アリーザさんに掛けられた魔法
「ジンも家族が居ない?」
「そうだな。気が付いたら居なかった! だが今はサガもカノンも居るしそれに町の皆にシシリーもいるから一人じゃない」
皆に見つからないよう、いつものポジションである鎖骨と鎧の間に居るシシリーにそう答えた。確かにいつも一緒に居たベアトリスが離れる寂しさはあるけれど、今はもう一人じゃないから落ち込む必要は無い。
教会へ向かう道を歩くと少し強めの風が吹いて来て、少し肌寒く感じる。春が来てモンスターが活発になるとは聞いていたけど、この感じからしてまだ本番まで時間が掛かるのかもしれないな。日本の四季とどれだけ違うのかもこれから楽しみだ。
「随分とスッキリとした顔をしてますね」
あっという間に教会に着くと、にこやかなティーオ司祭に出迎えられた。久し振りにゆっくりした朝を迎えられたのでと言うと、切り替えられて何よりだと言われる。
「ああいう戦いがあった後は皆何処か鬱屈した状態になるものです。幾ら村の人たちを良く思わなかったとしてもね」
「す、すいません不謹慎で」
「いえ切り替えは大事です。それが出来ずに心身共に崩してしまう者が多いのですから、ジン殿は率先して示し元気付けて下さい。何しろ昨日の戦いではアリーザさんを救出しましたがこちらの損失は著しい。それにシンラは倒しても暗闇の夜明けは健在で、戦いはこれからと言っても過言ではありませんから。ですから」
トーンが段々低くなり、あぁこれはまた特訓なんだろうなと言う予感がした。正直口にしたくないが圧がそれを許さない。微笑んでは居るが恐らくティーオ司祭にとって退屈を忘れられる楽しい展開なんだろうなと察した。
「……修行ですかぁ?」
「嫌そうな声と顔で言うんじゃありません! 当たり前です修行です。貴方にはしっかりと我が武を収め暗闇の夜明けを倒して貰わねばなりませんからね。何しろ彼らは名前の通り人々の隙を突いて来る。一人でも多く戦力になる人間が必要です。何れは貴方にも人集めをして貰わねばならないかもしれませんから、今のうちにしっかりと叩き込んでおかないと」
熱弁するティーオ司祭。退屈な時代は過ぎ去り騒乱の時代へって感じで心躍っているのが丸わかりだ。俺は目を付けられてなければのんびり過ごしたいのになぁ……今更だけど。ベアトリスもアリーザさんも救いたいから救ったんだし後悔はない。しかし休暇は欲しい。
「まぁその前にアリーザさんに会って来て下さい」
「アリーザさんの調子はどうですか?」
「調子ですか……まぁ兎に角早く顔を見せて戻って来てください修行が遅れるので。医療棟にいますからね」
どんだけ俺に修行させたいんだと思いながら教会の中に入り医療棟を目指す。アリーザさんとは久し振りの再会を果たした後だからかちょっとドキドキする。この世界に来て初めて会った人だし助けられもしたし。今日ここにあるのもアリーザさんの御蔭だ。俺が助ける番になった時にしっかり助けることが出来て本当に良かった。
「おぉ来たか。残念だがもう着替え終わったぞ?」
「人聞きの悪い言い方止めて下さいよシスター。アリーザさん、調子はどうですか?」
一度だって他人の着替え中を狙って部屋に入った覚えは無いのに何て言い草だ。アリーザさんが勘違いしたらどうするんだと憤りつつ、ベッドで上半身だけ起こし手を口に当てて笑うアリーザさんに挨拶をした。
「ジン殿、貴方の御蔭でとても元気ですし気持ち良く目が覚めました」
「アリーザさんが元気なのが何よりです」
「彼女は元気だから心配ないよ。暫くここで体調を見させてもらってその後は通常の生活に戻って構わないだろうって兄様が言ってた」
「そうですか良かった……じゃあまた顔を出しますね。修行するらしいので早く戻らないと怒られそうなんで」
シスターとアリーザさんに見送られ教会の礼拝堂に戻る。もう少し喋りたかったけど、今話すと村とか自警団とかを思い出させて辛くさせてしまうかなと思って様子を窺うだけに留めた。ティーオ司祭は像の前で祈りを捧げて居たので長椅子に掛けて終わるのを待つ。
「彼女の様子はどうでした?」
「元気そうで何よりです」
「元気、ね」
意味ありげにそう言って、ティーオ司祭は俺の隣に来て座り大きく天井へ向けて息を吐く。あまり良い話ではなさそうだ。
「何処か悪いんですか? アリーザさんは」
「うーん悪いんじゃなくて悪かった、んですよ彼女は」
そしてティーオ司祭はあくまで自分の今のところの見解だけどと前置きした上で話してくれた。簡単に言うとアリーザさんは一回人間としての機能を完全に停止していると言う。その証拠に心臓が動いていないらしい。
どうも彼女の中に心臓に代わる何かがあり、それが血液を循環させているようだ。更に凄いのは体を活性化させ、再生能力が人間を超えるレベルにまで押し上げらている可能性があると言う。
「凄いですね」
「凄いですねとはまた呑気な。明らかに人を超えた存在になっている可能性があるんですよ? そうなれば実験体として手に入れたい者たちも出て来るでしょう」
「可能な範囲であれば俺が護りますよ。そんな凄い体になってもアリーザさんはアリーザさんなんでしょ?」
そう笑顔で答えるとティーオ司祭は呆れたように溜息を吐き首を振って立ち上がる。続いて立ち上がり二人で長椅子を一旦隅にどかし、司祭から見えないようにシシリーを隠してから組み手を開始した。相対した瞬間から殺気を放ち始める司祭。
これが実戦形式と言うやつかと思いながらなんとか防いで切り返してみるも、あっさりと掴まれ転がされる。この日はお昼までこんな感じが続きこってりと絞られた。
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