作られし者
相手の詳細が分からない状況で肉弾戦を仕掛けても、不測の事態に対応出来る程まだ強くないし特に今は一対一。シンラを退けられたのもイグニさんの捨て身や皆のフォローがあってこそだ。となると俺が取るべき最善の行動は
「喰らえ!」
風神拳しかない。本日二発目の風神拳を至近距離で放つ。両足でしっかり踏ん張りながら下がらないように堪える。相手は壁と風圧に挟まれ握っていたナイフを落とし壁にめり込み始める。だがそれでもアイラさんたちに向かって行こうと諦めず藻掻いていた。
風が止んで解放され壁から崩れ落ちる様に両膝を付くも諦めず、アイラさんたちを目指し這うように進むローブの人物。俺は再度風神拳を叩き込む為に構えを取る。
――くっ……お前如きに手の内を明かすなんて……ガイラ! 力を解放しろ!――
子供の言葉に呼応するようにローブの人物は背を丸めた後、両手両膝で思い切り地面を突き天井まで飛び上がった。どんな体の構造してるんだと呆れていると、蹴りを放ちながら降りてきたので横へ飛び退く。
さっきいた場所には新しい穴が出来ていて、鉱夫さんたちは大喜びかもしれないなブランチマイニング的になどと思ってしまう。
「二人とも早いところ頼むよ。化け物がフルパワーで来た!」
「分かってる!」
そう遠くない筈なのに見つからないっていうのはどう言う事なんだ? 魔法でも使ってるのか? ……そう言えばコイツらシンラの仲間じゃないか!
「アイラさん! 魔法で身を隠すのってある!?」
「……あるね。ちょっと待ってな……」
そう言うと次の瞬間笛を鳴らしたような音が洞窟に響き渡る。目の前の男がキョロキョロと辺りを見回し始めた。姿を消しているから主の場所が分からないのか? リンクしている訳じゃないとなると体に何か埋め込まれててそれで縛られてるんだろうか。
「悪いがここは通さない!」
「グオオオオオ!」
ローブの人物はおっさんの声で雄たけびを上げると、左右に高速でフェイントを掛けて俺を抜かそうとして来た。だがそうはいかない。これでも司祭に毎日鍛えられてるから多少のフェイントには引っ掛からない……ってしまった今日も鍛錬があるんだった。
「通さないって言ったぞ!」
「グアアア!」
嫌なものを思い出したせいで一瞬隙が出来たが当然逃がさない。ボディへ一発入れた後、返しのフックを避けて顔面に一撃。怯んだところを再度ボディへ掌底を入れて押し戻した。体を解す為少しアウトボクサーのようにステップをする。
「俺は何時まででも構わないぞ? お前が倒れるまで付き合ってやるぜ!」
小細工は諦めたのか愚直に突進して来たので、気を拳に纏わせ素早く顔面、喉、鳩尾と連打する。それでも止まらないのは分かっていたので、身を屈めながら懐へ入りつつ背を向け腕を取り
「おぅらっ!」
一本背負いしながら回転し元居た方向の地面に叩き付ける。師匠にも司祭にも化勁と言う相手の力をコントロールする鍛錬を重点的に教えて貰った賜物だろう。じゃなかったら相手の物凄いパワーに押されてとっくに突破されていた。
「キェエエエエ!」
フードが取れ現れたのは継ぎ接ぎだらけのスキンヘッドで細面の人物だった。目を赤く染めガタガタの歯を見せあわよくば噛みつこうと向かってくる。ホラー映画さながらの場面だったが、村での光景を見ていたのでそこまで驚かずに済んだ。
「うぉおおおお!」
こちらも押される訳には行かないので声と手数を出し応戦する。最初無視して組み付こうとして来たが、やがて駄目だと悟ったのか一歩引いて打ち合いに応じる姿勢を見せた。まともに貰えば骨が折れるだろう拳を避けながらこちらも打ち返していく。
「見つけた! お前か!」
「ンヴァアアアアアア!」
背後でアイラさんの声が上がると継ぎ接ぎ男は跳躍するが、俺も同時に飛び上がり拳の雨を浴びせる。しかしそれを喰らいながらも引こうとしない。こんな召使がいたからこそあの子供声のやつも余裕だったんだろう。
「下がってもらうぞ! 風神拳!」
こっちだって余裕は一切無いが通せない。力を振り絞り風神拳の構えを取り素早く突き出す。練りに練った一撃では無いから全力より威力は劣るが、それでも風を起こし継ぎ接ぎ男を押し戻した。全く後ろの状況は分からないが二人に任せて俺はコイツを抑え続ける。
「どうやら僕らも騙されたようだね……まさかあの男がこんなに強いなんて聞いて無い……!」
「今更泣き言かい? 見苦しいね、坊や!」
「泣き言? 違うねアイラ・ゲーベル。お前とそこの奴は評価通りで間違いないと思うが、あの男に対する評価は改める。僕は賢いからね、野良犬と言えど犬種があるのを知っている。ここで見つかった鉱石を取って帰るだけの仕事にまさかお前たちが来るなんて聞かされても居なかったし」
「ここで見つかった鉱石? 何の話だい?」
「……どうやら餌に釣られてノコノコ誘き出されたのは僕らの方だったのか。どうりでシンラの計画が上手く行かなかった訳だ。何せネズミが居るんだからね」
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




