死霊使いたちの撤退
ガイラと互いに隙を窺いながら後ろの話を聞く。鉱石と言うワードに思い当たる物がある。恐らくアイザックさんが俺のリュックの中に入れたやつだ。この二人は何らかの方法で外に無いと確認してからここに来ているんだろう。
そうなると向こうのネズミと言うのはこちら側に居るんじゃないか? 何やら大分きな臭い感じになって来たな。装備を改める為に鉱山まで来ただけなのに、更に面倒なことに巻き込まれた気がしてならない。今更ながら最初に子供声が言っていた標的が纏めてってのも気になるし。
俺とコウガは分かるがアイラさんまで狙うなんて何があったんだ? ダークエルフっていう種族だからってだけとは思えない。とは言えまだ知り合って間もないから突っ込んで聞いたりもまだ出来ないので、その内それとなく聞いてみるか。
「こっちが逃がす理由は無いけど?」
「別に構わないよどっちかが死ぬまでやり合っても。こっちはそっちの誰でも一人殺せば戦力に出来るから有利になるし」
「反魂して支配する術をそんなに乱発出来るなんてどうなってるんだか……アンタの命も無事じゃ済まないよ?」
「命を玩ぶなって言うなら今更だろ? エルフもダークエルフも人間を飼育して酷い実験を繰り返して来た。それを無しには出来ない。人間は知らなくても僕たちは知っている」
「罪を自覚しているのにまだ増やそうって言うのかい?」
「罪ではない権利だ。僕たち支配層のね」
アイラさんが会話をして時間を稼いでいるが、相手の出方が分からなくて攻めあぐねているだろう。逃がさず捕らえたいが、こっちもガイラとか言うのを押してはいるが倒しきれてないので難しい。
「支配層なんてまだ夢見てるのか……寄る辺も無いテロリストに成り下がっているのに。まぁ死んだ鉱夫は知り合いなんでね。仇は取らせてもらう」
「そうか。本当に癪に障るが仕方が無い。奥の手をだす」
「あっ」
驚く声が聞こえたと同時にガイラは近くにあった入口へ続く穴へ一目散に駆けていく。お互い隙を窺い見合ってはいたが、変な力は入れず何時でも対応出来るようにして居たので体力の回復が出来ていた。あの人に体力なんて概念があるかは分からないけど。
個人的には追いたいが、外には鉱夫さんたちが居る。下手に追うと全員ゾンビ化されて大惨事になってしまう。それに目的の鉱石って言うのが例のアイザックさんが入れた物なら態々渡す羽目になり兼ねない。不確定な要素が多すぎる状況で深追いは悪手だ。
「おい良いのか逃がして」
「そっちこそ」
「また姿を消す魔法を使われた。解除する前に気配はそっちの穴に消えて行ったし仕方ないね」
「腹立つな! 何で魔法を使う奴なんて居るんだ!?」
逃げたのを確認して振り返ると、アイラさんとコウガが並んで立っていてコウガが物足りない感じなのか突っかかって来る。だがコウガも深追いは悪手だと分かっているので適当な組み手をしてお互いの消化不良を解消する。
それにしてもコウガを追い回していたウィーゼルもネズミがどうのって話をしていたし、あっちも大分中がゴタゴタしているようだ。大して人数も居ないだろうに混乱してどうするんだと思わなくも無いが、こちらにとっては有利なのでその間に少しでも整えておきたい。
「取り合えず帰ろうか。ここに居ても何も無いしもう朝だし」
「アンタ切り替え早いな」
コウガとの組み手がひと段落し向き合い礼をして終えると同時にアイラさんが声を掛けてくれる。ここに居ても収穫は無いのは確かで、鉱石を掘ろうにもこちらも短時間睡眠しか取ってないので効率が悪い。暗闇の夜明けの残した物もなさそうなので、帰った方が正解だろう。
恐らく時間を掛けずにここを調べに町か国から派遣されて来るだろうし邪魔にもなるだろう。
「そりゃそうだよそんなのに構ってるほど暇じゃないんでね。生活費を稼ぐ為に防具を作らないと」
「確かにな。と言うか武器は作らないのか?」
「作らなくは無いんだけどね……ちょっと私のセンスが独特過ぎて……売れないんだ」
少し肩を落として答えるアイラさん。数回しか会って無いが強気な印象の彼女がしょんぼりするのを初めて見るので、余計その独特のセンスで売れない武器に興味が湧いて来る。
「是非今度見せて下さいよ。良ければ買ってみたいです」
「いいよ別に無理に見なくて……」
「俺にも見せてくれよ。生憎新しい得物が欲しかったところだ。使えそうなら買いたい」
「ジンは金あるだろうけど、コウガは金持ってるの?」
「俺のスポンサー様であるジンが持ってる」
「誰がスポンサーだ!」
一頻り笑った後、周囲を注意しながら身支度をして運搬用一輪車を押しながら入口まで戻る。行きはまだしも帰りは荷物が増えてるしそれが石なもんだからかなり辛い。
「おうお帰り」
やっとの思いで陽の光の下に出たと思ったら、アイザックさんの気の抜けたような調子の言葉に出迎えられ疲れがドッと押し寄せて来る気がした。
「お疲れお疲れ。大活躍だったみたいだな」
「嫌味かい?」
「とんでもない。奴らの目的はなんだって?」
「……何でアンタが奴らだって知ってるんだ?」
「え? ああ鉱夫から聞いたんだよ二人いるみたいだって」
真顔で言うアイザックさん。こっちはそんな訳が無いのを知っているが、これ以上追及しても何も出ないだろうし面倒なので、俺たち三人は黙って通り過ぎ運搬用一輪車を馬車の近くまで運ぶ。
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