せめて安心安全を
「どうか俺に平和と安らぎを」
「何だいきなり? ポエムでも始まるのか?」
「いやぁここのところ巻き込まれるのが多くてさ」
「今更思ったのか? 俺からしたらお前は町に来た頃からよく巻き込まれるなと思っていたが」
まさかコウガにまでそう見られていたとは驚きを隠せない。やれやれだなと思って溜息を吐き、緩やかな下り坂を運搬用一輪車を押して進んでいると突き当りぶつかる。そこを左へ直角に曲がりまた緩やかな下り坂を進んで行く。
「ここは中間地点のようだな」
暫く下っていくと天井が高く広い場所に出た。そこには使い込まれた一輪車やピッケルなどが散乱していて、鉱夫たちはここで休んだり荷物を一時置いて更に下へ向かって採掘しているんだろうなと言うのが見て取れた。
「こっちかもしれない。枠が新しい」
アイラさんは広場周りに開いている幾つかの穴の中で、降りて来た穴から左へ壁沿いに言った六つ目の穴を覗きそう声を上げた。コウガと共にそちらへ行って見ると、確かに他の穴と違って枠に使われている木の色が明るい。
「取り合えずここから当たって見よう」
「そうだな。俺たちとしては鉱石が手に入れば新しい穴でもそうでなくても構わないしな」
穴の中を進んで行くと入口近くの道と違い削りが荒いように見える。アイラさんが気になって所々枠の下で止まり、腰に付けていた金槌で叩いて押し込んだり釘をポケットから出して補強したりしていた。
「アイラさん凄いですね、移動しながらでもチェックして補強するなんて」
「凄くは無いよ、補強しないと自分の身が危ないからさ。特にこの国に来る前は人目を盗んで鉱山に入るしか方法が無かったから、身を護る為にも枠がどうなってたらしっかりしててとか言うのを見て学んだ」
「他人に頼れず一人で生きていく為にはどんな小さな事でも学ばなくてはならない。良い環境に死ぬまで居られれば良いが大抵そうはいかないし、学ぶなら早い方が良い。大人になってから痛い目に遭うと取り返しがつかないこともあるしな」
「私は大人になってからこの国に来て良かったと思ってる。今まで学んだ事を生かせる上に感謝されるしね。勿論以前勝手に入った鉱山の人たちには悪いと思ってるからいつか恩返しをしたい」
「迫害されてたんだろ? そんな必要はないんじゃないか?」
「それがあったから今があるんでね……っと二人とも着いたみたいだ」
掘りかけの場所に到着すると、所々赤い色の岩が見えた。アイラさん曰くこれを多く取って帰り製鉄すると言う。俺とコウガは掘るのはやるから指示して欲しいとアイラさんに頼み、彼女から赤い岩のところをなるべく避けて掘って欲しい、掘る場合も斜め下へ向けて掘る様に言われたのでその通りに掘っていく。
「やはりお前は凄い奴だな!」
「そっちこそ!」
俺の場合は元の世界よりパワーが上がってるからガンガン掘れるのは分かるけど、コウガはそれに負けず劣らずのスピードで掘っているので驚く。こんなになるまでどれだけ鍛えて来たのか、いつか聞いてみたいものだ。
「二人ともストップ」
振り返るとアイラさんが赤い岩を掘りながら回収しているが大分距離が離されていた。そして一旦元の位置に戻り、赤い石を回収するのを手伝う。運搬用の一輪車一台が満杯になったのでアイラさんと共に広場に戻る。
「取り合えずこの壁際に積んで行こう。布を被せておけば勝手には取らない」
「不用心だな」
「他に方法が無いのもあるけど、こんな狭い界隈で誰かの鉱石を盗んだとなれば直ぐに知れ渡るし、そうなるとここには居られなくなる。そんなリスクを冒すよりも自分で掘った方が安全だって皆知ってるからね。鉱山で掘るのは必ずしも安全じゃないから、信頼関係が無いと命にも関わるし」
「なるほど」
コウガは盗賊団が消滅し町に来てから色々珍しいらしく、素直に口に出すが相手の説明も素直に聞く。それを見て異世界から来た自分のように思えてとても親近感が沸いた。
「何だ?」
「いや、素直に納得するなと思ってさ」
「そんなのは当たり前だろう? 盗賊の知識なら誰にも負けないが、知らない分野では子供のようなものだ。知ってる者から聞いて知識を蓄え擦り合わせをする。そうでなければ意見など出来まい」
「確かにその通りだ」
「私から言わせたら二人とも素直だと思うよ。特にジンは親父さんに何度も引っ掛けられてそう」
「何度も引っ掛けられたら駄目だろ、学習しろ」
「す、すいません……」
つい情けない声が出てしまい、コウガとアイラさんは吹き出し俺自身も笑ってしまった。その後も採掘を繰り返し、製鉄用の石以外に銅や錫石も採掘してた。やがて運搬用一輪車と食料などを消費して空きが出来たリュックへも詰め込んで一杯になり、帰ろうとしたところ上の方から賑やかな声が聞こえて来る。
「あれ、もう朝?」
「おうアイラさん、と新しい人二人だな。管理官から聞いてるよ。おはようさんもう外は朝だ。流石にお化けの類は出てこないだろうな」
――それは呑気だね――
「皆下がれ! 何か来るぞ!」
コウガの声に頷き俺は荷物を下ろして敵に備える。アイラさんは鉱夫の人たちに入口へ戻るよう促した。
――あれ、見て行かないのかい? 君たちの仲間をさ――
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