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消耗した防具

コウガの冒険者登録をする為町長と共に冒険者ギルドを訪れると、ミレーユさんは笑顔だったけど、米噛辺りに血管が浮き上がっていた。それを見てそう言えば町長がギルドの許可が下りたら呼ぶと言っていたのを思い出す。


「す、すまん……急に色々起こってしまってな」

「緊急事態は分かりますが、ジンは冒険者であって国の私兵ではありません。こちらとしても擦り合わせが大変なんですよ?」


 真顔になり淡々と告げるミレーユさん。そのまま町長と一緒に奥の部屋に連れて行かれ、事務手続きの大事さやギルド憲章について厳しく教えられた。道連れになってしまったコウガ首領に謝罪すると、反応が可笑しくしどろもどろになり問題無いという。


取り合えずこれで暫くは暇になると良いんだけどなと淡い期待を抱く。何しろここ数日の仕事に関しては報酬が無い。出るは出るが町と国とギルドで値段について揉めていて、出るとしてもかなり先だと言われた。


蓄えはあったが装備の整備代などで大分失ってしまった。サガとカノンにルキナの宿代なども出しているので直ぐにお金が入る仕事をしないとと思い、正直言い辛いがミレーユさんに仕事をと言うと


「明日にして頂戴」


 とビシッと言われてしまい肩を落としてギルドを出る。


「まぁ元気を出せ。俺が付いている」


 無一文の元盗賊の首領に肩をバンバン叩かれながらギルドを出て宿へと戻り食事を集られる。当然宿も入れないのでギルドの宿に泊まらせてもらう。ジョルジさんから、サガとカノンは町長の家に今日は泊まると聞いたので、コウガ首領を別の部屋に押し込めてから部屋に鍵をかけ、いつの間にか寝ていたシシリーをバスケットのベッドに寝かしてから眠りに就いた。


翌朝、シシリーが起こしてくれたらしいけど起きられず、鼻を摘ままれて目を覚ます。どうやら俺が目を覚まさないのは諦めたらしく、優しく起こしてくれたと本人は言う。息が出来ないのも大概だと思うのだが。


「今日は防具屋に寄ろう」


 皮の鎧を着て見ると、肩当てと胸当てのベルト部分などが少し緩くなった気がする。腰当も脛も大分擦れたりしている。メンテナンスを自分でやっていたが、ここ最近厳しい戦いを共に潜り抜け体を守ってくれた皮の鎧のダメージを回復させるには、素人より専門家に見て貰った方が良いだろう。


「うぃーっす」


 サガとカノンを追い掛けていた時の威厳ある男は何処へやら。食堂で口の辺りの頭巾を顎に引っ掛けながら食事を頬張る元盗賊団の首領、コウガ。他人の金で食う飯は上手いと朝から煽る辺り仲間の件は吹っ切れたようで何よりだ。


共に食事をした後、教会に行ってから町長の家に顔を出すがどうするかと問うと自分はギルドで職探しして来ると言うので別行動になった。流石に他人に奢られ続けるのは寝覚めが悪いのだろう。


「おはようございますジン殿。アリーザさんももう目覚めて朝食を取っていますよ」


 教会に着くと入口にティーオ司祭にそう言われたので、食堂へ顔を出すとアリーザさんとシスターが楽しそうに話をしていた。お邪魔するのも悪いと思い顔を見てそのまま礼拝堂へ戻る。


「そんなに気を遣わなくても良いのでは?」

「いやぁアリーザさんはこれまで自警団の男たちに囲まれて居たでしょうし、同年代の女性とああして楽しそうに喋る機会も少なかったでしょうから、出来ればその時間を大切にしてあげたいなと思いまして。しかもそれを邪魔するのがおっさんと言うのも救いがない」


 そう言うとティーオ司祭は楽しそうに肩を震わせ笑った。何が面白いのか分からないが、ご機嫌が良いなら今日の鍛錬は優しくして貰えるかな。司祭が笑い終えると長椅子を片付けシシリーを下ろしてから礼拝堂での鍛錬が始まる。


「有難う御座いました……」

「また明日」


 淡い期待は常に裏切られるものである。と言うか昨日より酷い目に遭った気がするが気のせいだろうか。ボロボロになりながらも教会から防具屋へ移動する。


「何だおめぇか」


 防具屋の入口を入ると直ぐに親父さんが居た。相変わらずの親父さんに苦笑いをしつつ皮の鎧のメンテナンスを頼む。奥へ移動し脱いでから見て貰うと


「流石評判の冒険者の防具だなぁ。そんじょそこらの冒険者とは消耗の具合が違う」


 片眼鏡を付けて点検しながら親父さんはそう呟く。クリームを塗って撫でたり裁縫道具で縫いを強化してくれたが首を傾げて唸っていた。


「買い直しですか?」

「うーん、お前さんのこれから次第かな。見れば分かるがこんな使い方する奴がブロンズ初級な訳が無いんだよ。明らかにそれ以上のクラスの使い方だ」


 親父さんが言うなら間違いない。防具屋には毎日お客さんが来ているし、メンテ中であろう防具もカウンターの奥を見ると沢山置いてあった。


「ブロンズ初級に相応しい仕事を受けているなら問題無いと」

「どうだかな。おめぇは女子供だけじゃなく悪い奴にもモテそうだからな。体を護るという点を考えればもう鉄の鎧くらい考えた方が良い気がするが。何よりその篭手がそれを証明している」


 そう言われて篭手を見ると多少傷は付いていても壊れてはいない。手の周りも破損していないからこれは本当に優れモノだと分かる。


「お前に押し付けた盾もそうだが、良い物は値が張るだけある。安い物は作る手間暇も材料の厳選もある程度省いたからこそ価格も抑えられているんだ。上位の冒険者は金を得る為の道具を厳選し投資を惜しまない。それが秘訣と言っても過言では無いだろうと俺は思う」


 親父さんの言葉に頷く。とは言え今日々の生活費などを消費し残金は六百六十ゴールド。町と国に協力した分は後で貰えるとしてもまだまだ先だしな……どうしたものか。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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