死霊使いの陰
子供の様な声が何処から来ているのか探すも全く見つからない。こんな狭い場所で隠れられる場所なんて無いのに一体何処から。
――お相手してあげて鉱夫屍――
その声が聞こえた後、周りの穴からほぼ骸骨のようなゾンビが現れた。ダボっとしたスラックスのみを履いて手にはピッケルを持ち、唸り声を上げながら迫ってくる。
「どうやら行方不明者は見つかった様だな」
「みたいね……ゾンビにするなんてえげつない真似をする」
「ひょっとすると村を襲った暗闇の夜明けの仲間かもしれない。コウガもアイラさんも気を付けて」
――いやぁ嬉しいよ僕は……何しろ標的揃い踏みで一気に楽できそうなんだからさ――
「言うじゃないかクソガキが。俺たちを倒せるものなら倒して見るが良い。まぁコッソリ陰から召使にお願いするような坊ちゃまじゃあそれも夢の中だけでしか叶わないだろうがな!」
――そうか、なら一番最初に小物で部下を殺されたのに楽しそうに暮らす元首領を殺してあげようね。その後に裏切り者で最後はジンだ――
「裏切り者? 私は子供の御遊戯会に名を連ねた覚えは無いんだけどね。人違いじゃないのかい?」
――人間に媚び諂い仲良く暮らすダークエルフなんて裏切り者以外なんだっていうんだい? アイラ・ゲーベル――
「ガキみたいな声だけど、どうやらジジイみたいだねアンタ。思考が古すぎな上に凝り固まっていて化石そのものだね」
アイラさんの皮肉の言葉が終わるや否や鉱夫屍たちが変な角度に足や腕を曲げながら飛ぶように近付いて来た。俺とコウガは素早くアイラさんより前に出てそれらを処理する。
「しまった!」
何とか組み合わない様にして暫く戦っていたが、コウガの足元に転がっていたゾンビがまだ動いて足を掴みその隙に一体通り抜けてしまった。フォローに入ろうとするも今度はこちらにゾンビが多く来てしまい間に合わない。
「アイラさん!」
何とかゾンビを吹っ飛ばし急いで向かおうと振り向くと、アイラさんに向かって行ったゾンビは糸が切れたように危害を加える前に膝を着いて倒れてしまった。何が起きたのか分からず一瞬きょとんとしてしまったが、コウガに声を掛けられハッとなり向き直って向かってくる相手を殴り倒す。
「私は大丈夫だから二人は雑魚をお願い、私はその間に」
アイラさんはいつもの落ち着いた声でそう言った。俺は言いかけて止めた後に続く言葉を想像し指示通り雑魚を殴り倒していく。
「おいどうしたんだ小僧! 俺たちは誰も倒れてないどころか傷一つ負ってないぞ!? このまま逃げたんじゃママに叱られるんじゃないのか!?」
コウガはナイフを左手に、右手に剣を持ちゾンビを切り刻みながら挑発をし出す。それに反応するかのようにゾンビの動きも激しくなったが、もう数も居ないのか損傷したゾンビは碌に動けなくなったいたので、残ったゾンビが奮闘するも停止を速めただけだった。
――くっ! 何故元盗賊の首領如きを倒せないっ!――
子供の金切声が響き渡る。こうも響いてしまうと何処から声が来ているのかさっぱり分からない。ゾンビは数を減らし残り僅か。このままでは逃げられる!
「コウガ、これは受け持つから探せ!」
俺はそう叫ぶと残り三体となったゾンビの前に、風神拳の構えを取りながら躍り出る。ゾンビの後ろは丁度入口に続く道だ。陽の光の下、且つ操ってる者から遠く離れて居れば動かない筈。
「風神拳!」
放置された道具と共にゾンビは穴へと吹き飛ばされていく。後方は二人に任せて俺は前方を注意深く見る。散らばっていた石は壁に当たったり他の穴に飛んで行ったりしていた。師匠に比べれば風の強さはそうでも無いが、洞窟の中なら十分驚かせられるだろう。
――クソっ!――
どうやら洞窟内に居て風の影響を受けているらしい……恐らく前方のどれかの穴だろう。探し出すなら今しかない。何処だ……何処の穴に居る? こちらの状況が見えているのだからそう遠くには居ない筈だ。
「出てこないならある穴に片っ端から放つしかない!」
奥へ逃げた可能性も想定し入口横の穴の前に移動し風神拳の構えを取る。
「ジン、危ない!」
アイラさんの声がしたので急いでバックステップすると、例のワインレッドのフード付きローブを着た人物がナイフを持って振り被り飛び掛かって来ていた。その人物を見るとローブから出ているナイフを持つ手は筋骨隆々の男の腕だ。声と体がまるで一致しない……となるとコイツじゃない!?
「二人とも気を付けろ、二人組かもしれない。俺はコイツを何とかするからその隙にもう一人を!」
「分かった、ジンはそいつを頼む。コウガ、私たちはもう一人を探すよ!」
「了解だ」
「っつあ!」
二人の気配が移動し始めた瞬間、前に居たローブの人物は姿を消した。だが気配は追えるので捕らえて側面に向けて飛び蹴りを放つ。反応して刺そうとして来たがこちらの方が早く、クリーンヒットして壁に激突した。
不気味にも叫び声一つ上げず膝を付き肩で息をしている。もう一人が見つかると不味いのか俺は眼中に無いらしく二人が居る方向を見たままだった。
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