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『来る事は無い昨日を想う』9-2
出来る事なら、今すぐここから逃げ出したかった
厳密に言うと出来ない訳ではない
しかし、憤りを通り越し冷静になった頭が
今の状態では、その行為はあまり意味が成さない事を理解していた
そう、俺の容姿はすでに変貌(正しい表現ではないかもしれないが俺は変貌ととらえていた)してしまっていたのだ
むしろ、今の姿で無計画に飛び出すのは自殺行為に近い
俺は溜息まじりに腕を組んだ
その時
-ムニュッ-
(…………ムニュッ?)
俺は視線を下に下ろす
てっきり、パットでも入っているのかと思った
僅かながら、俺の胸は女性的な膨らみがある
「シリコン入れておいたから」
部長がタイミングを見計らったかのように口を開く
『……は?』
「ああ、でも
心配しないで別に肉体に直接注入した訳じゃなく、
シリコンで作った人工の胸を張り付けてあるの」
俺は絶句した
何に絶句したか
目の前の
この女の計画性に、だ
いくらなんでも、そんなもの
昨日今日で手に入れるなり作るなり出来るはずがない
恐らくは…もっと以前より計画されていたのだ
…多分、俺が逃げ出さない事も計画の内なのだろう
(この女こそ魔性の女…だな)