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『来る事は無い昨日を想う』11-6
『…海月、男子トイレでいいな?』
「…え、えー?…」
一応、形式的に
驚いて、抵抗を示しているが
目の端には涙が溜まるほどになり
余裕が無くなっている彼女には
もうそんな事を気にする余裕が無いように見えた
俺はヒールごと蹴破るぐらいに足で戸を押した
中にはほとんど誰もいなかった
が、
誰かが奥の大便用の個室に入ろうとしていた
俺はそれを遮るように立ち
個室の中に海月をほうり込んだ
流石に男子小便用の便器を使わす訳にはいかなかった
そして、今まさに個室に入ろうとしていた男子生徒を引っ張ってトイレの外に連れ出した
『…ハァ…ハァ…
わ、悪いが…少しの間使用禁止だ…!』
「え…?」
俺はある事に気付いた
その男子生徒に俺は見覚えがあったのだ
きっかけは……赤髪だ
(あ…赤嶺…礼乃…!!)
「君は…………ん?」
『………』
顔が引き攣るのがわかった
「……雨月………君…?」
『…記憶を……失え……』
「え…?」
『今すぐ、忘れろォオオオオッ!!!』
八つ当たりに近い形で俺は赤嶺を殴り倒した
第11話 青海 雨月と藍坂 海月と赤嶺 礼乃の災難




