久々の冒険者ギルドへ
翌日からも鍛冶手伝いをしアイラさんのところで学び始めて二週間が経った頃、マリノさんが来て急いでギルドへ行くよう言われた。俺とコウガは首を傾げたが、恐らく国や町との話し合いが済んだのだろうと思い、急いで向かった。
「二人とも呼び出して悪いわね。特にジンは長い間待たせてごめんなさい」
ギルドへ赴くとミレーユさんにそう言われ恐縮してしまう。暗闇の夜明けとの戦いの件でギルドに迷惑を掛けてしまい、クビになるんじゃないかと内心ビクビクしていたのもあって居心地が悪い。
「例の件だけど町や国との調整が付いたわ」
「そ、そうですか」
「詳細は奥の応接間で」
ミレーユさんはカウンターに準備中の小さな立て板を立ててから出て、正面から見て右奥にある扉へ向かう。俺たちもそれに続き、扉の奥へと入る。ギルドの他の職員がデスクワークをしていて、ミレーユさんを見て他の職員がこちらに来て一礼し、外へ出て行った。恐らくカウンター業務の交代をする為だろう。
応接間と書かれた扉を開けると高そうなテーブルと椅子があり、そこへ掛けるよう言われコウガと並んで座る。ミレーユさんは向かい合う様に座ると話し始めた。
「今回の件は国の方で全て内密に進められていて、国民が不安を抱かないよう町長も配慮しての行動であったので非常招集制度を活用しました。国王からもギルドに対して謝罪のお言葉と、国として褒美を与えるのでギルドは報酬を支払わなくて良いと言って頂いてこの件は御終いになったわ」
「何だか大変だな」
「事務手続きと確認を省くと本当に大変なのよ組織だから。今回は依頼ではなく流れで国家の存亡に関わる様な事件に巻き込まれてしまったけど、通常そういう大きな問題が起こった場合は打診して貰い、上位冒険者を当たらせるのが一般的なの。双方の安全の為にもね」
確かに派遣してないまでも、ブロンズ級の冒険者が事に当たって失敗した場合にギルドとしては面目丸潰れになるのは分かる。新入社員が勝手に付き合いの長い企業を一人で担当して進めているようなものだから、逆の立場なら胃が痛くて堪らないだろう。
「ギルドの上層部はジンが報告を怠った点を問題視していたけど、注意のみで留めシルバー級に飛び級させることで報酬とすると決定したわ」
「い、いきなりですか」
俺が戸惑うとミレーユさんはにこりと微笑みながら頷いたのを見て俺はホッとする。昇級とかより処分が決定したのが一番安心した。
「ここまで時間が掛かったのは功績に対して何処までランクを上げるか協議が進まなかったからなのよ。内容からしてゴールド級だけどそこまで上げる訳には行かないし、かといってブロンズ級で留めると他の冒険者との差が出来てしまって依頼がジンに集中してしまうし」
本来なら俺はサガやカノンと同じ位置だった。それが例の件に協力し貢献したことで、他企業で実績を残した人が中途採用で入り平社員で居るような状態になってしまったのだろう。
ランクが同じで実力が上なら誰でもそっちを頼む。俺をブロンズ級の基準として依頼する側が捉えてしまうと要求が高くなり出来ない人はどうしようもなくなってしまう。
向こうの世界でもそうやって基準が上がり、一昔前なら二人でするような仕事を一人でやらされているというのがあった。企業側も人件費削減になるし、出来ないなら責任を取らせて辞めさせてるのを見た覚えがある。
まさかそんな基準に自分が当てはまる時が来るなんて想像もしてなかった。これもこの世界に来てパワーが上がったり、縁があって師匠や司祭たちに出会え教えを請う事が出来たからだ。そういう機会が無かったら生きてたかすら怪しいので感謝しか無い。
「ジンとしてもかなり難しい局面に居たのが結果的に分かったから良いけど、今度からなるべくギルド側に、私にだけでも良いから報告して頂戴ね貴方の為なら時間は割くから。何事も手順を踏んだ方が後々楽だし、追及されるのも嫌でしょう?」
「肝に銘じておきます」
会社員時代は無断で突っ走るなんて無かったのに、縛られるものが無くなった上に強くなったと思って突っ走ってしまった。今後はなるべく慎重に行かなければとな思う。気まずいだけでなく長い時間無収入になるのは辛い。
「……羨ましいなお前は。こんな美人にここまで言って貰えるなんて」
「お世辞を有難う、コウガ。貴方にも連絡があるのよ」
お世辞じゃないだろうなと思いながらチラリとコウガを見ると、目は不服そうな感じだったので吹き出すのを堪えながら話を聞く。どうやらギルドに登録する際に、出来れば素顔の方が良いんだけどと言う相談だった。
「ポリシーがあると思うんだけど、一応これ身分証にもなるから」
「構わない。もう盗賊団では無いし、元々国や儲けてる連中を襲っていたから国が許したのであれば素顔を隠す必要も無い」
そう言うとあっさり頭部の頭巾を取って顔を露にする。俺と同じようにボサボサした感じで癖毛の金髪。鼻筋が通っていて目がキリッとしている、同じ年くらいのシブイ顔だった。
「コウガ、十分男前じゃない」
「そ、それは付き合っても良いという事か!?」
「「違う違う」」
ミレーユさんと一緒になってツッコミを入れてしまい、ムスッとしたコウガを置いて二人で笑う。改めてコウガの冒険者証を作り直し、更に俺の冒険者証も新しいのに切り替えた。
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