鍛冶屋見習い!
「割引してもらうって話だったけどどれだけ割引してくれるか聞いておけばよかった」
「親父さんが大きく割引してくれるとは思えないけどね。あそこにある商品はかなり良い物だからインゴットを防具屋に持ち込んでも、そこから商品になるまで手間暇を考えると微妙かも」
「おいおい、なら何で掘りに行けなんて言ったんだ? それならギルドで依頼を受けている方がマシじゃないか」
「あー、俺は多分無理だったかも。前回の件でギルドと町と国が色々協議してるっぽいし報酬について」
「なるほどな……となるとここはアイラの家で修業して、副業で鍛冶屋をやるか」
「そんな簡単に鍛冶屋にはなれないけど、手伝いしてくれるなら手伝い料出しても良いよ」
「出来れば防具が良い」
「コウガ……アンタ欲出し過ぎじゃない!?」
三人で笑いながら町へと戻り、町営の畑へと向かう南西の壁際にある一軒家の前でアイラさんが足を止めた。
「あまり広くないけど気にしないで入って」
「お邪魔します!」
何故か礼儀正しく大きな声で言い頭を下げてから入るコウガ。俺も同じようにして続いて入る。部屋は二十畳くらいあり金床や工具に造りかけの防具が所狭しと置かれていて、生活に使うような調理器具や木のテーブルなどが目立って見えた。
「取り合えず中庭まで行こう。ここは作業場と言うか最終工程場と言うかだから……」
ちょっとバツが悪そうな感じでそそくさと奥へと運搬用一輪車を押していくアイラさん。後に続くと長い庇を超えた先には家と同じ高さの窯が置いてあり、その傍に置かれている道具たちも製鉄所と似ていてさながら小型製鉄所のような場所になっていた。
「この窯を熱してインゴットを溶かして作るのか?」
「大雑把に言うとそうだね。剣を作る場合必要なインゴットを入れてある程度まで柔らかくした後で出して、この金床に乗せた後で大槌で叩いて鉄を強くする。防具の場合はパーツ毎に少しずつ作っていくので時間が掛かるから余計価格が高いんだよね」
「となると俺たちも地道にそれをやるしかないってことだな」
「出来る訳ないでしょ素人なのに。均一に叩いて行かないと強度にムラが出るしそんな防具着てたら危ないでしょ?」
「じゃあどうするんだ?」
「経験を重ねて行く他無いね」
何とこの日からアイラさんの工房で鍛冶のバイト兼修行をすることになった。コウガはギルドで仕事を受けられるんだからと言ったが、技術を身に付けておけば役に立つから一緒にやると言う。
「ジン、言わない方が良いか迷ったけど」
「何か?」
「その胸元に居るのをこの籠の中に置いといたら?」
アイラさんは近くにあった木の皮で編んだ籠を手渡してくれた。そう言えばと思って胸元を覗くと相変わらず気持ち良さそうに寝ているシシリーさん。ここのところ寝すぎでちょっと心配だ。って何でバレたんだろうか。
「えーっとその……」
「大っぴらにする必要は無いけど、隠さなくても良いよ。基本妖精は他種族とは敵対するような行為はしてもあまり交流しないもんなんだけどね」
「そうだな。子供とはよくつるむと言うからジンは子供に近い変な存在なのかもしれん……まぁ知らない子供の為、良く分からない敵を相手に命を張る様な人間は大人じゃないからそうなんだろうが」
「お前も気付いてたのか!? と言うか何だその言い方お前も大人とは言えないだろう?」
「いや俺は大人だぞ? 仲間を養ってたからな」
「盗賊で養ってた奴が偉そうに」
「何だと!?」
「何だやるのか!?」
そこから取っ組み合いになるもお互いに徹夜なので大した動きも出来ず、相手の右頬に互いに拳を叩き込んでそのまま倒れた。
「あーそう言えば徹夜だったね今日は。でもまぁ今から寝ると変な時間に目覚めるし軽い仕事を夕方までしていきなよ」
仕事させられるんだと思いながら上半身を起こし溜息を吐きながら立ち上がる。ぐっすり眠っているシシリーをアイラさんから借りた籠に寝かせて作業に移る。
窯の左横に穴があり、そこへ向けて細い土管が飛び出ていて更に奥に水車が回っていた。近くを生活用水路が流れていて常時回っており、その流れを利用し水車が回っている。そしてその力を使い風を起こして窯に流れ込ませる構造になっているようだ。
近くにあった砂時計で時間を計測し、その間に道具を近くに持って来て準備をする。そしてアイラさんの合図でインゴットを大きなペンチのようなもので取り出し金床へ置く。アイラさんは大槌を振り上げリズム良く叩き始めた。
ある程度広がると指示があり俺は大きなペンチを使って裏返したり位置を直したりする。コウガは砂時計を見ながら声を上げ、インゴットを出したら次のインゴットを入れる係だ。
幾つかそれで仕上げた板を今度は加工していく。脛当てと篭手の加工を今回はするというのでそれを見せて貰う。最初板を湾曲させ凸凹した石の上に置くと小槌で叩いて行った。
「おぉ……これで模様が出来るのか」
「無表情はちょっとって言う客もいるから付けてるんだよ。別にこれで防御が上がる訳じゃないんだけどね」
「これだけだと薄くないですか?」
「あまり厚過ぎても重くて動きが鈍くなるし、斬れず貫かれずってのをメインに据えているからね。この後ろに皮を当てて装着しやすくしていくんだ」
「鍛冶屋は皮革職人でもあるんだな」
「まぁ何でもやらないといけないからね」
こうしてこの日は篭手と脛当ての為の加工を夕方までして解散となった。
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