事件の後始末と不穏な影
急いで兵士は町長の家を飛び出し町へと走る。かなり時間を掛けて帰って来た兵士から宰相閣下の伝言で、直ぐにでも出発してそれを見たいと言うのを聞きこちらも準備して待つ。町長はコウガ首領に殺された仲間たちの人相書きを選ばせ、ゾンビが居た際にはそれを見せ宰相閣下自身にも確認させると言う。
「シゲン・タチ、本当かねそれは」
町長の家の前に煌びやかな装飾を施された馬車が停まり、その窓が開くとそこから司教冠を模した真っ赤で煌びやかなものを被った皺の多い御爺さんが顔を出す。そして町長が近付くとそう尋ねたので頷き案内しますと言うと頷いて窓を閉めた。
「あれは?」
「この国の宰相閣下だ。くれぐれも無礼の無いようにな」
町長や首領と共に馬車に乗り宰相閣下を先導すべく前に出て、殺害された仲間が埋められた場所を目指す前に一旦今の村の現状を宰相閣下に確認してもらうべく、元村のあった場所を目指した。
「何ということを……」
到着すると元村だった場所の近くを何故か数体のゾンビがうろついていた。皆が困惑している中、窓からそれを見た宰相閣下は自ら扉を乱暴に開け飛び出し降り立つと、そう嘆く。
町長は国が望んでいた証拠を突き付けるなら今だとすかさず人相書きを見せて、ゾンビの顔を確認させる。ゾンビになったと言ってもまだ殺害されて間がなく、ほぼ生前と変わらないところが多いので直ぐに該当者が見つかり宰相閣下は手で顔を覆うと首を振った。
「シゲン・タチ、証拠はしかと確認した。普通に死んだだけでゾンビになるならこの世はゾンビだらけ。そして我々にはそんなものを生み出す技術は無いが、お主たちの報告が確かなら……いや愚問だな。シンラが悪しき者そのものになったのなら手段があっても不思議ではない」
宰相閣下の言葉に町長は頭を下げる。正直その言葉を聞いてホッとした。この国の有様からして認めずにこちらに罪を被せようとして来るかと思ったが、まだまともな判断が出来る人は居るようだ。
「宰相閣下」
「おおクライド、お主も来ていたのか。まさか私がシゲン・タチに罪を被せようとしているのではないかと疑っていた訳ではあるまいな」
暗い森の中から一人の人物がこちらに歩いて来たので警戒していると、その人物はフードを取り傅く。よく見ると背中に大きな剣を背負っているクライドさんだった。牧場以外で会うのは初めてだが雰囲気がまるで違う。
穏やかな表情は無く、故あれば斬ると言う殺気を感じた。宰相閣下はそれを感じていないのか毒づいて見せ、クライドさんがゆっくりと立ち上がったので固唾をのんで見守る。
「まさか御冗談を。陛下の御意により細かな捜索を行っていたのですが、こちらに動きがあったので来たまで。町長たちは……なるほどコウガ殿の協力を得たのですな」
そう牧場に居た時の様な笑顔になり腰に手を当てながら答えた。殺気を感じたんだけど気のせいだったのだろうか。
「シゲン・タチに連れられてここまで来たが、しっかりとした証拠が見れて何よりだ。他にも証人が居た方が硬いので、引き続き探す様に」
宰相閣下はそう告げるとそそくさと馬車に戻ってしまう。これ以外にまだ証人が必要とは。誰もが首を傾げたくなる気持ちで居たが、ゾンビをこのままにはしておけないので町長は兵士の一人を教会へ走らせ、宰相閣下には御戻り頂く。
「良く来てくれたクライド殿、正直なところ助かった。ゴネられるかと冷や冷やしてたのだ」
「国家の一大事ですからな。流石にゾンビまで出て来てご自身の目で見られた以上、宰相閣下と言えど難癖付けられますまい。一応私も確認しましたが、ゾンビのうち一人は村を監視させていた我が国の密偵が居ましたので、間違いなく陛下の周辺からでは御座いません。宰相閣下の御言葉と態度をそのまま信じるなら彼でも無い」
「暗闇の夜明けの兵力としてその近くに居た者たちを見境なくゾンビにしたか。コウガがゾンビにならなかったのは運が良かったのかもな」
「彼らも時間が無くコウガ殿を倒しきれないと見て諦めたのだと思います。イグニ殿が彼の部下に依頼してそう時間も経たない内に背後から襲撃。コウガ殿はウィーゼルを相手に奮闘していましたが、その隙に死霊使いによって処理を施され埋められた」
死霊使いと言うのはその名の通り死霊を操る魔法使いで、竜神教では元々禁忌とされている魔法を使用している。何処からそれが伝わったかと言うと、何とエルフの里かららしい。
ヤスヒサ・ノガミによって統一された大陸ではエルフとの共生も成ったが、この大陸では上手く行かずまたダークエルフとエルフも紛争を繰り返しているらしい。その結果人口は減り続け、両者とも死者まで使いだしたと言う。
「ダークエルフの里が滅んだと言うのは」
「まぁ因果応報だろうな。彼らは暗闇の夜明けにも積極的に協力し、死霊使いもダークエルフなのではと言われている。恐ろしく強いので顔を見た者は居ないがな」
「まぁ何にしても奴らの凄い技術の御蔭で奴ら自身の犯行だと立証出来て何よりだ。我々は次に何か起こるまでは鍛えるのを怠らず居ようじゃないか。コウガ、お前が望むなら我が町の冒険者として生計を立てると良い。恐らく奴らはティーオ司祭やジンをそのまま放っておかないだろうからな」
その後ティーオ司祭やシスターが来て共にゾンビを殲滅し、土に埋めて皆で祈りを捧げた。町長は一応国に村の跡を改めて墓地と公園にする案を出しているという。流石に人はここには住めないだろうけど、そうすれば弔いも出来るし村の人たちも寂しくないだろうとも言った。
突然命を奪われ化け物として利用されてしまった人々の魂が少しでも安らかになるよう、改めて祈りながらその場を後にして町に戻る。
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