『来る事は無い昨日を想う』4-6
…俺は
一人になってから、料理を作り始めた訳じゃなかった
本当はそれよりずっと前…小学校に入るか入らないかぐらいの頃だ
妹と二人で留守番していた俺はホットケーキを作る事にした
理由は単純
腹が減ったからだ
冷蔵庫には何も無く
両親らはいない
幸いホットケーキの材料はあった
作り方は粉の入っていた箱に書いてあった
慣れない手つきで一生懸命に作った
妹が隣でじっと見つめていた
途中で投げ出す訳にはいかなかった
やがて、完成したホットケーキは見栄えも悪くところどころ焦げていたが妹は美味しいと言って食べた
自分でも初めてにしては中々だと思った
帰ってきた両親に勝手に火を使ったら駄目じゃないかと怒られはしたが
妹は喜んでくれた
その事が俺に誰かの為に料理を作る事の喜びに繋がった
あの日、妹が言った事が心に響く
"美味しかったよ
また、作ってね
今度は私も手伝うから"
と
「雨月さん」
『ん?』
「じゃあ、今度は…いつか、私が雨月さんの為に何か作りますね」
『……そうか
じゃあ、俺もいつか
君の為に作るよ』
「そ、そんな…悪いですよ…」
『…そうか?
…でも、迷惑じゃないなら、作るよ』
「…は、はい…」
俺は学校に戻る準備をした
『ああ…それと…
敬語はいいよ…なんか、無理しているようで悪い』
「…あ」