ヨシズミ国の王様
「陛下、お連れしました」
「どーぞー」
男にしては高めで大きな声が中からして、シンタさんは扉を開ける。展示会場のような広さの一番奥に、背もたれがとても高い椅子がありそこに誰かが座っていた。その人物に近付いて行き、ある程度のところで止まり膝を着き首を垂れるシンタさん。
俺も急いで横へ移動し同じような態勢を取る。頭を下げた後こっそり上目使いで見ると、赤を基調とした煌びやかな装飾が施されたウェストコートに太ももがダボっとしたスラックス、膝まである茶色のブーツを履いていた。
「隣に居るのがジンだな?」
「はい。今回の件で国の為尽力してくれたジン・サガラで御座います」
「国の為? そりゃ違うだろ。ジンは自分の為にやったんだよ。お前たちは何か腫物みたいに扱っちゃってさ、駄目だよな自分の知らない者が来るとビビッて陰に隠れて悪口言っちゃうの。失礼だよね折角助けてくれたのにさ。相手から見ればコッチも知らない奴だっての」
とてもフランクな感じに高い声で抑揚をつけ捲し立てた。あまりにも調子が面白くて小さく笑ってしまう。
「ジン殿」
「あー良いの良いの。俺も低い声になりたいんだけどさ、無理じゃん? 今更。それに嘲笑じゃなくて面白くて笑えるような国じゃないなんて御免だね。恐怖政治って言うの? そういうのさぁ合わないよ俺には」
「陛下」
「はいはい。ジン、面を上げてくれ」
そう言われて面を上げて見る。目の前に居る人物は、物凄い癖毛の金髪で青い瞳がぎょろっとしており、背もたれ部分がとても高い金の椅子に座っている。その目も癖毛もインパクトがあるが、何より眉毛が卵焼き乗せてるのかってくらい太い。
「初めましてだな、ジン。俺はこの国の王様でゲマジューニ・ヨシズミだ、宜しくな! お前はこの国では自由だ、俺の調子で面白くて笑うのも自由。だが俺の国民に手を出すなら俺も俺の自由を行使する。それを覚えておいてくれりゃ俺としては問題無い」
「陛下、それは大雑把過ぎでは?」
「良いじゃんそれで。細かい事は俺の頼もしい家臣がしてくれる。王様として俺がするのはそれじゃない。いついかなる時もなるべく信念を曲げず、何かあれば責任を取ることフォローすることだしジンは初対面だからな。知ってもらいたくてそう言ったんだ。俺が一番大切にしてるのは国民だし」
「不躾ながら一つ伺いたいことがございますが宜しいでしょうか」
「ジン殿、お控えなさい。まだ陛下の話が」
「良い良い! 何でも聞いてくれ。答えられる範囲は答えるから」
「ならば。この度の暗闇の夜明けの件で国の上層部に彼らと繋がる者が居ると聞きましたが、御承知でしょうか」
「承知してる」
少し低い声でそう言うとふぅと息を吐く陛下。この感じだと憂いてはいても処分は難しいって感じかな。
「ジン、この世ならざる者は知っているか?」
「はい」
「今は直接ここまでは来ていないが、来れる距離に陣取ってる。アイツらが移動するのかどうかは現在の所誰にも分からない。そんな状況な上に俺の国は先祖代々敵に攻められた回数はあまりないし戦らしいものも殆どしてこなかった。要は怖いんだな、皆。得体の知れないものが近くにあるだけでなく、戦った経験が無いっていうのがさ。それを取り除きたいっていうのも人情じゃない?」
「それは分かりますが」
「その言い方はまだ俺の国を分かってないな。この国の老若男女、誰の記憶にも戦は無いが外の世界は戦争や内乱でしっちゃかめっちゃかになってる。それを聞いてる訳よ長い間。そうなるとさ、人って小さな事でも過剰に怯えちゃうんだなこれが。うちでもそれが切っ掛けで他国と同じようになるんじゃないかってな」
「毒を以て毒を制すのも致し方ない、と」
「残念ながら暗闇の夜明けと繋がってしまった事で厳罰を下すのは難しい。何とかしたいと思ってしたことだし、その切っ掛けは村の方が先に招き入れていたところからだしな」
「その村の件ですが確かに彼らにも責はあったでしょうが、ゾンビにされ皆殺しにされる程のものだったでしょうか」
「ジン殿、お控えを。僭越です」
「良いから良いから。ジンは報告して来た現状を見て処理したんだ。聞く権利がある。村の件に関しては悪いが補償や補填をするつもりはない。何故なら彼らは俺の国民になるのを拒否し、自分たちの国を俺の国の中に勝手に作ったからだ。俺の死んだ親父も費用を出すから元の国に帰るよう言ったんだがな」
「それでは暗闇の夜明けを使って彼らを処分したとみられませんか?」
「だから? 俺は神様でも聖人でも超人でも無いし、この手で護れる範囲の者しか護れない。拒否して俺の国民に迷惑が掛からない範囲で勝手にやる分には捨て置いたが、逆恨みした上けしかけてこられては俺としても許しようがないのは事実」
その言葉を聞き、王様はしっかりと報告を読み状況も事情も理解した上での回答だと思った。この人は自分の信念であの村と関係者に何もしないと言ってるんだから問いようもない。
「ゴブリン襲撃の件に関しては、怠った者たちに対して処分をしたが証拠が足りない者たちに関しては何れ必ず処分をする」
証拠に拘るのはシンラを探したい者たちと、確実な証拠を突き付けて処分したい者たちという両者の思惑があるのかもしれない。それにしても声のトーンや見た目に騙されちゃダメな人だなこの王様。町長があんな命令を受けても町長をし続けているのが分かる気がする。
「陛下にお願いしたいのですが、今回の件以前から町長は村と何とか繋がろうと懸命にやって来られました。事件においても自ら先陣に立っておられます。跡地の件、御考慮頂ければ幸いです」
「……良いだろう、村の跡地を墓地と公園にする件はシゲン・タチに任せる。それでゴブリン襲撃時のこっちの不手際はチャラにしてもらう。勿論費用は国持ちだが俺が譲れるのはここまでだ。補償までは出してらんないよ俺の国民が必死に払った税金で他国の人間を救う訳には行かないっしょ」
「陛下、そろそろ」
「そうだな。大分サービスしたしな。シンタ、くれぐれもジンを咎めるなよ? 僭越かもしれないが彼の功績は大だ。本来なら式典をやるレベルであるにも拘らず、事件をまだあまり大々的にはしたくない俺たちの情けない都合でやらないのだ。本来そっちの方が失礼なんだぞ? そして冒険者ギルドとの折衝はお前がするように。国民ががっかりしないよう褒美をしっかり出せよ? ではまた会おうジン、期待している」
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