ダークエルフの鍛冶屋さん
「お疲れ様でした……」
「また明日!」
機嫌良さそうな司祭とシスターに送り出され教会を去る。何とかこれで少しでも成長し難しい依頼を受けられるようになると良いなと思うし、暗闇の夜明けみたいな悪い奴ら限定で近寄りたくないと思わせる存在に何れはなりたいな。
師匠くらい強いとそうなんだろうけど、まだブロンズで駆け出しの身分じゃそれも遠い。色々あって冒険者ギルドの依頼を受けられなかったし、騒動も一段落したんだからこれからドンドン受けてランクを上げよう!
「凄いやられてたけど大丈夫?」
椅子を片付ける際に回収していたシシリーが、いつものところから心配そうな顔をしてこちらを見ていた。自分の体の頑丈さを再確認するような荒い鍛錬だったので、シシリーが心配するのも無理はない。最初こそゆっくり組み手をしているので対応出来るが、次第に高速化していき対応出来ず最後にはカウンターを取られ続けて倒される。
教科書通りの攻め方をしているのか、迷いなく捌かれ速度が上がっても次どんな打ち方をするか知っているかのような動きをされてしまう。経験の差なんだろうけど悔しいな。
「大丈夫大丈夫。頑丈さだけが取り柄だから」
「確かにジンの体は何処も異常を感じないから本当に凄いわね」
その言葉を聞いてふとアリーザさんの話を振って見ると、シシリーは不思議な感じがしたと言う。敢えて言うなら自分たちに近いような感じがしたらしい。アリーザさんの父であるノマネクの依頼によってシンラがアリーザさんに掛けた魔法、心臓にある物。そしてシンラが口にした実験体と言う言葉。
死んだ人間の蘇生の実験をした結果、アリーザさんは成功したから執着してるのだろうな。そんな実験をしたのはひょっとして例の自分の所為で消滅した国を復活させようとしてるんじゃないだろうな。人間は一回死んだら元には戻らない。アリーザさんは上手く行ったかもしれないが……シンラは神様にでもなろうとしてるのか?
「ジン、どうしたの? 怖い顔」
「あ、ごめんごめん」
やはり生きているならどうしても俺が倒さないといけないなシンラは。他人の人生を玩ぶなんて誰でもしちゃいけない、力があるなら尚更だ。皆を護り中でも子供たちの未来を護る事こそ力ある者、そして大人の役目だ。
「おい兄ちゃん」
「え」
不意に声を掛けられ斜め前を見ると防具屋の近くに人が立っていた。見ると綺麗な浅黒い肌に赤い髪、美形な顔立ちの女性がこちらを手招きしている。バンダナを巻き胸に晒しを巻いてダボっとしたスラックスに草履を履いているその人に近付くと、俺の篭手を指さして
「ちょっとそれ貸してよ」
とニカッと笑いながら言われた。その鍛え上げられ引き締まった体を見ると冒険者の様な気がするが初めて見る人だ。流石に奥様から頂戴した篭手だしおいそれと見知らぬ人には貸せないので、大事な方から頂いた物ですので申し訳無いのですと断ると
「おいすけこまし、またか?」
中から酷い発言をしながら親父さんが出て来た。すけこましってこの世界に来て言われるとは思わなかったがそれはさておき、何処の誰がすけこましなのかと抗議した。だが親父さんはやれやれって感じのポーズをして取り合わない……何故だ。
「アイラ、コイツはジン・サガラ。町長のお気に入りで竜神教司祭に手解きを受けてる、今この町で一番目立ってる冒険者だ。ちなみに女癖が悪い」
「女癖が悪いって偏見もいいところですよ。一人で寝て起きて朝から晩までボロボロになってるからそんな暇もないのに」
親父さんの目にどう映っているかは分かったが、至った経緯が全く見えてこない。モテないから一人で居るのに何でモテてる設定にされているのか分からん。
「なるほどねぇ、これが例の」
えぇ……初めて会った人にまでそんな認識をされているのかと思うとショックで寝込みたくなる。そんなこちらをお構いなしに、アイラと呼ばれた女性は俺の両二の腕を掴み更に擦り始めた。何が始まったのか問おうとするも、今度は周りをぐるりと一周し元の位置に戻ると手を顎に当てて頷く。
「親方、この方は一体」
「ああコイツはアイラ、うちの店に納めてる鍛冶屋だよ。元々は竜神教の大支部近くにあるダークエルフの里生まれで鍛冶屋になりたくてこの町に来たんだ」
「別にダークエルフだなんて言う必要は無いんだよ、親父さんは一言余計だ」
改めてジッと見てもバンダナと髪に耳の先が隠れて居てエルフとは分からなかった。アイラさんは親父さんをひと睨みして去って行く。
「お父さんまたやったのね! 本当に懲りないんだから!」
「そうは言うがよ、別にダークエルフだって隠す必要無いだろ? この国で出自を気にしてたらやってけねぇ!」
「デリカシーって言葉、知らないの!」
「知ってられるかそんな言葉!」
中で御客さんの接客をしていたマリノさんがお客さんをお見送りする為出て来た。そしてお見送りが終わると即親父さんに足を踏み鳴らして近付きお尻を思い切り蹴り上げた。そこから親子で口論が始まってしまったので二人の間に入り宥めて距離を離す。
親父さんはフンと鼻を鳴らし、腕を組んで足音を五月蠅くしながら店の中に戻って行く。マリノさんはそれを追おうとしたので前に立ち喧嘩が再開しないよう防いだ。こういう時に親子喧嘩の経験が無いので、気の済むまでさせてあげた方が良いのか判断に迷ってしまう。
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