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『来る事は無い昨日を想う』0-1
-9月30日-PM5:12、駅
ボクは彼を見つけた
彼と会うのは10年ぶりだったから
彼を見つけた瞬間、彼だとわからなかった
彼は駅のベンチに座っていた
彼はくせっ毛らしく
後ろ髪が無造作に跳ねていて
前髪が
瞳を隠すほど長かった
けど時より前髪の隙間から見える瞳は
どこか儚げで
哀しみさえ秘めているようだった
服装はと言うと
漆黒の…まるで神父のような感じで
まだ、9月だと言うのに
冬物を着ていた
彼はイヤフォンで何か音楽を聴いているらしく
後からそれがクラシックだと知った
そして、彼は少し厚めの小説を読みながら
迎えが来るのをまっているようだった
その雰囲気にボクは飲まれそうになった
彼の容姿は何処からみても男性的なのに
その雰囲気は大人の女性と無垢で清楚な少女を足したような
普通ならば持ち得ない
ボクが今まで出会った事の無い
あまりにも特殊なものを持っていた
ボクは一瞬、躊躇ったが
覚悟を決めて彼に話しかけた
『…ウヅキ君?』