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『来る事は無い昨日を想う』10-4
「青海君、何してるの?」
部長が俺に声をかけると俺は何事も無かったかのように振り返る
『いや、知った顔が見えたから…
気のせいだったみたいだ』
俺は簡単に嘘をついた
両刃剣はすでにその姿を消してした
幸い注意しながらだったので、ドレスはあまり乱れて無かった
「あら、そう?」
『ああ』
俺は再び行進の流れに加わった
(……なんだったんだ?
"奴"は…)
『……知ってるんじゃないか?』
俺は消えそうなくらい小さな声で呟いた
-…………-
"俺"は黙して何も語らない
そう、肯定も否定もしなかった
『………ん?』
視線を感じた
「………」
『千歌名ちゃん?
どうかしたか?』
「あ、いえ…なんでもないです」
そう言って彼女は目を反らした
何だか反応が先の瑠月に似ていた
しばらくすると
前方からわーっと歓声が聞こえた
見てみるとサッカー部がリフティングしながら歩いていた
「パフォーマンスの一貫ね」
部長が言った
『ただの行進じゃなかったのか?』
「そのつもりだったけど……
私達もしましょうか。」
語尾は?ではなく。だった
部長の口元が一瞬歪んだのを俺は見逃さなかった