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二人の冒険の始まり

何とか宿に辿り着き、サガやカノンとも合流して夕食を一緒に食べる。コウガはそんな気力は無いと言って部屋に戻ってしまう。二人に対する後ろめたいと言うかなんと言うかがあるのかなとも思うので、そうかといってそれ以上何も言わなかった。


「そろそろ町や国の事情とか法とか分かって来たので冒険者をやって見たいんですが」

「私もやってみたい!」


 二人の申し出に対して即答は避けた。忙しい中でも宿の皆がフォローしてくれたお陰で二人の報告は常時受けている。周りにも馴染めているし元盗賊だったりという点も鳴りを潜めていると聞く。と言うか別に盗賊しなくて生きて行けるならするような性質の人間ではないのは短い付き合いながらも分かる。


特にカノンはベアトリスやイーシャさんにマリノさんなど年が近い人たちとの出会いにも恵まれ、彼女たちに負けたくないと言う意識があるようで、背筋もピシッと伸ばして歩くしオシャレにも気を遣っている。前よりも髪を結うのが丁寧になったし最近は裁縫を一生懸命やっていた。


サガは妹の面倒を見ながらヤマナンさんの教室に通い、狩りや森について学んでいる。何故即答を避けたのかと言うと、二人は親を早くに亡くし二人で盗賊をしなければ生きてこれなかったので、誰かに真剣に思われるという状況は無かったんじゃないかと思っていた。まぁ自分も似たような感じだからっていうのもあるけど。


なので知らない誰かが親身になって世話してくれて真剣に考えてくれるっていう状態が大事かなと考えた。俺はおっさんだし異世界人だし先生のようにはなれないが、そう言う人のピンチヒッターくらいはやれる……と言うか出来る範囲でしたいなと思っている。


「駄目でしょうか……」

「いや、良いよ。二人は元々身体能力が優れているし、ブロンズ級のお仕事なら問題無いだろうからね。サガもカノンも自分で自由にできる御金があった方が色々学んだり出来るしやると良い」


 恐る恐る俺の様子を窺う二人に対して腕を組み目を瞑って言ったが、最後は目を開き笑顔で頷くと二人の顔はパッと明るくなり兄妹で抱き合い手を取って踊り始める。


学校自体彼らより年下の子たちが通う場所だったし、学校の先生からのお便りで”年下の子たちのお世話をして貰って却って申し訳ない”と書かれていてどうしたものかと考えてはいた。


ただ俺自身ここのところ国絡みの仕事があり忙しく、彼らの状況を確実に見て知っている訳でも無いので彼らの中でそこで得られるものがあるのかもと思い言わずにいて今日に至る。


 二人は次の日冒険者登録をするべくギルドへ赴く。俺も一緒に行こうとしたが、二人で出来ると言うのでギルドまで一緒に行きそこから先は二人に任せた。


「親代わりをしている感じですね」

「そんな大それたものじゃないですよ。あの二人は俺よりしっかりしてますから、一時の支えがあれば良いんです」


 教会へ向かい何時もの鍛錬を開始する。寝すぎたシシリーは朝から元気だったが、森の家を暫く留守にしていたので一旦帰ると言い宿を出ると同時に帰って行った。ここ暫くシシリーが収まっていた胸元のスカスカ感が意外と気になる。


「流石ジン殿。年の功といったところですか」

「まぁそんなもんです。それより鉱山はまだ閉鎖中ですか?」


「昨日の今日なので一応閉鎖してます。ですが問題はそれじゃないでしょうからもう解いてもいい気はしますね」

「ティーオ司祭、何か知ってらっしゃるんですか?」


 俺が組み手をしながらそう問うと、それまで攻守入れ替えでやっていたのが急に本気で押して来てあっさり腕を取られて投げられてしまう。


「さてさてどうでしょうかね。今日はこれまでにしましょう。アリーザさんのところに顔を出して来てください」

「はい」


 今は聞かれても答えられない感じな様なのでそれ以上追及せずに医療棟へ向かう。


「やあジンおはよう! 今日もアリーザの着替えはもう終わってるよ!」

「何なんですその俺に対する偏見は……。アリーザさん具合は如何ですか?」


 シスターの相変わらずの挨拶は適当にツッコミを入れ、ベッドの傍にある椅子に座ってアリーザさんの様子を窺う。まぁ彼女の体調が悪いような感じはしていない。例のシンラの発言が無ければ無罪放免とはいかないまでも自由になっている筈だ。


ここに居るのは様々な理由によるものだし、その理由の一端を話しても居るだろう。そして彼女もある程度の理由は分かっている。個人的には気晴らしに冒険でもと誘いたいところだが司祭たちが何も言わない以上言えない。


「体調の方は大分良いです。今からこの国を一周しても良いくらいには元気ですよ」

「それは凄い」


 アリーザさんのジョークにシスターも含めて笑い声が上がる。


「もう少し様子を見て本当に何も無ければギルドの宿屋にでも移って貰って構わないかもね」

「そうですか!」


 笑顔で声を弾ませるアリーザさん。俺も笑顔で頷くが、事はそう簡単ではない。未だにシンラ関係の問題は解決はしていないし、王様のあの言い方からしてこのままはいそうですかとはならないだろう。

 





読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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