製鉄所のウルオカさん
「おお、貴方はジン殿ですな!」
「どうもお世話になります!」
全然誰だか分からないけど元気に挨拶する。一々戸惑うのも相手に失礼なので、しっかりと挨拶することにした。見ると体毛が濃く耳が頭の上に付いていて独特な髭が六本ピンと生えている。鼻も口も祖先の影響を色濃く残していた。辛うじて少し肌が見えてる目の辺りの皺と言うかクマに親近感を覚えるので年齢は近いのかもしれないな。
「私は狼族のウルオカと申しまして、ここの製鉄所の所長を務めております。今後とも是非御贔屓にしてくださると幸いです。何しろこういう仕事は人が少ないので鉱石を掘って持ち込んでくれるのはとても助かります」
「だよねぇウルオカくん。やっぱり重労働だからね鉱夫は」
アイラさんが腕を組んで目を瞑り大きく頷いて同意を示すと、ウルオカさんも同じように同意を示した。ウルオカさんの腕は逞しく、俺なんかよりもよっぽど鉱山掘りで役に立つように見えるが無理な理由があるのだろうか。
「そうなんですよね……僕ら狼族を始め獣系族は鼻が敏感だったり湿度が高い環境があまり得意では無いので、洞窟と言う環境に居続けるのは厳しく人間族の方に頼りっぱなしです。なので現地でも外での運搬や町へ運ぶ仕事が主になっています」
そうだったのか。通りで鉱夫には人間ばかりで他の種族は居なかった訳だ。確かに嗅覚が鋭いとあの籠り切った環境では鼻が可笑しくなりかねないなとは思う。
「人間族は一つ飛び抜けた所がない代わりにオールマイティだから強い。環境の変化に対策を立てて対応出来る。昔のエルフやダークエルフもそこを恐れて迫害したり閉じ込めたりしたんだろうね」
「そう思います。我々の中でもそれに気付かず未だに人間族を敵視している連中も居ますが、殆どが共存の道を選んで今に至ります。」
人間族を敵視している人たちと聞いて思い浮かんだのは例の善を滅する者のウィーゼルだ。暗闇の夜明けに協力しているみたいだったし、そう言う人たちは繋がっている可能性がある。
町に居るならそっちの線から探せるんじゃないだろうか。こっちとしてはずっと絡まれるのも面倒だし、手を打てるなら早い方が良い気がする。
「敵視している人たちって町には居ないんですか?」
「居るには居るんですが、表立ってそうだとは言わないので確証が無くて中々難しい。こっそり悪い話等を流布したり互いに自然と憎しみ合うよう仕向ける作戦を取っていますからね。我々としても困っていますが、この国は上層部にも獣族がおりますので彼らがしっかり見てくれていると思います。多くの種族が入り乱れても種族的な差別なく自由に暮らせる国は希少なので、皆で護ろうって言う意識が強いですからね」
そう聞いて安心するよりも、何やら嫌な予感がしてならない。人間が暗闇の夜明けと繋がるよりも、死霊使いたちのような特権意識の強い者たちの方が繋がり易いだろう。シンラも人間で無くなった訳だし、人間の為にどうのと言う意識も無い筈だ。
「何か心配事でも?」
「いえ何でも! ウルオカさん、これからお世話になると思いますが宜しくお願いします!」
「こちらこそ宜しくお願いしますね! ジン殿の話はここシオスの町だけでなく城下町でも噂になっていますからね。頼りにしてますし楽しみにしていますよ」
そんなところまで噂にならなくても良いのになぁと思いながらもお礼を言って握手を交わすと、ウルオカさんは窯の方へと戻って行った。と言うか初めて町の名前聞いたなそう言えば。
「さ、向こうでインゴットの準備が出来たようだから受け取って防具屋に戻ろうか」
アイラさんに言われ、俺たちは入口から見て左の方に向かう。そこにはカウンターがあり計量器なども置かれていた。アイラさんはインゴットを一つずつ見て確認し終わると、カウンターの上にある紙にサインして運搬用一輪車にインゴットを乗せていく。
「割といい感じで取れたな」
「そうだね。鉄だけじゃなく銅や錫石も取れてたからこれで小さなものなら色々造れる。だけど鎧一つは無理かも」
「取り合えず分け前は半分ずつで良いか?」
「私は構わないよ? 二人がもし鍛冶やって見たいなら教えるよタダじゃないけど」
そう言われて運搬用一輪車を押しながら考える。個人的にはガンプラを大人になって初めて作った時にはあまりの出来にガッカリしたが、鍛冶だと意外な才能があるのかもしれないな。何をしても良いならいっちょ挑んでみようか。
「教えて貰おうかな?」
「良いんじゃないかな!」
何かマリノさんがジッとこちらをみていたので視線を向けながら呟いてみると、笑顔で大きく頷きながらそう言った。
「よし、じゃあこのまま私の工房まで行こうか。親父さんには悪いけどまた後でってことで」
「うんうん! 私からお父さんに伝えておくね!」
そう言ってマリノさんは俺たちを置いて元気に走って防具屋に戻って行く。何だか楽しそうで良いなぁと思いながら後姿を見送っていると、例の割引の話の詳細を聞き忘れていたことに気付いて呼び止めようとしたが、かなり飛ばしていたようでもう小さくなっていたので諦めざるを得なかった。
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