コウガとかまいたち
森を歩いていると木陰からボロボロになったコウガ首領が現れ驚く。村が襲われた時にイグニさんが盗賊に町長への連絡を頼み、それを伝えに行く途中で殺されてしまう。息を引き取る間際に発見し話を聞くと、親分が危ないので村へと言われて行ったが見当たらず暗闇の夜明けに殺されてしまったと思っていた。
「何とか首の皮一枚繋がっている感じだ。暗闇の夜明けたちが居なくなったから出て来たのだが甘かった」
「暗闇の夜明けに消されたと思っていたが生きていて何より」
「それはどうかな。言っただろう? 首の皮一枚繋がってるって。木陰に一旦隠れよう」
そう言われてサガとカノンを連れて木陰に隠れる。何があるのかと思っていると、ヒュッと言う音がして隣りの木が倒れたのでコウガ首領を見ると、首を竦める。ボロボロになった原因はどうやら木を倒したものにあるようだ。
コウガ首領は敵の強さに一人では対処不能と考え、プライドを投げ捨てて町に助けを求めに来たと言う。サガとカノンは学校の郊外授業で偶々森に居た所ばったり出くわし、俺への伝言役を頼まれて引き受けたようだ。色々思う所はあれど、育てて貰った恩を感じそのお返しをしたんだろうな。
サガとカノンの肩を強く抱きしめ二人に笑顔を向けると、二人とも微笑みながら頷いた。俺が居る以上二人に手出しはさせない。確実に相手を倒す為にも先ずはコウガ首領が知っている相手の情報を聞き出さないと。
「相手は誰なんだ? あれは何かの技か?」
「相手は恐らく暗闇の夜明けだと思うが距離が遠くて分からんし、技もこれまで受けた覚えの無いもので不明。剣で弾こうにも完全に弾き切れんでこの様だ」
コウガ首領はどう考えても初めて対峙した時は俺より強かったし、師匠に鍛えて貰った今でも互角に戦えるかどうかといった強さの人物だ。その人をボロボロになるほど追い込むかまいたち? のようなものを放つ相手とは一体どんな人物なんだろう。
「虫の息だった盗賊から聞いたが、イグニさんから救援を呼ぶよう頼まれただけだったはずだ。それがここまで追われるとは何か秘密を握っているのか?」
「部下を全員殺した奴からも同じことを聞かれたが、そんなものは何も聞いていない。そう何度も言ったんだが信じて貰えなくてな」
サガとカノンは元仲間が全員殺されたと聞いて俯き涙を流す。元仲間たちが憎くて抜けた訳では無いし、抜けるまで一緒に生活していた人たちだからショックは大きいだろうな。二人の元家族を殺した相手を何とかしたいし、ひょっとすると落ち着けばコウガ首領は何か思い出すかもしれない。
細かくその辺りを聞く為にも攻撃して来る相手を何とかしないと。相手の姿が見えないこの状況で遠距離攻撃を連発されれば何れ隠れるところを失い逃げるタイミングも失ってしまう。全員は無理でもサガとカノンだけでも先に逃がそうと考え、二人に急いで町に戻り救援を呼んで来てもらいたいと頼み、その間引き付けて前に出るとコウガ首領に視線を向けながら言う。
これは二人を逃がす為の方便だ。救援なんて来た日には死体の山が増えるだけだと首領も分かっているだろうから、二人で倒すぞと言う意図を込め視線を向けた。察してくれたのか首領は二人に視線を向けてから俺を見て頷いたので、俺も大きく頷く。
「コウガ首領、手助けするからこっちにも協力してくれよ」
「要求による」
「この状況で長々と条件交渉するのか?」
風を切る音がしたので咄嗟にサガとカノンの肩を抱いてしゃがむと、頭の上をかまいたちのようなものが通り木が切れた。コウガ首領も間一髪でしゃがんで居り、もうここより前には木が少なくなっているんだろうなと察し小さく笑い合う。
「最早選択肢は無いか。良いだろうある程度は協力してやる」
交渉成立と見て俺は人差し指を立て自分を指さしてから前を指さす。首領が頷いたのを確認してから盾を下ろし立ち上がり前へ出た。さっきかまいたちのようなものが飛んで来た方向へ走りながら周囲を見ると、やはり木が殆ど薙ぎ倒されている。
恐らく視界を確保する為に薙ぎ倒しているんだろうが、これを追って行けば相手の所へ辿り着けるんじゃないか?
「ジン! 前!」
周りに人が居なくなったのでシシリーが胸元から少し顔を出しそう叫んだ。盾を前に出し持つ手に力を入れ体を低くする。ガン! と岩でも当てられたかのような音がしたが何とか斬られずに済む。流石不死鳥騎士団の盾。魔法をカットしてくれる優れものなのに、タダで貰えたのは本当にラッキーだった。盾を下ろして周囲を伺うも、まだ敵の姿は見えない。どれだけ離れた距離から攻撃してきてるんだ。
「斜め右奥!」
「了解!」
シシリーが目を閉じながら頭を動かしつつ指示をくれたので向きを変えて走る。目以外を使い敵を探してくれているのだろう。シシリーと知り合えて協力して貰えたのもまた運が良い。幸運を感じながら進んでいると、敵に近付いているのかかまいたちのようなものの数が増して来きた。流石に前を見ながら走っていては斬られてしまうので、盾を前にして突っ込む。
「今!」
「喰らえ!」
シシリーの合図で盾を左へ薙ぐと同時に不完全ながら風神拳の構えを取り放つ。
「あらそんなのじゃアタシは倒せないよ? 三味線でも弾いてるのかしら」
力は込めたし踏み込みもしっかりした。だがあっさり細く綺麗な手で受け止められている。その人物は、巫女服を着て顔の左半分を白いお面で隠した金髪で釣り目の美人だった。丸い耳が頭の左右斜め上から生えており、口から見える長い犬歯からして人間ではなく獣人なのだろう。
「お前がかまいたちを放っていたのか?」
「へー、かまいたちが分かるのかい? それはまた珍しいね。お前何者だい?」
「俺はジン。ここの冒険者だ」
「お前がジン殿か!」
受け止めた拳を乱暴に振り払い、目を見開き歯を剥き出しにして蹴りを放ってくる。体が泳ぎながらも何とか盾でそれを防ぐと、相手は更に盾を蹴り距離を取った。防いだと言うのに手が痺れている……直撃していたら骨折では済まないだろう。とんでもないな獣人は。
「少し聞いていたのと違うねぇ。どうやら報告に齟齬があるようだ。こっちにも鼠が居るのか?」
「何を訳の分からない話をしてるんだ? 逃げるか?」
「……情報は正確に、だ。アタシの信条とのズレがある以上戦闘の続行は不可能。引き揚げさせてもらうわ」
「シンラに怒られるんじゃないのか?」
そう言うとニヤァッと微笑んでから声を上げて笑う。暗闇の夜明けにはまともに笑う人間は居ないのだろうか。
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