だね。」
「はい。必死なんです。火が消えたら怖いか
ら。」
「手が痛そうだな・・・そうだ。」
「・・・?」
「僕が囲いを作ろうか?」
「?」
「僕は工作が得意だからさ。その蝋燭の囲いを作る事が出来るよ。そうすれば火は消えないし掌が火傷する事もない。心配ならたまにちゃんと火がついてるのか確認しやすい様に小窓も作っておくよ。どうだい?」
「あ、あの。何でそこまでしてくれるのですか?」
「君が一生懸命に守ってる蝋燭の火がとっても綺麗に見えたんだ。それに君の掌が火傷しているのは僕が悲しいと何故だかは分からないけれどもそう思ってしまったから。だからかな。うん。それだけさ。」
「・・・。」
「僕に囲いを作らせてくれるかい?」
「・・・。」
「君にとってそれは怖い事だとは思うよ。見知らぬ他人に囲いを作らせてくれって言われてもさ、怖いよね普通は。だから無理にとは言わないよ。もしも君さえ良かったら僕を1度だけでもいいから信じてみてくれないかい?」
「・・・・・・はい。どうぞ、宜しくお願いします。」
「ありがとう。絶対良い物にしてみせるよ。」
それから。
「便利ですね。」
「だろう?」
あれから私の大事な蝋燭には囲いが出来ました。
小さな火がゆらゆらと穏やかに揺れています。
彼が小窓も作ってくれたので灯りがついている様子が確認したい時に出来る様になりました。
私は必死になって蝋燭を守る事が無くなりました。
両手の掌の火傷もだいぶ良くなりました。
それに肩の力も少しだけ抜く事が出来ました。
今までは自分の事まで気が回りませんでしたが、身だしなみを気にする様になるくらいには余裕が生まれたのです。
彼と会う日などは特に。
「改めましてありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「あの、お礼がしたいのですが・・・。」
「僕がやりたくてやっただけなんだけだから気にしなくていいのにって言いたい所だけど、1つ、いや2つあるな。希望を言ってもいいかい?」
「お願いします。」
「じゃあ、敬語は無しがいいな。タメ口が嬉しい。距離感が近付く気がするんだ。」
「はい、あ。うん、分かったわ。」
「じゃあ、あともう1つは僕と友人になってくれるかい?」
「私でいいの?」
「あんな綺麗な蝋燭の火を僕は初めて見たんだ。小さな蝋燭で小さな火だけれど、君の両手の掌が火傷するくらいの熱さ。それは強さだよ。強い意思の様なものを僕は感じた。そんな火を一生懸命守る君はじゅうぶんに素敵な人だと思ったよ。だから友人になりたいんだ。」
「・・・ありがとう。私からも言わせて。」
「うん。」
「私と友人になってくれる?」
「うん。よろしくね。」
それから暫くして。
小さくても強くて綺麗な灯りが宿っている小さな蝋燭の隣には、少しだけ大きくて凛としていて優しい灯りが宿っている蝋燭が一本増えました。
囲いの中で仲良く並んだ2本の蝋燭を一緒に見守りながら2人はおばあちゃんおじいちゃんになっても仲良く暮らしました。
終わり