胡散臭い男
「上には報告したが、暗闇の夜明け事件で人手が足りないのか誰も送ってくれないので突っ込んだ調べが出来ない。だが事件があったのは間違いない思う。先日、ある鉱夫が仲間数人と共により深い位置で採掘する場所を作る為、掘削し木枠を嵌めたりしながら進んでいた。で、目標地点に到達し振り返ると自分以外誰も居なくなっていて、怖くなり逃げて来たと言うんだ」
その後話を聞いたアイザックさんは他の鉱夫と共に現場に行って見たが、辿り着くまでの間もくまなく探したが何の痕跡は無かったらしい。だがその日以降一緒に行ったと言う鉱夫は、家族などに確認した結果戻っていない
のは間違いないと言う。
「いきなりキナ臭いじゃないか」
「何だか楽しそうな顔してるなジン殿の連れの旦那……まぁ楽しそうで何よりだ。ここは出入り口は一つしかないのに何一つ見つからない。どうやって出て行ったのかさっぱり分からない。一人ならまだしも複数の大人の男が居なくなってるってんで、皆気味悪がって奥まで行こうとしない。だから今ジン殿たちが奥で採掘するなら取り放題だぞ?」
「その口振りと顔からして私たちに何とかして貰おうと思ってるんじゃないか?」
知らずに笑顔になっていたのか、アイラさんに指摘され慌てて真顔に戻るアイザックさん。まさに渡りに船って感じか。親父さんの台詞からしてそう簡単に貰えるものじゃないっぽい感じだったしまさか……。
「どうやら気前良く採掘許可書をくれたのも相手に下心があったとは考え過ぎかな?」
コウガの言葉に苦笑いして返すより他無い。冒険者になった覚えはあっても何でも屋になった覚えは無いのになぁ。親父さんも絡んでないことを祈るばかりだ。
「採掘するのは私たちの力によるものだし国から許可を貰ってる。だが事件は別だ」
「分かってるよ俺は仮にも一応管理官でここの責任者だ。お前たちの上前を撥ねるような真似はしない……と言うか出来んだろう? 救国の英雄たるジン殿が居るんだ嘘ついたってバレるんだ割りが悪い」
アイザックさんはそう言いながら兜を外し右脇に抱えると、声を上げて一人で笑った。そしてこちらの冷たい視線に気付き笑うのを止めた後、茶色のボサボサな頭を左手で整え始めた。
「なんで兜を脱いだんだ?」
「覚えておくと良いよ? 彼は嘘を言う時はああいう分かり易い動きをする癖がある」
俺とコウガに手招きし近くに来たところでアイラさんはそうコソッと言った。本当にアレは癖なのかな。
「嘘を言っているのはどの辺りだ?」
「上前を撥ねないって点だと思う。事件が解決すれば自分も一枚噛む腹だろうさ。アイザックは悪い奴じゃないんだけど基本こすっからい奴なんだよね……」
右手をおでこに当てて溜息を吐くアイラさん。見た目からして清廉な騎士では無いのは分かるが、憎めない人ってのも分かる。気象の荒い人たちとも付き合いながら仕切るのは清廉な騎士では無理だろうし。
となればあの癖も嘘で、こちらに被害が無い程度に噛んでくる可能性が高い気がする。だが変に期待されても困るから釘は刺しておかないと。
「あのーアイザックさん」
「な、何でありましょうかジン殿!」
「俺は別に特別な能力がある訳じゃないんで謎を解明できる自信はないですよ?」
「全然問題無いです! ジン殿が来たと言うだけで十分であります!」
急に背筋を伸ばし敬礼しだすアイザックさん。何だか胡散臭さが面白くなってきてしまった。
「別にジンが来たところで何も無いと思うけどね」
「ジン殿が行っても何も無かった、という報告が出来るだけで俺にとっては有用でね。シンラを倒した男が採掘している場に誰も来ないなら、それ即ちもうここに用は無いってことでがんす」
「口調が可笑しい」
間髪入れずにツッコむアイラさんに対してアイザックさんは笑って誤魔化している。今聞き間違えじゃ無ければシンラを倒したって言ったけど、そんな情報がこんなところまで漏れてるのは何だか変だ。あの話はそれこそコウガも知らない筈のものなのに。
生活品だけでなく冒険者の装備にも鉱石は必要だし勿論軍にも必要不可欠。そう考えれば鉱山管理官と言うのはかなり重要なポジションだから知っていても可笑しくはない……のだろうか。一筋縄じゃ行かない人なのは分かるけど、あの事件の後だからか余計怖いなぁ。
「まぁ行くなら早い方が良い。あまり遅いと朝出勤の鉱夫たちと鉢合わせる。そうなると鉱山は大渋滞で出るのも大変だぜ?」
「アンタが変な話をするからじゃないか! だったらさっさと荷物チェックしてよ管理官!」
「へいへい……っと」
アイザックさんは素早くリュックや夜食の袋を開けて見ていく。最後の俺の荷物を見て閉じようとした時、素早く何か光る物を入れたのを見逃さなかった。
「はいチェックオッケーでござんすよ! 気を付けていってらっしゃいまし!」
「あ、あのアイザックさん」
「はいはい言われなくとも気を付けるよ。ほらジンもコウガも行くよ!」
「これを借りていくぞ」
「どうぞどうぞ」
アイザックさんに俺のリュックに入れた物を問いたかったが、アイラさんに腕を引かれて荷物の場所まで連れて行かれ準備するよう顎で指示され従う。その後小屋の脇にあった運搬用一輪車とランタンを一つずつ乗せ入口まで移動する。
「何かあった時のお守りだから気にしないでくれ。戻って来たら回収するから高い物だし」
アイザックさんは俺に近付きそう小さな声で告げた。視線を向けるとウィンクしたのを見てゲンナリしながら山へと入って行く。もうあからさまに巻き込まれるなこれはって分かる。俺は何時からこんなに巻き込まれ体質になったのだろうか。
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