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生態学者とイーシャさん

翌日、シシリーに鼻を摘ままれ目を覚まし、サガやカノンそれにコウガと朝食を頂きギルドへ赴く。


「ジン、待っていたわ。こちらへ」


 ギルドへ入ると、ミレーユさんが待っていてそう告げられ応接室へ移動する。昨日の仕事についての詳しく話を聞きたいという。報告書の別紙の件だろうか。補足として大雑把に線を引き、アラクネに案内して貰った際見た者たちを描いて渡した。絵心が無いのでシシリーにアドバイスを貰いながら描いたので一応見れると思う。


問題があるとすればアラクネの話はしない方が良いと思って記載はしていない点だ。それを突っ込まれるのかもしれないと思い冷や冷やしながら話を聞いている。突然応接間の扉がノックされ、ヤマナンさんと少しタレ目で眼鏡を掛けた、細かい装飾の施されたローブを着てフードを被った小柄な女性が一緒に入って来た。


女性はこの辺りの生態について調べている生態学者のミリアム・アドベと名乗る。ヨシズミ国では直営の研究機関を持っていて、そこに在籍しているという。昨日提出した報告書に興味を持ち王様の許しを得て飛んで来たそうだ。


なるべく深く突っ込まれないよう事実だけを羅列して提出しただけだったが大分好評だったらしい。当時の状況や俺がどう思ったかなど事細かく聞かれ、向かい合って座っていたが話をするにつれ前のめりになって来てその圧に参った。


辟易していると応接室のドアをノックする音がしてミレーユさんが扉を開ける。するとそこにはつばの広い帽子にワンピース、サンダルと真っ白な肌が映える黒で統一したイーシャさんが居た。


「イーシャ様、どうかなさいましたか?」

「はい、父の使いで参りました。ジン様にお話を伺いたいそうです」


 良かったこれで解放されると思って立ち上がろうとすると、ミリアムさんに肩を掴まれ強引に座らされる。凄い力と目力……最初の雰囲気とは打って変わって狼モドキでも倒しそうな勢いだ。


「今は国の方で聞き取りをしていますので後にしてください!」

「はぁ……」


 イーシャさんの方を見ず語気を強めて言うミリアムさんに対してイーシャさんは呆れたような返事をする。ミリアムさんはハッとなり立ち上がり辺りを見回し後ろに立っていたイーシャさんに気付くと、忙しなく何度も頭を下げて謝罪した。


「すまないジン殿。森の中がここまで大きく変わるなんてこれまで無くてな……ミリアム殿は興奮してジン殿の報告書をずっと見続けて眠れなかったらしい」


 ヤマナンさんがそうこっそり教えてくれた。暗闇の夜明けが元々居たゴブリンを使って町を襲撃しなければこんな事態にはならなかっただろう。数が減ったゴブリンに対し、その隙を巨大蜘蛛(ハイアントスパイダー)が突いて全滅させ、移動しようとしたところに他の種族も乗り込んで来ての大乱戦状態だから、予想は出来なくても無理はない。


「イーシャさん少々お待ちください。こちらの用件が済みましたら町長の家に参りますので」


 そう告げるとイーシャさんは不服なのか真顔でジッとこちらを見て頷き何故か隣に来て座る。ミリアムさんはイーシャさんにビビリ倒してしまい結局話はそこで終わりになってしまった。少し間を開けてミレーユさんから今回の報酬に関しての話になり、何と基本の五十ゴールドに百ゴールドプラスした報酬が支払われると言われ喜ぶ。


「随分とギルドと言うのは仕事料が安いのですね。お父様にお伺いした限りジン様の功績は大ですのに」

「一応手取りが百五十なだけよ。保険料や税金を抜かなければもっとあるし、ギルドに対する貢献度は当然高い」


「国に属すればもっと安全でお金がもらえますのにね」


 イーシャさんは真顔でこちらを見ながらそう言う。その辺は詳しく分からないので笑って誤魔化す他無い。空気がとても良くない感じなので報酬を受け取ると素早く御暇し町長の家へ赴く。サガやカノン、コウガはもう依頼を受けたのか居なくなっていた。


「ジン様、ゆっくり参りましょう」

「はい!」


 ギルドを出ようとするとそう言われた。個人的にはあの場所から離れられればオッケーなので、イーシャさんがそれで良いならそうするべくゆっくり歩きだす。シシリーが鎧から顔だけ出してイーシャさんを見て声を掛ける。


馴染みの無い人が多い場所ではシシリーはとても大人しい。妖精は悪戯が大好きだと言うが、シシリーに関しては気遣いの出来る良い子だ。この子みたいな妖精ばかりだと良いのになと思う。


「イーシャ、御久し振りね」

「シシリーさん御久し振りです、お元気そうで良かった。人間の中に居て体調が悪くならないか心配してたんですよ?」


 やはりこの世界の一般人はそう考えるのか。シシリーも人間が得意では無いと言っていたし、中世の街並みや環境でも妖精には辛いのかもしれない。シシリーを見ると何故か首を傾げていた。


「どうしたシシリー」

「うーん良く分からないけどここに居るとそんなに疲れないわね最近」


「ああそれはジン様の気に慣れたのかもしれませんね」

「慣れた、ですか?」


「はい。ジン様は普通の人と違い竜神教の司祭様から直々に手解きを受けて会得していらっしゃる。恐らくですが、その力がバリアとなってシシリーさんを守っているのかもしれません」





読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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