ダークエルフと魔法の過去
「ホンットお父さんてデリカシーないんだから!」
怒り冷めやらないマリノさん。ダークエルフというのが知られると何故不味いのか尋ねると、アイラさんとも付き合いが長いようでその理由を教えてくれた。彼女は竜神教大支部がある場所の近くの森出身だが、その森は暗闇の夜明けによる一般人への魔法伝授暴走事件によって吹き飛んだ国とも近く、その上ダークエルフが事件にも関わっていたようだ。
それによってダークエルフに対しても風当たりが強く、故郷も居場所も無くした彼らは塵尻になりなるべく種族が分からないような恰好をして生きていると言う。個人的にその事件に関係した者だけが悪いんじゃないかと言うと、歴史的な問題も関係していてそう簡単ではないらしい。
この星には太古の昔、魔法が当たり前に普及していたがある日突然失われてしまう。エルフとダークエルフは人間より総合的な身体能力は劣っていたものの、補って余りあるほど魔法の扱いに長けていた。魔法を武器に人間たちを良いように使い酷い行いも沢山していたと言う。
魔法が失われれば間違いなくやり返される。自らの行いを振り返りそれが返ってくるのを恐れたエルフとダークエルフは、自分たちのみを護る為に最後の魔法を使い閉じ籠り人間との関わりを無くした。人間は魔法を失いエルフとダークエルフの支配から逃れたものの、この星ではヒエラルキーの下に居たので立場は変わらない。
他の強力な種族から狙われ種の存続すら危ぶまれたそんな時、竜族のブラヴィシが人間たちを庇護し大陸の一つを人間たちの場所として確保した。その竜を崇めたのが竜神教の始まりだという。この星最強の竜の庇護を受けて人間たちは力を付け種を増やしていく。
更に時代が進んでもエルフとダークエルフは人と関わり合いにならないよう生きていたそうだが、例の異世界人ヤスヒサ・ノガミによってエルフは人との係わりを再開。悪竜となり星を滅ぼそうとしたブラヴィシをヤスヒサ・ノガミが倒し、それを切っ掛けに魔術粒子が星に充満し魔法を取り戻したと言われている。
しかし魔法を取り戻し急激な発展による弊害を恐れたエルフの代表マウロ・ハリス二世、ヤスヒサ・ノガミ、マスター・ドラゴンなどにより協議が行われ、魔法の使用を制限する協定が作られたそうだ。
エルフは過去の行いを反省し共に生きる道を選んだが、ダークエルフはつい最近まで引きこもっていた。にも拘らず暗闇の夜明けに協力したのは、自分たちの過去の栄光を取り戻す為だと言われているらしい。
そう聞くとダークエルフだと知られると困るのは分かる。ダークエルフの全てが過去の栄光に縋りたい訳では無いだろうし、普通に生きたい人も居るだろう。しかし最近起きた事件で呼び起こされた過去の恨みは簡単には晴れないかもしれない。身を護る為にはダークエルフと敢えて名乗らないのが今は良いんだろうなと思った。
「それにしてもマリノさんがこんなに詳しいなんて知らなかったから驚いたよ! 博識だね」
「ま、まぁこれでも昔は国の留学生として竜神教大支部がある国、シャイネンに一時期居たことがあるのよ! でも本当に少しだけだから!」
「国家選抜留学生様は頭の出来が違いますコトよ!」
親父さんがまた余計な言葉を言いに戻って来たので、マリノさんはお尻を蹴り上げお店の中に戻ってしまった。もう少し詳しい話を聞きたかったがこれ以上親子の問題に口を出すのはどうかと考え、冒険者ギルドで仕事を探すべく足を向ける。
「ジン、遅かったわね。町長が至急家に来て欲しいって」
行くなりミレーユさんにそう告げられその足で町長の家に向かうと、確認することもなく兵士の人たちにそのまま中へと通された。町長は既に待っていて早速昨日の件についての話が始まった。どうやら国は村が無くなった事態に戦々恐々としていて、早急に国の守りに関する再点検をすると言う。
捕縛した偽シンラに関してこれから尋問をし内通者の炙り出しや暗闇の夜明け対策も始めるそうだ。良い方向に動くと言う話だが、至急家に来て欲しいと言われてきたのでそれだけではすまないだろう。直接問うと町長は呆れたように息を吐き、少し間を開けて理由を説明してくれた。
「偽シンラは現在も口を割らず拷問にも耐えている。なので村が消滅してしまったのが暗闇の夜明けの所為であるという証言がもう少し欲しいらしい」
偽シンラについては以前から名前は不明なものの手配書が回っていたので確認は出来たが、国はもっと証言なり証拠なりがあるんじゃないのか? と言って来たらしい。兵士たちも報告書をまとめ、現場の兵士もティーオ司祭も報告しているのにと町長は首を傾げている。
国もそれは分かっている筈で、それでも町長に対し証言や証拠を要求していると言うのは気になる。上層部でシンラたちと繋がっている人たちが居るんだろうが、その人たちを逃がす為なのだろうか。いやそんな上の人たちが一斉に消えたら不味いだろうから急には無理だろうし。
「何の意図があるんでしょうか」
「考えたくは無いが時間稼ぎのような気もするな。国の上層部には暗闇の夜明けと繋がっていた者が居る。名も無いブロンズ初級の冒険者であるお前がシンラを倒したのが信じられず、その確認を取りたいのだろう」
「考えようによってはこちらにとって良いかもしれません」
「と言うと?」
「こちらとしてもシンラの生死は気になるところですが、こちらから言えばこっちで探せと言うでしょう。ですが幸いにして国が勝手に探してくれるなら乗らない手はないと思うのですが」
「……そうだな。では付き合ってやるか。但しギルドの了解を取ってからだがな。何しろお前を長く拘束している件に関してギルドも大分気にしているようだ。一応国の大事であるから優先されるのだが……まぁ実績とランクが釣り合わなくなるしその点を解消したいのだろう」
国の方針に逆らわず敢えて利用する方向で行こうと言って町長は補佐官などを入れて協議に入った。一介の冒険者があまり首を突っ込み過ぎるのも不味いと考え、僭越なので御暇しますと告げる。町長はギルドと交渉し纏まったら直ぐに連絡をすると言ったので頷き、その場を後にする。
ヨシズミ国の上層部と言う弱みを握れば国に王手をかけられるかもしれない内通者たち。そんな人たちを潰してまで確保したかったアリーザさんを、暗闇の夜明けがこのままにしておく訳が無い。何らかの手を使って確保を目指すだろう。だがヨシズミ国の警戒が強くなったとなればやはり国外へ連れ出すしかない。
それは暗闇の夜明けもこちらも分かっているので、アリーザさんの周りには警護が付くだろうし移動出来る範囲も限られてしまうだろう。村を出てもアリーザさんは一か所にしかいられないなんて不憫過ぎるので、一刻も早く暗闇の夜明けを潰して自由にしてあげたいな。そう考えながら先ずは生活費を稼がないとと思い再度ギルドへ赴くと、入口にサガとカノンが居た。
「どうした? 二人とも」
「あ! ジン!」
「こら、ジンさんて言え。ジンさん今時間ありますか?」
嬉しそうに駆け寄って来て抱き着くカノンと違い、サガは神妙な面持ちでそう言うので頷き散歩しながら話そうと連れ出す。直ぐに用件を言えないのは他人に聞かれたら困るからだろうし。
「ジンさん、このまま町の外に散歩しに行きませんか?」
何が起こったのか不安になるが、今のサガなら悪事に手を染めたりはしないと思うので了承しそのまま外へ出て森を散歩する。
「遅かったな」
「コウガ首領生きてたのか!?」
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