鍛冶手伝いで忙しい日々
「どうかしましたか?」
「あ、いえいえ何でも。それじゃあまた明日」
雑談もそこそこに教会を後にする。俺がフォロー出来れば良いんだけど、あの村に居たのは短期間だったから内部情報も分からない。彼女が暗闇の夜明けを呼んだ訳ではないっていうのが立証出来れば良いけど皆亡くなってるしなぁ。
国から見ても彼女が村のリーダーと見られても仕方ない。何しろ彼女で無ければ他からの支援など到底受けられない。亡くなった大臣の娘が新しく国を作るっていう謳い文句は何よりも強力だろう。
「おはようございます!」
「ジンおはよう! そう言えばコウガは?」
アイラさんの家に顔を出すとそう言われ、コウガをすっかりさっぱり忘れてたのを思い出して宿へ一旦戻る。コウガは俺が戻った時漸く起きたようでのんびり朝食を食べていた。
それが済むのを待ってから再度鍛冶屋へ赴く。鍛冶屋に着いて今日は何をしようかと三人でのんびりコーヒーを飲みながら話していると、マリノさんが飛び込んで来る。何とアイラさんが防具に入れていた細工を気に入った隣の国の貴族からの依頼で、十人分の鎧一式を至急欲しいというものだった。
大慌てでマリノさんも加わり準備を始める。皮革に不安があったので親父さんに急遽取り寄せてもらいながら先ずはある分で製作に取り掛かった。作っていくと皮革だけでなくインゴットも足りなくなっていまい、俺たちの掘って来た物も提供し何とか一週間で納品完了する。
睡眠時間もほぼ取らず全力で作り続けアイラさんの家で死んだように丸一日寝続けた。そして目が覚めると早々に再度鉱石を取る為に向かうべく、準備の為に防具屋に寄った時に親父さんから丁度昨日鉱山が解除されたと聞いて驚く。
閉鎖に関わったティーオ司祭から直ぐにでも解除しても良いって聞いていたので、もうしたものだとばかり思っていたからだ。
「何か問題でもあったのか?」
「いや、ブロンズ級の冒険者たちを集めて教習がてら木枠等の補修をしたようだ。検査してみてヤバいって言うよりは中々鉱山内に人が居ないってのが無いからやったんだと思うが」
それを聞いてサガとカノンが少し心配になりアイラさんたちに一度宿に戻る旨を伝えて走って向かう。丁度朝だったのでマリアナさんが受付をしていたので二人の様子を尋ねると、やはり参加していて今は疲れて眠っているようだ。
連日朝から晩まで鉱山に居たらしい。若い世代を集めて鉱山での注意事項の説明や補修の仕方の講義を受けて居たので、精神的に疲れたと言っていたと聞いてホッとする。
マリアナさんに鉱山にまた行く旨を伝え防具屋に戻り、二人が無事依頼をこなしちゃんと帰って来たと親父さんたちにも伝えた。
「まぁ鉱山は危ない場所だけど常時人が足りないからね。早いうちに教習をして何時でも入れるようにして行くのは良いね」
「そうだな。国内で使う用は無くても他の国に出荷してゴールドを引っ張ってこれるからな。どうにかして人を増やして鉱石の採掘量を増やしたいところだな。俺たちの儲けにも繋がるし」
「いきなり鉱夫になりたいって人は居ないんですかね」
「高給取りだから居ても可笑しくは無いが、全体から見ると多くはないな。冒険者は一山当てれば貴族にも勝る財産と名声を得られるが、そんなのは一握りだ。だからこそブロンズ級の時は鉱山の教習を兼ねた補強のような仕事を国が作ってギルドに委託し、万が一駄目でも他に道があるようにしてる」
「まぁそれで何とかなる奴が全てじゃないけどな」
「元盗賊の頭張ってたお前さんなら分かる問題点もあるだろう。全ての人間を救える訳じゃないのは誰でも分かるし、道を外れた覚えの無い多くの人間が作った道だから漏れる。それに対して提案する奴が居るべきだし、俺は求められてると思うがね」
親父さんは真っ直ぐコウガを見て説くように言った。コウガはそれに対して暫く間があってから頷く。シンラたちに襲撃されなければ今も盗賊団の首領だっただろうけど、コウガは今はこの町の住人だ。
何でも積極的に聞いて覚えようとしているコウガはそう言った人たちの道しるべになれると思う。本人も元は他人を纏めて居たから、ひょっとすると偉い人になってまた他の人を率いるかもしれない。
「さて難しい話はまた今度。私たちは先ず鉱石を取りに行かないと何も出来ないからね」
「しっかり買って行ってくれよ! お前たちの稼ぎのあるなしは俺たちにも影響するからな!」
「そう思うならもう少し負けてくれよ」
「お前さん鍛冶を学んでるとは思えんな」
コウガのボヤキに対して親父さんは即座に突っ込んで皆で笑う。そして鉱山用の装備を改めて準備して鉱山の麓へと向かう。この日は昼間から入ったのでまだ鉱夫の人たちが多く居た。俺たちはアイザックさんに指定された場所に移動し周りの鉱夫たちに挨拶してから採掘を開始。
兎に角アイラさんの家のインゴットのストックも全て無くなっていたので、この日もガッツリ掘ってから鉱山を後にし、その足で製鉄所に向かいインゴットにして明け方就寝した。
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