「あけましておめでとう」と言うけれど一体何がおめでたいのだろう?
一月二日の朝、郵便受けを開けると、数枚のハガキが入っていた。
元旦に間に合わなかった年賀状たちだ。
今時「あけましておめでとう」なんて、わざわざ年賀状にする必要もないだろう。メールやラインで十分なのに、こうして紙に書いて送ったり送られたりするのは、無駄な習慣に思える。
そもそも、一体何が「おめでとう」なのか。お正月だからといって、特別なことは何もない。ただの冬の連休ではないか。
そう考えながらも、誰からの年賀状なのか、差出人を確認していたら……。
「おっ!」
思わず僕は笑顔になり、心も温かくなった。
学生時代の片想い相手。ずっと好きだった女の子から、年賀状が届いていたのだ。
さすがに、今では恋心も薄れている。
でも当時は、本当に彼女に惚れていて、いくら断られても諦められなかった。
彼女は僕のことを「男の人として意識できない」と言っていたが、友人としては受け入れてくれたから、たくさん話をしたり、二人で遊んだりもした。
付き合うことは無理でも、一緒の時間を過ごせるだけで十分。僕はそう考えて自分を納得させようとしていたし、なまじ二人の時間があったからこそ、想いを断ち切れなかったのだろう。
そんな彼女とも、大学卒業後は疎遠になって……。
最後に電話やメールをしたのがいつなのか、もう覚えていないくらいだ。年賀状も初めてだった。
「学生時代の片想い相手からの、久しぶりの連絡。これこそ『おめでたい』年賀状だな」
独り言と共に、年賀状を裏返す。「あけましておめでとう」の決まり文句以外に何が書かれているのか、ワクワクドキドキしてしまうが……。
年賀状にプリントされていたのは、一枚の写真。
僕の知らない男と二人で幸せそうに写っている。「私たち結婚しました!」的な文面も添えられていた。
「……」
ふわふわと浮かれていた気持ちが、スーッと消える。
無表情になった僕は、写真の中の彼女に対して、自然に呟いていた。
「ああ、おめでとう」
彼女はおなかが丸くなっていて、まさにおめでたい状況だった。
(『「あけましておめでとう」と言うけれど一体何がおめでたいのだろう?』完)